『東京屍街戦線<トーキョー・デッドライン>』(鏡遊:著、Daisuke Izuka:イラスト/KADOKAWA)

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「ゾンビもの+刑事もの」のハイブリッド作品ともいえる『東京屍街戦線<トーキョー・デッドライン>』(鏡遊:著、Daisuke Izuka:イラスト/KADOKAWA)が、「ノベルゼロ」から刊行された。舞台は近未来の東京・渋谷。ある医療福祉機構が不老不死の研究に失敗し、ゾンビのような存在“屍人(デッズ)”を生み出したことで、渋谷は屍人の街と化してしまう。その厄災はのちに“死の行進”と呼ばれ、災いは世界中に伝播していった。主人公・切牙鷹(さいが・よう)は、屍人に対抗するために設立された警視庁刑事部埋葬係の埋葬官として、増加する屍人犯罪に立ち向かっていく。

 切牙の目的はただ一つ。死の行進に巻き込まれた恋人を探し、厄災を引き起こしたとされるジョン・ドゥに復讐すること。ジョン・ドゥへの手がかりを探しながら、立ちはだかる屍人を狩り続けているのだ。屍人であれば相手が年端もいかない子どもでも、人間の恋人がいる男でも、悪態をつきながら容赦なく叩きのめす。一見すれば冷酷非道の不良刑事だ。ところが切牙は、屍人であれ人間であれ、その“生”に対してあまりに敏感に反応するきらいがあった。

 切牙は屍人に相対した際、「どう生きてきたか」を確認する。それは、屍人には人間と同様の知性を持ち対話も可能な“知恵ある者(トーカー)”と呼ばれる存在がいるからだ。屍人化した際、知性を持つかどうかは諸説あるとされるが、“知恵ある者”になる理由の一つに「生への執着」がある。死に際に「生きたい」、「やり残したことがある」と強く願うことで、知性を持った屍人になるというのだ。切牙が対峙する屍人は、まさに生きたいと願いながらも死に直面しなければならなかった者ばかり。圧倒的な力を持つ切牙は、ともすれば瞬時に屍人を屠ることができる。しかし、相手がどんな人間だったのか、彼ら彼女らのストーリーに踏み込んでいくのだ。その繊細さでときに思わぬ苦戦を強いられるが、いずれ劣らぬ人間臭いやりとりは本作の大きな魅力でもある。

 また、切牙は同僚や屍人に関わる人間の生にも執着しており、どんなことがあってもけっして死なせないという覚悟で人々を守ろうとする。その理由は、生きようとしても生きられなかった人間を何人も見てきたからだ。守り切れなかった恋人のこともそうだし、何より自分自身も生きられなかった。死の行進で瀕死の重傷を負った切牙は、屍人を生み出した技術の副産物によって生かされている人間でもある。その技術のおかげで身体能力も屍人と同等まで高まったが、同時に強大な力を乱用すれば屍人に近づくという宿命を背負ってしまった。自決の覚悟もしている、死にもっとも近い男だからこそ、誰かの生に固執するのだ。

 切牙が背負う重々しい設定に、ハードなストーリー展開が続く本作。それでもすんなりと読めるのは、会話の軽妙さがあるからだろう。切牙のバディとなるFBI捜査官クロードとの掛け合いで見せるシリアスさと軽薄さ、女性陣とのやりとりで見せるちょっとしたセクハラオヤジ感と優しい眼差しなど、絶妙なバランス感で人間関係が描かれていく。切牙が部下に料理をふるまうシーンなどもあり、読み進めれば読み進めるほど彼がわりとチャーミングな男であることがわかるはずだ。

文=岩倉大輔