保守分裂となった東京都知事選を圧勝という形で制した小池百合子氏。都民は「自民党の闇勢力に立ち向かう女性候補」としての小池氏を選択した形となりました。しかしメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』の著者・新 恭さんは、新都知事の政治信条がどこにあるのかはっきりしないとした上で、小池都政にはらむ「2つの危険」を指摘しています。

小池百合子が防衛事務次官の携帯に残した「一秒の履歴」

2007年7月4日に初の女性防衛大臣になり、自衛隊の栄誉礼を受けたときの気分を小池百合子はこう書いている。

このなんともいえない荘厳な空気の中で、国の守りを預かる役職につくのは、男性なら「男子の本懐」というところだろう。しかし、私は逆立ちしてもそうは言えない。ここは「女子の本懐」というべきか。

今回、女性で初めて東京都知事に当選し小池は再び「女子の本懐」を感じただろうか。

東京の大改革と大風呂敷を広げ、自民党に虐げられているイメージを強調したツケはまわってこないだろうか。

「根回し」が嫌いだという。その点は評価しよう。ウラの根回しですべて決め、オモテは茶番というのでは、有権者は真相を知らずに納得させられているおめでたき「観客」にすぎない。

だから、内田茂とかいう都議会自民党のドンへの挨拶や組織のオキテなど無視してけっこう。怒りをテレビカメラにさらしていた萩生田光一官房副長官(東京選出)や石原伸晃東京都連会長の気分に配慮する必要もない。

だが、小池の「崖から飛び降りる」という勇ましさは、面倒くさいことを避け、人の心にかまわずショートカットしたがる彼女の性格とも深くつながっているのではないかと、ふと思う。

一例がある。防衛大臣に就任して間もないころだ。

「防衛省の天皇」と異名をとるワンマン事務次官、守屋武昌の首を着任早々に切った小池の荒業は特筆ものだが、守屋の携帯に残った小池からの「着信履歴」に姑息な手段の痕跡が刻まれていた。

これは、今後の小池都政の行方を占ううえでも欠かせない視点である。

小池は防衛大臣就任から約1か月後、就任5年目の守屋次官を退任させ、後任に西川官房長を充てる人事案を安倍首相に示し、了解を得た。2007年8月6日のことだ。

誰がリークしたのか、マスコミにこの人事案が漏れたため、小池は守屋の携帯に電話した。

守屋次官本人に連絡する必要があると考え、私の携帯に登録された次官の二つの携帯番号に次々と電話した。待てど暮らせど、返事はなかった。

(小池の著書『女子の本懐』より)

翌日、守屋次官は大臣室に小池大臣を訪ねた。大臣は「昨晩、携帯に電話したけど通じなかった。もう決まったこと」と繰り返した。

これについて、守屋はその著書『普天間交渉記録』のなかで、次のように証言している。

小池大臣の私に対する携帯電話はいつも、二、三回の呼び出し音で切れた。着信の履歴を見て、大臣からと分かると、私はすぐに折り返し電話をし、大臣の話を伺うというのが常だった。その晩、私はすでに床に就いていて、朝になって着信記録は確認していたが、それは午前零時過ぎのもので私はそれに気がつかなかった。私の携帯電話には「一秒」の履歴が残っていた。

「一秒の履歴」。重要なことを知らせる意思が強いなら、たった一秒のコールをしただけで電話を切ることなどありえない。もし、守屋と電話が通じたら、猛烈な抵抗にあうに決まっている。

それを避けるため、電話したアリバイをつくる目的で、ワン切りしたと考えるのが普通だろう。マスコミへの人事案リークも既成事実をつくるため小池自身がしたのではないだろうか。

今回の都知事選、内田茂の傀儡だった舛添要一の後釜として自民党都連が増田寛也を担ぐことは既定の路線だった。

小池が都連の推薦で立候補できる余地はほとんどゼロだ。根回ししたら潰される。いやむしろ、根回しという面倒なことを彼女はしたくない。

ならば、まずマスコミに出馬宣言を打ち上げよう。都連が怒っても仕方がない。イチかバチか。都連の「ブラックボックス」を攻撃して改革派イメージをアピールすればよい。

都連に推薦願いを出し、すぐに取り下げたのは、ほんとうに審査されてはマズイからだろう。まともに守屋に向き合いたくなかった「一秒の履歴」と同じだ。

さて、守屋の話をもう少し続けよう。安倍晋三とのからみがあるからだ。

守屋は「断じて困る」と反発し官邸に直訴した。同年8月13日、小池が塩崎官房長官に面会すると、塩崎は「次官人事はたとえ総理が了解していても人事検討会議を経て行うものだ」と小池の人事案に否定的な態度を示した。

