■連載/ヒット商品開発秘話

 寝苦しい夏。ぐっすり眠れず、つい寝不足気味になる。そのため、夏になると体調を崩してしまうという人も多いことだろう。

 疲れた体を休めぐっすり眠るため、この数年、高機能のマットレスが注目されている。国内・海外合わせて様々なブランドが脚光を浴びているが、アイリスオーヤマの『エアリーマットレス』もその1つで、人気を集めている。

 2012年6月に発売された『エアリーマットレス』は、三次元スプリング構造による高い反発力が特徴。寝返りに必要な動きを助けるとともに、高い反発力により身体の沈み込みを防ぎ、腰や背中に集中する圧力を全身に分散して理想的な寝姿勢を維持する。ホームセンターやGMS(総合スーパー)、専門店などで販売されており、これまでに約55万枚も売れている(敷きパッド、敷き布団も含む)。

アイリスオーヤマ『エアリーマットレス』

■東洋紡と共同で中材を開発

 開発は2011年からスタート。「睡眠の質を上げたい」という声の多さを背景に、「快眠」をキーワードにした機能に特化した商品をつくれないか、ということから始まった。

 まず睡眠に関する悩みのリサーチからスタート。何に悩んでいるか、なぜ眠れないのかを調べた。その結果、「腰が痛い」「朝起きたときに眠った気がしない」などといった悩みを抱えていることが判明する。収納インテリア事業部の岩崎亮太事業部長は結果を受けて、「思っていたより睡眠の悩みは深刻だった」と振り返る。

岩崎亮太氏
アイリスオーヤマ
収納インテリア事業部
事業部長
岩崎亮太氏

 ウレタンマットレスを扱っていることもあり、最初はウレタンのカット方法で解決を図ることも検討した。しかし、納得のいくものができないことから、別の中材を探すか開発することにした。このとき注目したのが、長時間座っていても疲れない鉄道車両の座席の中材。使われているものを調べたところ、東洋紡の「ブレスエアー」という素材が実績を持っていることを知る。

 ただ、「ブレスエアー」をそのまま寝具に使うわけにはいかなかった。「イスの中材を寝具に使うと反発力が強すぎて、寝心地が悪くなります。したがって、密度を変えなくてはなりませんでした」と岩崎氏。そこで同社は、東洋紡と共同で「ブレスエアー」をベースにした中材「エアロキューブ」を共同開発することにした。

「ブレスエアー」には、中空構造になっている繊維状の素材が採用されていた。この素材が3次元状に絡み合うことで高い反発力を生むだけでなく、通気性の良さや丸洗いできるという特長を持つことになった。通気性の良さや丸洗いできるという特長は、同社が評価したポインであった。

 丸洗いできることの必要性は、アンケート結果から痛感したことだったという。岩崎氏は次のように話す。

「アンケート結果には、『朝起きると、くしゃみが止まらない』といったものがありました。これは、寝ている間にアレル物質を吸い込んでしまうためと考えられており、誰にでも起こり得ることです。衛生面を理由に、中材は丸洗いできることを1つの条件にしていました」

「エアロキューブ」の開発は、密度を変えることがポイントになった。素材の絡ませ方、素材の射出量を見直したが、納得のいくものが完成するまでに半年近くかかったという。「寝具業界では半年は早いかもしれませんが、最短3か月で商品化する当社からすると、時間がかかったという印象です」と話す岩崎氏。この半年の間に、密度を変えては体圧分散の評価や耐久性試験を行なうことの繰り返しだったという。

『エアリーマットレス』に使われている「エアロキューブ」
『エアリーマットレス』に使われている「エアロキューブ」

「エアロキューブ」と他の中材との通気性比較。数値が高いほど通気性がいい
「エアロキューブ」と他の中材との通気性比較。数値が高いほど通気性がいい

水を溜め込まず、丸洗いが可能
水を溜め込まず、丸洗いが可能

一般的な敷き布団と『エアリーマットレス』との体圧分散性評価の比較
一般的な敷き布団と『エアリーマットレス』との体圧分散性評価の比較

圧縮テスト硬度保持率の比較。硬度保持率が高いほど圧縮耐久性が高い
圧縮テスト硬度保持率の比較。硬度保持率が高いほど圧縮耐久性が高い

■ホームセンターで商品の特長を直接伝える

 2012年6月、まず厚さ5cmの『エアリーマットレス』と3cmの『エアリー敷きパッド』を発売。その後、2013年に厚さ5cmでも固めの『エアリープラスマットレス』と厚さ9cmの『エアリーマットレス』を追加。2014年にウレタンと組み合わせた『エアリーハイブリッドマットレス』、2015年に暖かい側生地を採用した『エアリーWarmマットレス』を追加した。

