『あやかし恋古書店〜僕はきみに何度でもめぐり逢う〜(TO文庫)』(蒼井紬希/TOブックス)

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 あやかしと人間の恋愛模様を描いた、切なくて心温まる小説がある。泣けると大反響のライト文芸『あやかし恋古書店〜僕はきみに何度でもめぐり逢う〜(TO文庫)』(蒼井紬希/TOブックス)だ。

 恋に疲れ果て、故郷の新潟に戻った主人公の紗月(さつき)は、元書店員だった経験を生かし、地元の「鴉翅堂(からすばどう)書店」という古書店でアルバイトをすることに。店主は無愛想で厳しい影野(かげの)。どこか中性的で蠱惑的な雰囲気を漂わせる青年だったが、彼はどうにも紗月に冷たい。

 さらに、なんとこの古書店のお客様は主に「あやかし」。元書店員だったとはいえ、あやかしのお客様の相手は初めての紗月。「絵本」や「小説」を使い、あやかしたちの悩みを解決しようとするけれど、慣れない仕事に四苦八苦。また、影野との関係を少しでも良くしたいと持ち前の明るさで距離を縮めようと奮闘するが、ドSな影野に翻弄されてばかりで……。

 かっこいい店主との壁ドンもありの胸キュン小説――。読んでいるとドキドキしてきて、紗月と同じように、影野に恋をしているような気持ちになれる。

 しかし、それは本作の魅力の「一面」でしかない。

 紗月には、10歳までの記憶がない。時折思い出すのは、「約束だよ。忘れないで」という男の子の言葉。一体、自分が何を忘れているのか。「約束」とは一体何なのか。そして終盤にかけて明かされる秘密……。重なり合うことのない運命と、さよならの予感が漂う。それでも愛しいと想う気持ちを止められない。登場人物たちのまっすぐな想いに、切なさで胸がいっぱいになる恋愛小説でもあるのだ。

 最初、私は一生懸命な紗月に感情移入しつつ、胸キュンしながら、「いとしい人とずっと一緒にいたい」というたった一つの願いさえ叶わない2人の運命に涙を流したが、不意に、「影野の気持ちはどうだったのだろう?」と、もう一度最初から読んでみた。

 すると、どうだろう。紗月の気持ちで読んでいた一度目とは違う、影野がおそらく感じていたであろう悲しみや苦悩、そして紗月への愛情を感じ、「二度泣けた」。当初、どうして影野が紗月にそっけなく接していたのか、その気持ちを察しながら読む「二回目」は、また違った涙を誘われるので、ぜひとも「二度読み」をオススメしたい。

 また、本作には『しろいうさぎとくろいうさぎ』『よるくま』『かみさまからのおくりもの』などの名作絵本も登場し、物語に深く関わってくる。その絵本を知っていれば、より一層本作が面白くなるが、知らない場合でも、「絵本を読んでみたい」と思える。実在の絵本が出てくるのは、本好きには嬉しい設定だ。

 あやかしと人間の結ばれない恋――。『陽だまりの彼女』や『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』などの泣ける小説が大好きな方には、たまらない一冊だと思う。

文=雨野裾