ライバルはアプリゲームやInstagram――小説投稿サイト3社が語る、Web小説の現状と展望

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小説投稿サイト「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」を運営する3社が集い、Web小説の現状や今後の展望について語るプレスセミナーを東京・渋谷ヒカリエで開催しました。ディスカッションパートでは「2016年度の小説投稿サイトの展望」をテーマに各サイトの担当者が議論。新たなコンテンツが生まれ、作家を育てる場となっている小説投稿サイトの現状と今後の展望について意見交換をしました。

「小説投稿サイトの現状と展望 」の写真・リンク付きの記事

まずは、小説投稿サイトから人気作が生まれる理由を分析した『ウェブ小説の衝撃 ─ネット発ヒットコンテンツのしくみ』(筑摩書房)を手掛けるなど、サブカルチャーに関する取材・執筆活動をしている飯田一史さんが登壇。Web小説がもたらす出版業界への影響について講演しました。

近年は書籍化だけでなく、アニメ化やゲーム化などさまざまなメディアミックス展開が進んでいるWeb小説。IP創出の場としても重視されるようになり、作家や読者、制作会社においても注目の集まるメディアとなっています。『出版月報』2016年5月号(出版科学研究所)に掲載された文芸書の月間売り上げランキングによると、上位20作品のうち半数近くがWeb発の作品だったそう。基本的に無料で読めるWeb小説ですが、書籍化されてもなお売れるというのが特徴でもあります。

飯田さんは、小説投稿サイトでよく読まれているジャンルについても言及。サイトごとで読者に好まれる傾向は異なるものの、特定ジャンルだけが盛り上がっているわけではなく、恋愛コメディーからホラー、ミステリーまで幅広く人気を集めていると説明します。また北米や中国にもWeb小説は存在しており、Web小説のメディアミックス化はすでに世界的なビジネスモデルになっているとも指摘。飯田さんは「小説投稿サイトは、日本の小説市場で最も読者に読まれている媒体。日本の文学史上、最も影響力のある小説専門メディアになっている」と分析します。

続いて、小説投稿サイトの各担当者が自社サイトの特性や概要を紹介しました。まず最初は、DeNAが運営する「モバゲータウン」(現・Mobage)で展開されていた小説コーナーの盛り上がりを受け、サイトから独立する形で生まれた小説投稿サイトの「エブリスタ」(当時は「E★エブリスタ」)。DeNAとNTTドコモの合弁会社として2010年に設立されたエブリスタによる運営で、2010年6月にサービスを開始しました。これまでの約6年間で誕生した作家数は累計で141万人。書籍化された数は550冊に上るそうです。

▽ エブリスタ - 無料コミック・小説投稿サイト

ユーザー層については、スマートフォン・フィーチャーフォンでの利用者が全体の9割超を占めるなど、圧倒的にモバイルユーザーが多いとのこと。これはエブリスタの前身となっているモバゲータウンをフィーチャーフォンで利用していた人が多く、早めにスマートフォン対応を行ったことが原因ではないかと、エブリスタの取締役・芹川太郎さんは分析します。現在はスマートフォンでサイトを利用する人が全体の85%(フィーチャーフォンでの利用は7%)と大部分を占めており、作者の50%以上がスマートフォンから投稿しているそうです。

読まれるコンテンツも幅広く、ヒットコンテンツは時代の流れとともに変わってきているとの話も。サービス立ち上げ当初の2010年ごろに人気を集めたのは、その当時ブームだった10代の女性向け恋愛小説。同じころ登場した金沢伸明さんの『王様ゲーム』(双葉社)をきっかけに、サイト内でホラージャンルが確立されました。芹川さんは「2013〜2014年ごろからミステリーが増えている。書籍化もされた太田紫織さんによる『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』(角川書店)のヒットがきっかけです。続いて望月麻衣さんの『京都寺町三条のホームズ』(双葉社)も書籍化されました。ヒット作が生まれたジャンルでまたヒット作が生まれるという流れができている」と説明します。

エブリスタ発の書籍化作品

近年では、毎月異なる出版社と共に「エブリスタ小説大賞」を実施。コミック原作にも注力しており、2014年にはマンガ誌『週刊ヤングマガジン』(講談社)の編集部とエブリスタによるWebコミックレーベル「eヤングマガジン」(当時は「ヤングマガジン海賊版」)を立ち上げました。芹川さんは「面白い話は書けるけど絵が苦手な人と、絵はうまいけど話を考えるのは不得意だという人を組み合わせていくことで、新しいコンテンツが生み出せるんじゃないかと思っている。大きなヒット作を生み出していきたい」と展望を語ります。

