パリ郊外での実話を元にした映画『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』荒れた生徒をやる気にさせた女性教師の授業とは?【最新シネマ批評】

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[公開直前☆最新シネマ批評]
映画ライター斎藤香が皆さんよりもひと足先に拝見した最新映画のなかから、おススメ作品をひとつ厳選してご紹介します。

今回ピックアップするのは、フランス・パリの中でも、貧困層が暮らす郊外の高校での実話をベースにした感動作『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』(2016年8月6日公開)。世界中で絶賛され、2015年世界の各映画賞を受賞し、2016年フランス映画祭でも話題になった力作です。

本作に生徒役で出演しているアハメッド・ドゥラメが、自身の体験を映画化してもらおうとしたことから実現した作品で、ドゥラメはセザール賞有望男優賞にもノミネートされました。ではさっそくご紹介していきましょう。

【物語】

パリ郊外のレオン・ブルム高校の落ちこぼれクラスに歴史教師ゲゲン先生(アリアンヌ・アスカリッド)がやってきます。ガヤガヤうるさい生徒たちを一喝することなく、穏やかに「退屈な授業はしないわ」と語る彼女は、歴史の裏側や学ぶことの楽しさを伝えようとしますが、生徒たちは聞く耳を持ちません。しかし、ゲゲン先生は「歴史コンクールにエントリーしよう」と生徒たちに持ちかけ、テーマを「アウシュビッツ」と決めます。

生徒たちは「無理」「難し過ぎる」と反発しますが、ある日、先生は強制収容所から逃れてきた数少ない生き証人の男性を生徒たちの前に連れてきて、そのときのことを語ってもらいます。すると生徒たちに変化が訪れるのです。

【学ぶことの喜びに目覚める生徒たち】

教師が起こした事件に関する聞くに堪えない報道や、いじめ問題、モンスターペアレンツなど、あまりよろしくない教育の場の声を聞くことが多いのですが、そんな今こそ見てほしいのが本作『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』です。

フランスの郊外、様々な人種の生徒が集まったクラスはまとまりがなく、授業中でもうるさいくらい。そんな生徒たちの心をなぜゲゲン先生は動かせたのかというと、彼女は生徒を黙らせて自分の授業を聞かせようと仕向けたわけではなく、生徒たちに学ぶ事の大切さ、生徒たちにはみな平等に可能性があること、そして世の中のことを知る権利があることをしっかり心に根付かせたからです。

「どうせ自分は落ちこぼれだし〜」と思っていた生徒たちは、この先生についていったら「自分は変われるかも」「できるようになるかも」と思い始めるんですよ。そして「勉強すれば世界は変わる」と言うことに気付くのです。

いや〜もうなんて素晴らしい先生!自分もゲゲン先生の生徒になりたいと思いましたよ。

【脚本を執筆したのは物語に登場する生徒】

『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』が誕生したきっかけは、この映画にも出演しているマリック役のアハメッド・ドゥラメが、マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール監督のもとに「自分の脚本を読んでほしい」とメールしたことがきっかけです。

「彼は私の監督した映画を見て、私にメールをしてきたのです。その脚本には文科系コンクールのこと、このコンクールに参加させることで生徒を成長させた情熱的な先生のことが書かれていました。私は彼に経験したことを語ってもらい、この話を映画にしたいと強く思うようになったのです」

ひとりの若者のメールに真摯に向き合い、話を聞いて映画化を進めたマンシヨン=シャール監督。なかなかできませんよ、監督もゲゲン先生に似たタイプなのかもしれません。

「私は彼の”無関心主義に流されない”という姿勢に心を動かされ、ゲゲン先生のモデルになったアングレス先生と電話で話しました。先生は自分と過ごした1年間が彼に大きな影響を与えたことに驚いていましたよ」

【強制収容所の生還者役は、本人が自分の言葉で語っている】

生徒たちがいちばん心を動かされるのが、強制収容所の生き証人、レオン・ズィゲルの経験談に耳を傾けるシーン。

マンシヨン=シャール監督は本人が出演することにこだわったそうです。

「レオンは学生を前に自分の体験を話すことに慣れていて、それは彼の70年にわたる使命でもあります」

ちなみにレオンさんが語るシーンは、セリフではなくすべて彼の言葉だそうです。

このシーンで生徒たちの心は動かされますが同時に観客も心を持っていかれます。生徒たちと一緒に教室でレオンさんの話を聞いている気持ちになり、何とも言えない悲しみが胸に広がるのです。

【学校で学ぶということ】

『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』はフランスの学校でのお話であり、生活環境も移民問題も日本とは違うし、教育の在り方も違うのではないかと思う人もいるかもしれないけど、根本は一緒です。この映画を見ればわかります。やる気のないクラスの教室の騒々しさ、勉強がめんどくさく諦めている生徒たち、先生に反発することで思春期のイライラを解消している姿など、“荒れた学校・あるある” ですよ。

でもみんな道に迷っており、わからないのです。だから遊ぶ事ばかり考えているんですよ。だってその方が楽ですからね。

けれども、それぞれに歩むべき道があることを教えてあげれば、彼らの目は輝きます。それをこの映画は証明しているんです。

『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』は、いろんな世代の人が見て、感動できる映画です。無関心に流されずに前を向いて歩むようになった生徒たちの姿や、彼らを導いたゲゲン先生を見れば、可能性を信じることが大切だということがわかるはずですから。

執筆=斎藤 香(c)Pouch

『奇跡の教室 受け継ぐ者たちへ』
(2016年8月6日より、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー)
監督:マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール
脚本:アハメッド・ドゥラメ、マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール
出演:アリアンヌ・アスカリッド、アハメッド・ドゥラメほか
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