画像

写真拡大

 本連載では、「モノが売れない時代」に市場と格闘するマーケターが陥りがちなワナと、そこから脱出するためのいくつかのルールを示します。2回目のテーマは、“競合商品より優れていれば売れる”というセオリーからの脱却。私たちがモノを買うのは「その商品が他社より優れているから」ではなく「自身の生活上の課題・欲求をどこよりも充たしてくれそうだから」という基本原則をご紹介します。初歩的なように見えて、実は忘れ去られがちな視点ではないでしょうか?

■「商品への愛」が重くなってはいないか

 日々マーケターとして活動する中、私はさまざまなクライアント(事業主)の方とお会いします。非常に競争の激しい日本市場でしのぎを削っているだけあって、当たり前かもしれませんが、どなたもビジネスの継続・成長に対してとても真剣です。さらに商品をこよなく愛し、商品を通じて消費者の「生活の質を高めたい」という高い理想の下に活動されていることが伝わってきます。

 ただこの「商品をこよなく愛している」ということが、今の時代のマーケティング活動の足かせとなっていると思うのです。

 というのも、本来事業とは「消費者の生活を豊かにし、幸福にする」ことが目的であり、そのために「自社の商品を通じて、消費者が持つ生活課題を解決したり、彼らの願望を実現する」もの。いってみれば「商品」というのは、事業本来の目的からみれば手段のはずです。

 それが自社の商品を愛するがあまり(特に研究・開発セクションの方)、マーケティング活動に入った瞬間、どうしても「苦労して開発した、競合の会社に対する技術的・機能的な優位点を見せたい」という気持ちが先に立ち、結果として「競争優位発想」一辺倒になりがちなのです。

 一方で時代は、そもそも「モノが欲しい」という欲求が低下し「競合より優れた商品」というだけでは売れにくい状況になっています。いくら事業者間で「競争優位合戦」をしたところで、結果売れないというスパイラルに陥っているのが現状ではないでしょうか。

 ではどうしたらよいのでしょう? 私はその答えは、そもそもの原点、「カスタマーセントリック(顧客中心)」というスタンスに立ち返って、「人がモノを買う」とはどういうことかを理解し、それに即したマーケティング活動をしていくことが重要なのではないかと考えます。

■キーワードは「生活欲求」と「購買欲求」

 私が所属するインテグレート社の場合、消費者がモノを買うまでには「生活欲求」と「購買欲求」の2つの欲求が喚起されることが不可欠と考えています。「生活欲求」とは商品に紐付かない、消費者の生活・人生上で発生する一般的な欲求のことです。例えば「生活習慣病になりたくない」「モテたい」「家族と楽しく過ごしたい」というレベルの欲求(課題意識)を指します。

 これに対して、「購買欲求」は「生活欲求」を充たすのに最適な手段と認識して「ある商品を購入したい」という欲求(その商品による課題解決意欲)のことです。

 「生活習慣病になりたくない」という「生活欲求」に対する「購買欲求」の対象はサプリメントのAブランドかもしれないし、スポーツジムのBブランドかもしれません。その数多くの選択肢の中で、消費者はそれぞれの都合・環境・嗜好に応じて、商品を選択していきます。いずれにしても、消費者には自身の「生活欲求」が第一に存在し、その解決策として「購買欲求」が生じ、ある商品が買われているというのが、私たちの購買行動のメカニズムに関する見方です。

 ただこの話自体は、そんなに目新しい話ではありません。マーケティングに多少詳しい方であれば、ハーバード大学ビジネススクールの教授であるセオドア・レビット氏のエピソードのことかと、ピンとくる方は少なく無いと思います。

 ご存じない方のために説明すると、ある年、4分の1インチドリルが大ヒットした理由をレビット氏が尋ねられた時に「消費者はドリルを欲したのではなく、(子供用の棚など)家具を作るための4分の1インチの穴を欲したのであって、4分の1インチドリルが売れたのはたまたま生活者の欲求を充たすのに最適な商品だったからだ」というエピソードです。

 ですから、この話をすると「そんなことは昔からの常識」と一笑に付されてしまうことも多いのですが、実際のマーケティング活動を眺めていると、多くの企業がこの「生活欲求」を全く考えず、単に競合商品との優位性という観点から、商品のアピールポイントを設定しているケースがよく見られると感じています。

 そもそも「生活欲求(課題意識)」が高まっていなければ「購買欲求(その商品による解決意欲)」をいかに喚起しても、全体の需要のパイには限りが出てきてしまいます。その点から考えて、もし、自社商品の売上が成長しない場合、まずは商品がターゲットとする「生活欲求」が十分に高まっているのかを確認する。次にもし「生活欲求」が十分に喚起されているのだとしたら、競争優位性ではなく、その「生活欲求」を充足するのに最適な商品であるという「購買欲求」をキチンと高められているのかを確認する。という、2つのポイントでチェックをする必要があるでしょう。

三宅隆之[著]