『はじめての猫』(志村志保子/ホーム社)

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 ペットを育てるのは大変だ。よく「ペットは癒される」なんて話を聞くが、ただ癒されたいだけなら、動物園や水族館に行って、眺めるだけにしておいた方がいいと思うほどである。

 筆者はこれまで2匹の犬と暮らしたが、犬の一生にかかるお金は、少し高めの新車1台分はかかることを実感した。もちろん、飼い主によって上下はあるだろう。だが、フード代や病院代、トリミング代だけではなく、夏はエアコン、冬は暖房代、高齢になれば足腰が弱る場合もあるのでバギー代……など、ありとあらゆるお金がかかる。言うまでもなく、毎日散歩に行かなければならないし、ご飯の用意やトイレの後始末をすることも必要だ。しかも、どれだけ手をかけて世話をしていても、時にはお気に入りのソファをボロボロにされるイタズラをされて、絶句……! なんてこともある。

 大変なことは山ほどあるし、旅行にも中々行けなくなるが、筆者は一生、動物と暮らしたいと思っている。愛しくてたまらない、小さな存在と。

 志村志保子作のマンガ『はじめての猫』(ホーム社)は、医療機器メーカーに勤める25歳のOL、江衣子がはじめて猫を飼う物語だ。江衣子は、就職して3年。大学時代から付き合っていた彼とは2年前に別れたきり一人だが、地味ながらも平穏な日々を送っていた。

 そんなある日、江衣子は友人に「仔猫の譲渡会に一緒に行ってほしい」とお願いされる。家族も動物嫌いで、それまで猫と接したことがほとんどない江衣子。興味はなかったはずなのに、当日、江衣子は仔猫をはじめて間近で見て、あまりの可愛さに驚嘆してしまう。特に気になった一匹を、衝動的に連れて帰ってしまうほど――!

 これまで猫を飼った経験もないし、猫を迎える用意だって何も出来ていない。「無責任な……」と思われるかもしれないが、誠実でしっかり者の彼女は、帰宅後、「はじめて猫を飼う人へ」という本を読んで、ただちに自分の行いを反省する。ペット不可のアパートに住んでいた江衣子は、翌朝、不動産屋に飛び込み、猫と暮らせる家を探した。また、仔猫の食や好み、性格、生活習慣などを日記に記録し始めたほどである。

 仔猫は帰宅後、江衣子のバッグの中にいたことから「ナッカ」と名づけられた。江衣子は、ナッカと暮らすことで、少しずつ成長し、変わり始めていく……。

 例えば、普段から感情を表に出すタイプではなく、周りからは「テンション低い」と言われていた。だが、ナッカが来てからは、会社でも「彼氏できたでしょ?」と言われるほど、表情豊かになった。同窓会で、猫を飼っている中学の同級生と再会し、猫話で盛り上がり、新たな恋の予感が感じられるほどである……!

 また、江衣子はこれまで足を踏み入れたことのない、濃い世界にも触れていく。はじめて動物病院に行って、先生に「お母さん」と呼びかけられ、固まってしまうこともあれば、避妊手術の際、摘出した卵巣と子宮を見せられ、自分がしたことの事実を、見ないフリをせずに、真摯に受け止めなければならないことにも気がついた。

 帰宅したら「遊んで〜」とぐりんぐりんと転がりながら出迎え、毎晩枕元で眠るナッカ。小さくて、ふんわりと柔らかいナッカの行動を、一つずつ丁寧に見守っていく。彼女は日記に「猫」ではなく「少しずつ“ナッカ”という生き物がわかってきた気がする」と記す。本書はきっと、動物と暮らす多くの人々が共感できる、温かくて優しい物語だ。

文=さゆ