 なお、2012年に初めて投入された『エアリーマットレス』は、2013年になって側生地が見直された。2012年に発売したものの側生地は表裏ともにメッシュ生地だったが、「涼しいけど冬場は少し寒い、という声をいただいた」と岩崎氏。表裏ともにメッシュ生地にすると通気性が良すぎることから、片面をニット生地+綿に変更。冬場はメッシュ生地を裏側にすれば、寒く感じることなく快適に眠れるというわけである。

 一番売れているチャネルは、同社らしいホームセンター。SAS(セールスエイドスタッッフ)と呼ばれるスタッフを店舗に派遣し、セルフ販売が主流のホームセンターで、店頭にマットレスを敷かしてもらい体験できるようにしたほか、商品の特徴などを直接伝えることに力を入れた。発売直後はこれを徹底して行なったが、一番安いもので2万円前後と高機能マットレスの中では安価にもかかわらず、「こんな高いものが売れるか」と言われたこともあったほど。しかし、実績をあげることができたこともあり、ホームセンターでの取り扱いが増加していった。

■異なる中材と組み合わせた商品展開

『エアリーマットレス』の今後の課題は、異なる素材の組み合わせた中材の提案にあるという。この課題に対する1つの取り組みが、『エアリーハイブリッドマットレス』である。『エアリーハイブリッドマットレス』は「エアロキューブ」と、アキレスが開発した無膜ウレタン「ムマック」を組み合わせた中材を使用したマットレス。無膜ウレタンとは従来の有膜ウレタンより通気性に優れており、丸洗いできる特徴を持つ。

 開発のきっかけの1つは、ウレタン特有のプロファイル加工(波状カット)を好む人が多いこと。「半面を『エアロキューブ』にし、もう半面をプロファイル加工にしたウレタンにすれば、お客様は好みの方で寝てもらえます」と岩崎氏。ウレタン素材と組み合わることで、ウレタン素材の寝心地が好みの人たちにも手に取ってもらいやすいものをつくることにした。

 ただ、ウレタン素材なら何を組み合わせてもいいというわけではなかった。条件は、「エアロキューブ」の通気性の良さと丸洗いできるという利点を阻害しない無膜ウレタンであること。一見すると、条件に合うウレタン素材を見つけるのが難航しそうに見えるが、企画段階で「ムマック」が見つかったという。異なる素材を組み合わせることもあり、耐久試験なども一から行ない、他の『エアリーマットレス』と変わらない品質を確認した上で上市した。

『エアリーハイブリッドマットレス』の中材。
『エアリーハイブリッドマットレス』の中材。上下2層構造で、上段が「ムマック」、下段が「エアロキューブ」となっている

★★★取材からわかった『エアリーマットレス』のヒット要因3★★★

1.特徴を打ち出しやすい

「腰が痛い」「眠った気がしない」「起きるとくしゃみが止まらない」といった悩みを解決するために、中材を東洋紡と共同開発。悩みを解決できる高機能な中材が完成したことで、商品特徴を打ち出しやすかった。

2.手に届きやすい価格

 様々なブランドから高機能マットレスが出ているが、価格が高めに感じられることも珍しくない。しかし『エアリーマットレス』は、一番安いもので2万円前後と、他ブランドより低価格に設定。比較的手に届きやすくした。

3.従来からの売り方を踏襲しなかった

 販売の主力チャネルであるホームセンターでは、寝具はセルフ販売が主流。しかし、SASを派遣して丁寧に商品特徴を説明したりするほか、多くの店舗で実際に寝て体験できるようにもした。従来からの売り方を踏襲しなかったことが、消費者に商品理解を促し、購入に結び付いた。

 同社がユーザーを調べたところ、93%のユーザーが快眠効果を実感し、満足しているという(マットレス以外のユーザーも含む)。一人ひとり好みが異なり、万人が「イイ」と思う商品はないのが普通の寝具で、満足度93%は考えられない数字ではないだろうか? 子供から高齢者まで満足できる寝具だといえそうだ。

ブランドサイト
http://www.irisohyama.co.jp/airy/

文/大沢裕司

ものづくりに関することを中心に、割と幅広く色々なことを取材するライター。主な取材テーマは商品開発、技術開発、生産、工場、など。当連載のネタ探しに日々奔走中。

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