メイド・イン・ジャパンの製品が世界中で評価されていることからも明らかなように、日本は昔から発想力では他国に負けても、職人技とも言われる繊細な技術力が一番の強みでした。しかし、無料メルマガ『日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信』の著者で戦略学者の奥山真司さんは、「現在社会ではそれがあだになることもある」との厳しい意見を述べています。

太平洋戦争時と本質的には変わっていない日米の差異…

おくやまです。私が某幹部学校の講師をしていることは既にご存知の方も多いと思いますが、先日、クラウゼヴィッツの講義をしている時に、ある学生の発表で面白いエピソードを聞きました。

それは米軍と行った、ある軍種の合同訓練の時の話。これはある航空機を使って、日米チームのどちらがうまくターゲットに爆弾を落とせるのかを競い合う、いわば競技会のようなことをやった時のこと。発表した学生は、ある航空機のパイロット(機長)だったのですが、彼が強烈に気づかされたのは、日米間の乗組員たちの練度や、その組織文化の違いだったそうです。

まずパイロットの練度ですが、日本のほうが訓練量も圧倒的に多いので、当然ながらはるかに上。とりわけパイロット側の飛行時間、つまり経験値がアメリカ側よりも高く、その差は極端にいえば10倍くらいの差があります。要するに日本のほうがベテランのパイロットが多く、当然ながら競技会をやっても、スコアは圧勝だそうです。平均すると、スコアは日本側が95点でアメリカ側が65点とか。

「日本人は素晴らしい」と単純に考えてしまいがちですが、ここにワナがあります。というのも、競技会が進むにつれて、初日は圧勝できていた日本側も、日数を数えると段々疲弊してきて、ある時からぐんとスコアが下がるとか。

ところがアメリカ側はそもそもパイロットに個人の力量というものを求めていないために、交代要員などをつかって効率よく回し、平均65点を維持しつつ、結果的に総合点では日本側に肉薄したり、勝ってしまうことがあるそうです。

この違いは何か。鋭い方は、ここで考え方の「抽象度の違い」があることに気づく方もいるかもしれません。

日本側の特徴は、いわば個人の「職人芸」を目指すところにあり、この場合は特定のパイロットの練度や経験値を上げることに集中し、非常に高い完璧性を目指すことにあると言えるでしょう。

ところがアメリカ側の特徴は、パイロット個人の練度の高さには注目せず、むしろ「誰が操縦しても平均して良い働きができること」を目指しているところにあることがわかります。つまり彼らは「個人の技量」ではなくて、「部隊としてのシステム」の優秀さで勝負しているというところがあるわけです。

これを「思想の違い」と言ってしまえばそれまででしょうし、日本も優れた個人を育成できるという点においてはアメリカ側よりも優れていると言い切ることも可能です。しかも実際は上記のような競技大会の場合で、短期決戦であればアメリカ側よりもはるかに優秀な成績で勝つことも可能なのです。

ところがこれが長期戦、さらには部隊レベルではなく軍レベル、さらには国家レベルになると、どうも都合がわるくなってきてしまいます。なぜならコントロールする範囲が規模が大きくなると、どうしても個人の持っている「技術」のようなものではなく、集団のもっている「システム」の優位を考える必要が出てくるからです。そしてそのような「システム」を考える際に必要となってくるのが、思考の抽象度の高さなのです。

「戦略の階層」という考え方があります。これは、私、奥山真司が「これこそが日本人に必要な発想だ!」と長年訴えつ続けている、思考のためのツールです。私がこのツールの重要性に気づいたのは、数々の戦略関係の本を翻訳したり、留学中に「戦略家」と呼ばれるような人たちの話を聞いた時です。

彼らは日本人とは決定的に違うレベルでものごとを考えています。そしてそのレベルの違いを、少なくともまずは「理解」しておかなければならない…、これを私は日々痛感しております。

日本はバブル崩壊後の目標として、長年にわたって「ものづくり」というスローガンの下に新たな経済成長を模索してきました。ところが、日本人にとってはなじみのあるこのコンセプトは、さしたる成果も挙げずにいまに至っています。それは「ものづくり」という技術レベルの話をいくら追究しても、その上の戦略レベルの「システム(仕組み)づくり」に優れている側には勝てないからです。

日本は「仕組みづくり」でも、もはや欧米には勝てないのかもしれません。しかし、それにただ盲目的にやられ続けるのではなく、その背後にある階層的な考えの本質を理解して、それに対する対抗策を考えるというのは、決して無駄ではないはずです。

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『日本の情報・戦略を考えるアメリカ通信』

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出典元:まぐまぐニュース!