『面白くて眠れなくなる人類進化』(左巻健男/PHP研究所)

写真拡大

 人間は猿から進化した……人類の起源については、ずいぶん前からそう言われている。だが、実はこれは正確ではない。正しくは“猿に似た類人猿”から進化したのである。人類進化のシナリオは、5段階に分けられる。初期猿人・猿人・原人・旧人・新人である。この新人というものが現生人類であり、初期猿人・猿人が先述の“猿に似た類人猿”だ。では、その初期猿人はどのような生活をしていたのか? また、初期猿人が現れる前の人類の先祖とは何なのか? 『面白くて眠れなくなる人類進化』(左巻健男/PHP研究所)では、それらの疑問に答えつつ、人類の進化を辿り、その起源に迫っていく。

 まずは、初期猿人の話から始めよう。初期猿人の時代は、今から700万年も前に遡る。もっとも古い種はサヘラントロプスと呼ばれ、これが現在確認されている最古の人類だ。サヘラントロプスは身長が120センチほどしかなく、かなり小柄である。メスのチンパンジーくらいの体格だったと考えられ、脳容積もチンパンジーと同等だったという事から、知能もそれ並みだったのだろう。彼等は森で生活しており、主に果実を食べていたとされている。また、その骨格構造から直立二足歩行していた可能性が高いが、このサヘラントロプスの足の部分の化石が見つかっていない為、まだその真偽は明らかになっていない。ちなみに、この初期猿人が現生人類に進化する過程で、進化の方向が分岐し、別個の種として形成したのが、我々のよく知るチンパンジーである。今のチンパンジーを見て、700万年前の人類もこんな姿で生活していたのだと思いを馳せてみるのも、案外楽しいかもしれない。

 さて、では初期猿人に進化する前の人類の姿だが……これは、単弓類と呼ばれる生物だったとされる。単弓類というのは、元は哺乳類型爬虫類と呼ばれていたが、近年になって(爬虫類と区別する為)新たに単弓類として区分されるようになった種類である。この単弓類が、人類の祖先であると言われている。単弓類は、頭蓋骨側頭部下方に側頭窓と呼ばれる孔が左右にそれぞれ1つ開いていており、同じく側頭窓の下側に細いアーチ状の骨を1本持っているのが特徴だ。この単弓類は恐竜と同じ時代を生きており、例としてはディメトロドンという生物が挙げられる。この単弓類が、爬虫類の特徴である変温性から、哺乳類の特徴である恒温性を獲得した事で、哺乳類――ひいては人類誕生への足掛かりとなったのだ。ちなみに、この単弓類の先祖は何かと言うと、原始両生類である。海から陸地に上がったこれが、陸の環境に適応した結果、ヒレが手に進化し、原始爬虫類や単弓類が生まれる事になったのだ。さらにこの原始両生類の先祖を辿ると、ご存じ生きた化石ことシーラカンスが登場する。生物の起源は、詰まる所は母なる海に行き着くという事だ。では、その海に暮らしていた頃の人類は……シーラカンスよりも前の時代の人類は、はたしてどんな姿だったのだろうか?

 皆様は、ナメクジウオという生物をご存じだろうか。これはその名の通りナメクジのように半透明な体を持ち、大きさは3〜5センチ程度という事から、一見してナメクジにも魚にも見える奇妙な生物である。恐竜の時代よりもさらに前、およそ5億から4億年前の人類は、なんとこのナメクジウオによく似た姿をしていたというのだ。その生物の名はピカイアという。我々人間は、哺乳類であると同時に脊椎(せきつい)動物である。この脊椎動物の先祖は脊索(せきさく)動物というもので、ピカイアはその脊索動物なのだ。この脊索とは、背中に通っている1本の丈夫な筋の事で、人間の脊椎の原型とも言える。我々も胎児の頃はこの脊索を持っており、胎内における成長の過程で背骨と脊椎を獲得していくのだ。

 猿・単弓類・魚ときて、最後にナメクジウオまで人類の起源を遡ったが、いかがだっただろうか? 人は、人類は猿から進化した、という事は知っていても、そのサルになる前は何だったのかは普段あまり考えないし、ましてや、5億〜4億前には、ナメクジウオのような姿をしていたという事を想像できた人は少ないだろう。我々人類は、昔はどんな生物だったのか……それを知る事は、予想外の驚きをもたらしてくれるのかもしれない。

文=柚兎