『R&B馬鹿リリック大行進―本当はウットリできない海外R&B歌詞の世界』(高橋芳朗、宇多丸、古川 耕、TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」:編集/スモール出版)

写真拡大

「何言っているのかわからないから聴かない」――洋楽に馴染みがなく、あまり関心もない人の多くは「なぜ洋楽を聴かないのか」という問いに対してこう答える。たしかに、楽曲の好みや善し悪しを語る上で歌詞に込められた意味は重要だ。迷っていた時期に背中を押されたとか、失恋したときに心に染みたとか、思い出の曲は人それぞれだが、大抵はその歌詞に感化されていると思う。

 かくいう私は普段、洋楽ばかり聴いている。が、外国語はからっきしなので、歌詞の意味はまったくわかっておらず、タイトルの意味を辞書で引くのが関の山。日本盤の歌詞対訳がついていればパラッと目を通すものの、解説以外はほぼ読まない。

 もし、私と同じように「重要なのは曲そのものだ」と感じている洋楽好きがいたら、ちょっと認識を改めてほしい。本書『R&B馬鹿リリック大行進―本当はウットリできない海外R&B歌詞の世界』(高橋芳朗、宇多丸、古川 耕、TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」:編集/スモール出版)に出会い、私はCDケースに仕舞いっぱなしの歌詞対訳を読み漁った。日本盤より安価な輸入盤を購入した洋楽CDは、日本盤を買い直そうと本気で悩むくらい、洋楽の歌詞に惹かれ、楽曲の魅力を再認させられたのだ。

 この本は、ラジオ番組「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」内の特集企画「R&B馬鹿リリック大行進」の放送内容を再編集・再構成したもの。番組は、パーソナリティの宇多丸氏とヒップホップ/R&B専門誌の元編集者・高橋芳朗氏、音楽ライターで番組構成作家の古川 耕氏の3名を中心に、R&Bの歌詞を検証していくという内容だ。これだけ聞くと、番組は若干お堅いくらいの印象を受けるかもしれない。しかし問題なのは、登場する海外R&Bで歌われている歌詞の“無邪気さ”や“自由度の高さ”で、たとえば次のような実例が次々に繰り出される――。

「でかいロケットを持ってるんだ。キミのエアポケットに突っ込んでいくぜ」R.ケリー『セックス・プラネット』より。

――決してたとえはうまくない。その上、ひねりもない。そもそもアレをロケットにたとえる下ネタは、もはや小学生レベルでは……。しかし本書の中では、これもまだまだ序の口だ。

 本書で頻繁に取り上げられるR.ケリーは、1992年のメジャーデビュー以来、アメリカR&Bの第一線で活躍するシンガーソングライター・プロデューサー。2010年にアメリカのビルボード誌が発表した、「1985年から2010年の25年間で最もヒット曲を生んだR&Bヒップホップアーティスト50人」のランキングでは、マイケル・ジャクソンやマライア・キャリー、プリンスらを押さえて第1位を獲得したほどの人物である。

 そんな大御所の歌が、歌詞をきちんと調べてみれば、どれもこれもこんな調子とは!曲調はおしゃれなバーで流れていてもおかしくないほどカッコよく、歌はうまくて声もキレイなだけあって、このメロディと詞のギャップは正直受け入れがたい。それがこの企画のおもしろさであり、事実読んでいて笑いが止まらないのだが……。

 ちなみに取り上げられる楽曲の対訳は、すべて日本盤CDの歌詞カードに準拠したオフィシャルなもの。この大前提があってこそ、出演者たちの鋭いツッコみが、読者(リスナー)の心の声を代弁してくれているように感じられる。3名の軽妙な掛け合いは、大衆居酒屋の一角で盛り上がる幼馴染の会話のようで、これがまた笑いを誘う。

 もし、ラジオ番組「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」をまだ聴いたことがなければ、ぜひチェックしてみてほしい。本書では割愛されているゲストとの絡みや歌詞対訳を読み上げる美声の滑稽さ、そして何よりリアルタイムで実際の曲が流れるライブ感などなど、本書では再現し切れなかった聞きどころが満載である。

文=上原純(Office Ti+)