▽ 小説家になろう - みんなのための小説投稿サイト

次に、2004年4月に開設された「小説家になろう」を運営するヒナプロジェクトの取締役・平井 幸さんが概要を説明。同社の代表を務める梅崎祐輔さんが個人で立ち上げた同サイトは口コミで広まり、2010年に運営を法人化しました。現在の登録ユーザー数は約80万人。作品はユーザー登録をしなくても読めるため、読者の数も含めるとさらに多くの人がサイトを利用していることになります。ユーザーの端末分布を見てみると、パソコンから利用している人が他サイトに比べて多いというのが同サイトの特徴。平井さんは「効率よくWeb小説を巡回して読むために、という発想でできたサイトなのでパソコンユーザーが多いのでは」と分析します。

書籍の出版業はしておらず、あくまでもプラットフォームの提供のみとなっている同サイト。「公平・中立な運営」を信条としているため、企業からの依頼についても全面的に引き受けているそうです。「弊社から作者に書籍化を依頼するケースは、出版社から書籍化を打診された場合と、サイトで実施している小説コンテストで受賞した場合。書籍化された後の展開については出版社に任せています」と平井さん。企業が同サイトで実施する小説コンテストについてはプラットフォームのシステム利用料としてある程度のマージンを取っているものの、書籍化の打診については基本的に無償で橋渡しをしているそうです。「弊社のビジネスモデルは広告ですべて賄えている状態。企業が参入できるハードルは低くしていく」と現状の体制について述べました。

多くのユーザーが作品を探すために見るというランキングに関しては「変動が激しい。今日ランクインしたものが3日後には圏外になっていることもよくある」とのこと。また「自分ならこうするのに」という欲求のもと、読者がオリジナル作品の要素を使って派生作品を生み出すという文化もあるそうです。現在の人気ジャンルは恋愛とファンタジーで、特にファンタジーについては根強い人気を誇っていると平井さんは話します。

その中の1つとして象徴的なのは、異世界を舞台にした小説。現実世界に住む主人公が何らかの影響で異世界へ行き、そこで手に入れた能力を使って活躍していくという物語が描かれます。こうした作品は「なろう系」とも呼ばれるなど、独自の文化として確立されているそうです。

また携帯小説ブームの流れから女性向けの恋愛作品も多く、その中でも人気ジャンルになっているのが「悪役令嬢」と呼ばれる作品群。本来であれば主人公・ヒロインの敵役に当たるポジションのキャラクターにスポットが当たっており、主人公へ嫌がらせを行うなどして、最終的に何らかの制裁を受けるというのが王道ストーリーだそうです。ここから分岐した「婚約破棄」も独自文化として生まれた作品群とのこと。これら3つは「人気というよりも、すでに定着しているジャンル」だそうです。

今後について平井さんは「書籍化に重点を置いたサイトではないものの、認知度が高まっている以上、出口の安定化も求められている。書籍化に限らず、舞台化や映像化のお声掛けを頂くことも増えてきました。他社との提携はこれからも積極的に行っていきますし、IP創出のきっかけになれるようなサイトであり続けたい」と述べました。

▽ カクヨム - 「書ける、読める、伝えられる」新しい小説投稿サイト

最後に、2016年2月に立ち上がったばかりの「カクヨム」を運営するKADOKAWAのカクヨム編集長・萩原 猛さんが登壇。立ち上げの意図について「小説を中心としたIPを生み出し、KADOKAWAにある他の部門とのメディアミックスを目指す場として開発しました。出版社が運営しているということもあり、書籍化にも積極的です」と説明します。同サイトの特徴の1つは、権利者の許諾を得たKADOKAWAの2次創作作品を発表できること。2次創作で原作を知り原作を読む、という流れが多いことを受け、コンテンツのさらなる拡大を期待して用意したそうです。

投稿されるジャンルの分布については、Web小説の人気としてファンタジーが強いものの、全体的にばらけているのだそう。理由について、萩原さんは「各ジャンルごとに賞金を用意したコンテストをオープン前から用意した影響ではないか」と分析。「エッセイ・ノンフィクション」への投稿が多いのも特徴で、この盛り上がりを受けて「エッセイ・実話・実用作品コンテスト」が企画されました。