小池は、安倍首相にすがったが、その返事はつれなかった。「組閣後の人事検討会議で決める。やっぱり人事案が漏れたのは問題だよね」

官房長官と同じ言葉を繰り返すのを聞いて、私はがっかりした。…私は筆書きで用意した進退伺いを置いた。すると安倍総理は、驚いた表情を見せた後、急に悲しそうな顔に変わった。「辞めるなんていわないでください。お願いだから」と、困惑した声が返ってきた。

(同)

守屋は結局、退任が決まった。ただし、後任は小池の推す人物以外に差し替えられた。

小池は内閣改造をひかえた8月24日、インド・ニューデリーのホテルで記者団に「私は辞めるといっているのよ、わかる?」「総理には続投しないことを申し上げております」と言明し、あっさり安倍首相を見限った。

安倍政権が崩壊する可能性が高いことは小池には分かっていた。内閣改造は失敗に終わる。自分は泥舟に乗らない、という判断だった。

一度は見限った首相、安倍晋三が再び政権を握った。2012年総裁選で石破茂側についた小池。それからの安倍の態度は、以前とは全く異なっていた。

稲田朋美ばかり重用して、小池を冷遇してきた安倍への反発心が、都知事転向の背景になかったとは言えないだろう。

今後、自民党都連に気を遣わざるを得ない安倍官邸と、自民党籍を抜かない小池がどのような距離感でつきあっていくのかが、新都政の行方を左右する重要なカギだ。

小池の政治の進め方には、女性らしいストレートさがある。それが男社会でしばしば摩擦を起こす。守屋の人事をめぐる一連の騒動はその典型だが、それが都庁、都議会でも行われるようなことがあると、下手をすれば都政の停滞につながってしまう。

政治の世界における男のジェラシーは女の比ではないといわれる。内田茂はもちろん、顔に泥を塗られた石原伸晃や、関東軍参謀のような強硬派、萩生田光一が、新都知事にどんな顔を向けるかはわからないが、とりあえずは世論の動向や間合いをはかるための時間をとるだろう。

小池は当選したとたんに「冒頭解散」といった都議会との対決姿勢を引っ込め、「議会のみなさまとはしっかり連携させていただく」と語った。さっそくの公約違反である。

テレビ東京の選挙番組に出演した元東京都知事、猪瀬直樹は「必ず議会と衝突します。議会を透明化してもらいたい」と小池にエールを送ったが、猪瀬の私怨に小池が付き合うとは思えない。

出馬表明時の公約を意識し、「都政改革本部」をつくる、「情報公開」をする、などといったポーズをとりながらも、既得権益に配慮する安倍官邸との連携をはかる方向に進みそうだ。

もちろん、毎年伸び続ける税収をバックに業界とつるんで利権をほしいままにする自民党都議らの暗部に満身創痍になっても切り込もうというのなら大賛成だ。

そうであれば、祝儀の熱気が冷めることなく都民の支持が広がり、その結果、知事にすり寄る議員も増えて、安倍を脅かす存在になりうるかもしれない。

だが、これまでの小池の政治姿勢からは、時流に乗る器用さや度胸のよさばかりが目立ち、政治信条がどこにあるのか、はっきりしない。かつて細川護煕や小沢一郎のもとで政治を学んだころと違い、昨今では保守色が強まりすぎているが、その意味では安倍政権との親和性は高い。

小池の心の底には、都議会の自民党利権構造に切り込むとプレッシャーをかけながら、安倍に自分をアピールし、振り向かせたいという、さまざまな因果の織りまざった情念が渦巻いているのではないだろうか。

今回の選挙は、政治理念や政策より、演出力や仕掛けの巧拙が成否を分けた。

東京都民の多くは、平和憲法や脱原発で命を守ろうということより、自民党の闇勢力に立ち向かう女性候補という構図の刺激性にひかれたようだ。その結果、保守内対立にばかり関心が集まり、野党共闘は実らなかった。

小池都政は議会との亀裂が深まって泥沼化する危険と、安倍と再接近して特権勢力を利するように動く危険の両面をはらんでいる。これも都民の選択だから仕方がない。

都知事という役どころの檜舞台「東京オリンピック」は楽しみに違いないが、それで日本の人口減少が止まるわけではない。巨額の税金を注ぎ込む盛大な宴のあとに何が残るのだろうか。

image by: 小池ゆりこ オフィシャルサイト

 

『国家権力&メディア一刀両断』 より一部抜粋

著者/新 恭(あらた きょう)

記者クラブを通した官とメディアの共同体がこの国の情報空間を歪めている。その実態を抉り出し、新聞記事の細部に宿る官製情報のウソを暴くとともに、官とメディアの構造改革を提言したい。

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出典元:まぐまぐニュース!