『一流患者と三流患者 医者から最高の医療を引き出す心得(朝日新書)』(上野直人/朝日新聞出版)

写真拡大

 もし病気にかかったら、誰しも「いい医療を受けたい」と思う。では、その「いい医療」を受けるためにあなたができることはなんだろうか? いい病院を探す、いい医者を探す、どれも間違ってはいない。しかし、本当の意味での「いい医療」はこれだけでは受けられないのだ。そう語るのはガンの専門医でありながら自身もガンにかかってしまった経験がある上野直人氏、今回紹介する『一流患者と三流患者 医者から最高の医療を引き出す心得(朝日新書)』(上野直人/朝日新聞出版)の著者だ。氏曰く、最高の医療を受けるには「患者自身の力(ペイシェント・エンパワーメント)」が重要であり、タイトルにもある一流患者とは「医者に対して受身ではない主体的な患者」のことを指している。全てお医者様任せでも安心だったのは昔の話であり、薬の種類も治療法も多様化した現代では自分に合った治療法は自分で選ばなければならないのだ。

 一流患者といっても決して特権階級ではない。では、一流患者になるために必要なものはなんだろうか? それはお金でも知識でもない。必要なのはちょっとした心がけだ。その心がけとは「自分の身体は自分で治す」という意識に他ならない。これはアメリカの患者に多い意識であり、三流患者(受身で文句ばかり言う患者)が多いとされる日本とは対照的である。アメリカは個人主義の国であるため、そもそもそういった意識が強く、インフォームド・コンセント(患者が納得した上で治療を受けるために、事前に医師が患者にメリットとデメリットをしっかり説明すること)が徹底して行われていることも患者格差の要因だと言える。また、セカンドオピニオン(一人ではなく他の医師(他の病院)にも治療の意見を聞くこと)についても日本より定着しており、国民性以外にも文化の違いが患者格差に影響しているのは間違いないだろう。

 日米で患者格差につながるもうひとつの要因は「医者と患者の関係」の違いだ。アメリカでは相手が子供であっても必ず「他に質問はない?」と聞き、本人に質問させるのだ。そして質問してきたら褒めて歓迎する。また、「医者と患者はパートナーである」という意識が根底にあり、両者の関係は対等なのだ。しかし日本では「医者が上」で「患者は下」という意識が強く、それが患者力の低さにつながっている。そのため、医者に対して抱く上下意識は捨て去ることが患者力向上の第一歩だと著者は語る。著者の語る「いい医者」とは「どんな困難な状況でも患者と共に歩んでくれる医者」とのこと。どんな質問でもバカにせずに答えてくれて、コミュニケーションを何より大事にしてくれる医者を探すべきらしい。

 心構えについては上記の通りだが、次は実践編だ。具体的にどう行動すれば一流患者になれるのかを知っておかねばならない。まず基礎となるのは「疑う」ことである。自分は本当にその病気なのか、何を根拠にそう判断されたのか、この2つは一番初めに疑うべきだ。そして、病気の正式名をしっかり聞き、自身で治療の是非について判断できない時は「判断しない」ことが重要だ。不安や焦りのある状態での決断は好ましくない。また、腫瘍がある場合、それはどの臓器のどの位置なのか、大きさや個数はいくつなのかもしっかり確認しなければならない。医者の言うことを鵜呑みにせず、気になったことはなんでも聞く。治る可能性があるかもしっかり聞く。他のポイントをリストアップすると以下のようになるので確認してほしい。

・診察室ではメモをとる

・医者との会話を録音する(普通は許可してくれる)

・病院へは1人ではいかない、家族の意見に流されない

・事前にネットや本で調べておき、質問リストを作る

・病院で患者仲間を作る

・治療後のことを考える

・「最新」というワードがついた治療法に無闇に釣られない

・自分のカルテ(病歴や投薬歴)を作ってみる

 本書に書かれていることは「患者が後悔しないための心得」でもある。受けたかった治療を受けられずにもがいて死んでいくのは医者の目からも惨めであり、自身もガンにかかって「心のもがき」を経験した思いが本書を書き上げるキッカケになったと著者は語る。病気になっても生き続けることが何より大事なのだ。そして「一流患者に宿っているのは『生きる哲学』である」、これは本書の終盤に書かれていた言葉だ。一流患者に求められる資質とは何なのか、それはこの一言に集約されているのだろう。

文=Nas