■連載/ヨシムラヒロムの勝手に宣伝部長

あれは夏の夜の幻か…消えた女性と『玉蒟蒻』の物語

女性が事務所に泊まる。

夜の新宿にて。足を運んだのは嘔吐物と煙、安酒の匂いが混じる思い出横丁。目線を下げれば、ネズミがおっかけっこ。

ひな鳥の4号店へと入る。変哲もない飲み屋だが、人柄の良い韓国人店主が出迎えてくれる「イラッシャイマセ〜」3か月に1度しか行かないのに「お兄さん、ウーロンハイね」とメニューも覚えてくれている。そんなことだから、いつもココ。

20時を回ると、待ち合わせの女性も入店。「マッコリ」と注文をした。数年ぶりの再会、つもる話もあり酒も進む。時間も12時を回ると、同時に酔いもまわる。本音もこぼれる。

「ねぇ、うちで飲まない」「いいよ」

すぐに会計を済まし、小滝橋通りでタクシーを拾う。夜の新宿副都心のビル群を横目に、タクシーは進む。事務所近くのコンビニに着いたころには深夜1時。チューハイとポテトチップスを買い、事務所へ帰る。ドアを開けてなかに入った瞬間、糸が切れた凧のように理性も飛ぶ。人間が隠し持つ本能が、部屋の暗闇に乗じて現れる。重なる。

昼頃、目を覚ますと幻か女性は消えていた。部屋の隅々を見渡し痕跡を探すが、髪の毛の1本もない。灯台下暗し、仕事机の上に確かな証拠を発見、昨日はなかったものがある。『おやつ玉蒟蒻 すっきり梅酢味』という菓子が置いてあった。

あれは夏の夜の幻か…消えた女性と『玉蒟蒻』の物語

封は切られており、要するに食残しの『玉蒟蒻』。

「玉・・・、蒟蒻・・・」

これは何かのメッセージかと、昨日のことを思い出してみる。『玉蒟蒻』に何か深いメッセージが込められてるのか!と勘ぐりたくなる。

とりあえずと、食べてみた。「うぅ・・・」想像と味が違う。梅酒のような甘い味をイメージしたが、かなり酸っぱい。麦茶かと思って飲んだら麺つゆだった時みたいな感じ。

脳がモヤモヤする。そもそも、蒟蒻を菓子にするという発想が何だかだ。この連載で『戦うホルモン』というホルモンを使った菓子を紹介したこともある。こーゆーのを見ると菓子業界も末だなと思う。主材は使い尽くし、残ったのは奇抜のみだ。

『玉蒟蒻』菓子に対して妙な表現ではあるが、慣れてくると結構イケる。続けざまに食べる。そして、なくなる。「すぐ、なくなったぁ」と思い、食べた個数を思い出すと4個しか食べていない。何個入りかも気になるし、もっと食べたいと思ったので、近くのコンビニに買いに走った。『玉蒟蒻』を作っているのは村岡食品工業。正直、マイナーなメーカーである。ポッキーのように、どこのコンビニでも置いてあるはずもない。数軒目に入ったミニストップでやっと発見。

事務所に帰り、早速数を確認してみる。

1、2、3、4、5、6。

あれは夏の夜の幻か…消えた女性と『玉蒟蒻』の物語

驚いた。女性は2つしか食べてなかったのである。1袋120円の『玉蒟蒻』は1粒20円というコスパ割高な菓子だった。しかし、6粒で満足させる力があり、時間が経つと異常に腹が膨らむ。かなりの大食漢でない限り満たされるだろう。しかも食物繊維たっぷりの27kcal。1食の変わりに『玉蒟蒻』を食べれば、ダイエット効果も見込める。

一通り『玉蒟蒻』に思いを巡らせ、初心に帰る。「なぜ、女性は玉蒟蒻を事務所に残したのか」その旨をLINEで送ってみた。数分後、iPhoneが震える。

「苦手な味だったから」

と簡素なメッセージがそこにはあった。女性はいらない菓子を置いていったまで。つまり、あの夜と『玉蒟蒻』には何も関連性はなかったのだ。僕の玉と『玉蒟蒻』が掛かっていたわけではない。メッセージ性、皆無のプレゼント否押し付けだったのだ。

1日を『玉蒟蒻』に翻弄された自分を悔いた。同時に紛らわしいことをする女性を恨んだ。

『玉蒟蒻 すっきり梅酢味』僕ならどう宣伝するか? 

想像以上に腹持ちはよく、その1日は10個の玉蒟蒻だけで過ごしたほど。パッケージにも「NEW新食感で満腹感」と書いてあるが、その印象は薄い。「もっとダイエットに効きまっせ」とコピーを打ち出した方が良い。また、おばさま向け通販番組または通販サイトと宣伝すれば化ける菓子かも!とも思った。

あれは夏の夜の幻か…消えた女性と『玉蒟蒻』の物語

文・イラスト/ヨシムラヒロム

武藏野美術大学在学中に泰葉「お陽様よほほえんで」のCDジャケットイラストでイラストレーターとしてデビュー。その後、雑誌やウェブ等でイラスト、執筆、デザインを行なう。

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