すい臓がんは難治がんの代表。自覚症状らしい症状もなく、進行してから偶然発見されるケースが多いためだ。

 しかも、がん自体の「性質」が悪質で、術後の再発率が高い。がん細胞がすい臓内にとどまる1期で診断・手術をしても再発するため、5年生存率は41.3%。胃がんのそれは97%であり、数字からも厳しさが知れる(全国がん(成人病)センター協議会生存率共同調査2016年2月集計)。

 ただ、医療者も手をこまぬいているわけではない。

 再発を抑えるには、手術後に残ったがん細胞をたたく抗がん剤による薬物療法(術後化学補助療法)が行われる。すい臓がんの標準治療では、ゲムシタビンという薬が使われてきた。しかしこの6月、S−1という薬を使った方が、死亡リスクが低下するという結果が報告されている。

 この試験には、日本の33カ所の医療機関が参加。07年4月1日から10年6月29日までに、病理検査で1〜3期と診断された日本人のすい臓がん患者、385例を対象に行われた。

 顕微鏡検査(肉眼)で「完全にがん細胞を切り取った」と判定された患者を、無作為に2群に分け、一方にはゲムシタビンを、もう一方はS−1による治療を行った。

 16年1月15日までの追跡データを解析した結果、5年生存率はゲムシタビン群の24.4%に対し、S−1群は44.1%と高値だった。つまり、S−1治療群は、ゲムシタビン群と比べて、40%以上も死亡リスクが低下したのだ。

 ゲムシタビン群の副作用は、日和見感染を起こす(易感染性)、重度の貧血や出血などで、S−1群の副作用は、重度の食欲不振、口内炎や下痢などだった。

 S−1は日本で開発された飲む抗がん剤。副作用は決して軽くはないが、体調をみながら服用量を調節できるので、半年間の治療を完走しやすい(必ず主治医と相談すること)。何より、日本で受けられる治療法で生存率が大きく伸びると「科学的」に証明されたことは、治療を続ける力になる。

 すい臓がんの生存率は、確実に改善している。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)