おもしろいこと、この地から。「週 刊 東 北!」<br />Vol.002/ in-kyo @ 福島県三春町

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【毎週水曜 16:00 更新】
2016年春、器と生活道具のお店「in-kyo」が東京から移転した先は福島県の小さな町・三春。店主の長谷川ちえさんが暮らす、三春での日々とは?(後編)







◆歴史のある美しき町、三春町

三つの春の町と書いて三春町。その地名は梅、桃、桜の花が一度に咲き、三つの春が同時に来ることに由来するとか。中でも三春滝桜は日本三大桜にも数えられていて春には観光客も多く訪れる。豊かな自然は四季折々に美しい風景を見せ、夏にはお祭り、冬にはだるま市が行われ通年楽しませてくれる。
in-kyoの店主であるちえさんも「季節が巡りこれからどんな景色を見せてくれるのかワクワクしているんです。お寺や神社も多く歴史があり、時間もゆっくりと流れている気がします。in-kyoのある中町商店街にマイペースに流れる有線の演歌もなんだかいい感じでしょう(笑)」。

確かに以前のお店の場所も下町ではあったけれど、そこはやっぱり東京。活気もあり新しいお店もそれなりにあった。でも、ここには少し歩けば大福もケーキも一緒に並ぶ地元のスイーツショップがあり、時の流れを感じるスナックがあり、創業享保6年という醤油店が立ち並ぶ。
これから、この国道288号線沿いの風景の中で、in-kyoはどんな風を吹かせるのだろう。





◆三春町唯一の小さな「本屋さん」として

店内には小さな本棚がある。そこには、親交のある料理家の著書やちえさんが選んだ本が並んでいる。
「この辺りには、学校の教科書を扱う本屋さんはあるけれど、一般の書籍や雑誌を扱う本屋は郊外まで出掛けないとありません。今はインターネットで本も簡単に買うことができるけれど、三春町の方からは実際に手にとって眺められる場所ができて嬉しいという声を頂いていて。小さな本棚ですが、ここでは本屋のような役割も果たしていきたいと思っています」。

お店とは、店主と訪れるお客さんの双方により、その店らしい個性が作られていくのだろう。ちえさんがこの地で暮らす中で求められることに応え、興味のあることを試みる。もちろん今まで同様に縁やつながりを大切にしながら。
それは東京から福島・三春町へと場所が変わってもちえさんの変わらない姿勢で、同時にお店が多くの人から愛される理由なのだろう。



◆大きな窓から見える夕日に
日々、胸が高鳴る

「この地に移り住み2カ月弱。今はまだ旅行者の気分が抜けていないところもあり、商店街や道の駅での買い物も新鮮な気持ちで味わっています。お店の大きな窓から夕日を見るたびに、この美しさにはっとした今の気持ちを忘れないようにしようと思うんです。そして、福島の人の温かさも日々改めて感じています。

福島には『さすけね』という郷土言葉があって。大丈夫、気にしなくていい、そんな意味らしいのですが、寄り添うような優しい言葉ですよね。彼らの気質のひとつには、まずは行動してみよう、シンプルに楽しもう、という姿勢がある気がします。度量が大きいっていうのかな。そんな周囲の影響もあり、ここ三春町で変わることを受け入れて楽しもうとする自分がいます。
近所の方々も大家さんもすごく親身に相談に乗ってくれるし、大らかで真っすぐなのは子供たちも同じ。近くの小学校に通う子供達は知らない人にもすれ違いざまに挨拶をしていて、とても気持ちがいいんです」。

みずみずしく柔らかなちえさんの感性は、福島や三春の素敵なところをこうして次々にキャッチしていく。きっとこの町にin-kyoが引っ越したことで、三春町を近くに感じる人が増えるにちがいない。



エッセイストとしても多くの著書を持つ長谷川ちえさんが営む、器と生活道具を扱うお店。

TEL:0247-61-6650
福島県田村郡三春町中町9
営業:10:00〜17:00 
定休日:水 
アクセス/JR磐越東線三春駅下車徒歩20分。バスの利用は中町バス停下車。車の場合は磐越自動車道郡山東I.C.下車

WRITING/AKIKO MORI PHOTO/KOHEI SHIKAMA (akaoni)