ビジネスモデルは書籍化が基本になっているとのこと。2016年度で20作、2017年度で40作の書籍化を目標にしているそうです。サイトのローンチに合わせて開催した「第1回カクヨムWeb小説コンテスト」には、5,588点の応募が。用意した全7ジャンルで選出された大賞作品は、今年度のうちに出版される予定です。萩原さんによると、大賞以外でも書籍化を検討したい作品が多かったため、追加で特別賞を設けるに至ったそう。結果、大賞以外に19作の書籍化が決定し、第1回のコンテストだけで計26作が出版されることになりました。

二宮酒匂さんの 『幼馴染の自動販売機にプロポーズした経緯について。』(カドカワBOOKS)は、カクヨムのユーザー投稿作品から初めて書籍化される

今後については「作品の発表媒体であることは大切にしたい。才能発掘の場としても重視している。これらを拡大していけば、活字にまつわるすべてのライブラリーにもできるのではないか。ビジネスモデルとしては書籍化だけでなく、映像化やゲーム化も考えています」と述べました。

プレスセミナーの最後は、3社合同のディスカッションが開催されました。まずテーマに上がったのは、ランキングに載っている作品にのみ読者が集中しがちという問題について。芹川さんはランキングそのものの需要を「順位があることで切磋琢磨(せっさたくま)して頑張れるという作者の意見もある」と述べる一方で、1位が“一番いい作品”であるかは一概には言い切れないと語ります。平井さんは「ランキングに上がる作品は、読者の需要があるということ」と読者の視点から回答。萩原さんは「ランキングはサイトへ初めて来た人がまず訪れる指標にもなっている」と回答しつつも、ランキングが“絶対”になってはいけないと指摘しました。

次は、各サイトで形成されていく独特の文化がテーマに。芹川さんは「ユーザーの間で自然に生まれる」と述べ、人気作の生まれたジャンルが盛り上がり、さらなるヒット作が次々と生まれていくことで文化の1つになっていくと説明します。続けて「賞を開催して特定ジャンルの作品を増やすこともできるが、自然発生する盛り上がりにはかなわない。大事なのは、こうしたユーザー発の盛り上がりを広げていくこと」と運営の役割について述べました。

またメディアミックス展開について、萩原さんは「カクヨムはKADOKAWAの運営ですが、必ずしもKADOKAWAのレーベルから出版しなければいけないという制約はない」と回答。運営を通せばKADOKAWA以外でも書籍化は可能だとして、外部企業との取り組みは「面白いことができそうであればぜひやりたい」と呼び掛けます。さらに「小説だけでなく、エッセイや紀行文なども気軽に投稿できる場所にしたい。そう考えると、一緒に組む企業はまったく別の業界かもしれません」と、ジャンルに縛られない展開も検討しているとのこと。芹川さんも「シナリオや戯曲のような作品が投稿されていけば、人気になった作品が舞台化されるという機会もあるのでは」と述べます。

平井さんは、書籍化以降の話は作者と企業に任せているとの前提を置きながら「作品の出口を作るという意味では、さまざまな企業と提携していきたい」とコメント。また作者同士のつながりが強く、作者自身が「“なろう出身”だという帰属意識を強く持っていただけている」ということから、メディア展開を応援するというよりは「作者や作品を後押しする運営をしていきたい」と語りました。

最後に芹川さんは「ライバルは同業他社ではなく、アプリゲームやInstagramになっている」とも言及。いかに今のライフスタイルの中に「Web小説を読む」という行動を取り入れてもらえるかが課題だと指摘します。また「一般的に、まだWeb小説が書籍の小説よりも“リテラシーの低いもの”として見られているのでは」という認識もあるとして、Web小説をこれからの時代のエンターテインメントコンテンツとして認知されるように押し上げていきたいとも言及。さまざまな成功事例を作り、多くの人に知ってもらえるようにWeb小説というジャンルを成長させていくことが「Web上で作品を公開している人たちに対する運営の責任」だと述べました。

メディアミックス展開を見据えた原作の発掘や後押しをしていきたいと語った3社。一過性のブームではなく、長年続いているWeb小説というジャンルをさらに押し上げていき、出版社だけにとどまらない企業との提携でより面白い流れを生み、まだWeb小説に触れていない人にも認知してもらえるような取り組みをしていくとの展望が述べられました。今後は、各社の抱えている課題をいかに改善していけるか、またこれまでリーチしていなかった層をどのように取り込んでいくかが、Web小説の可能性を広げていく鍵といえます。