【リオ五輪】ハッタリではない「全勝金メダル」宣言。人を“本気”にさせる手倉森誠という男
そして、記者の問いに対する答えである。導き出した結論はこうだ。
「たぶん誠さんって、人を“本気”にさせる監督だと思うんです。モチベーターとも言えるかもしれないけど、それとはちょっと次元が違うというか……」
そのスタッフにはもうひとつ、強烈な思い出がある。08年のベガルタの監督就任後、仙台に選手たちが集まるシーズンのチーム始動日に、手倉森はこう宣言した。
「5年でACLに出場する」
手倉森を除くその場にいた全員が、度胆を抜かれたという。当時は、ベガルタはまだJ2にいた。ある選手も「いやいや、まずはJ1昇格でしょ」と正直な気持ちを吐露している。
しかし、10年のJ1昇格から3年後の12年にベガルタはリーグ2位となり、翌シーズンにはACLに出場――手倉森は公約を守ってみせた。
常に先を見据え、高みを目指し、チームをけん引するのが手倉森という男だ。リオ五輪のアジア1次予選を突破した後も、「次はもっと厳しい最終予選だ」とは言わない。「あと12回、勝つぞ」と選手たちに発破をかける。
最終予選の6試合と、リオ五輪本大会での6試合。そのすべてに勝てば、金メダルに到達するという算段である。
周知のとおり、最終予選は全勝優勝。すでに目標の半分はクリア済みだ。
それまでアジアのベスト8止まりだったチームが最終予選ですべて勝つ? J1に昇格していないのにACL出場? 手倉森は、こうした“それは無理だろう”と言われても仕方のないミッションを掲げては、きっちりと結果を出してきた。
おそらく、選手たちも最初は戸惑いながらも、一歩先を見た言動で指導する手倉森の下、いつしかその気になり、そして“本気”になっていく。
無理だと思えていたことも「できる」に変わる。「勝てるだろうか」という不安より、「勝つ」という信念が先立つ。
ブラジル入りしている手倉森ジャパンは、徐々に“本気モード”に入っているはず。彼らが目指しているのは、68年のメキシコ五輪以来となる48年ぶりのメダル獲得ではない。
日本の五輪男子サッカー史上初となる金メダルだ。
取材・文:広島由寛(サッカーダイジェスト編集部)