エロとエレクトロはなぜいままで出会えなかったのか:石野卓球、最新作『LUNATIQUE』における探求

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「フェティッシュ」をテーマに『LUNATIQUE』の制作に取り組んだ石野卓球。DOMMUNE特別番組「石野卓球 "LUNATIQUE" RELEASE SPECIAL!!」5時間生配信を直前にして、6年ぶりのアルバムで見えた「ズレ」と「持続性」を語る。

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石野卓球のソロ・ワーク『LUNATIQUE』は、フランス語で“気まぐれ”を意味するタイトルの通り、コンパクトだった前作『CRUISE』から一転、さまざまなタイプのトラックが収められ、刻々と表情が移ろっていく、ヴァラエティに富んだダンスアルバムになっている。

しかし、一方で、イラストレーターの横山明が成人向けマンガ雑誌『漫画エロトピア』のために描いた、妖艶な美人画を基にした宇川直宏のジャケットが見事に象徴するように、そこからはあるひとつのイメージが浮かび上がってくるだろう。そして、石野によると、それは“エロティック”という言葉で表現できるという。もちろん、以前から、彼と、彼のユニット・電気グルーヴはいわゆる下ネタを好んできたが、しかし、『LUNATIQUE』のエロはそれとは違うのだ。

石野卓球に、アルバムと、そこに込められた彼のエロティックな哲学について話を訊いた。

INFORMATION

8月3日『LUNATIQUE』リリース!

2010年にリリースされた『CRUISE』以来、ソロとしては6年ぶりとなる新作。ジャケットを手がけたのは宇川直宏。2,500円(税抜き)、amazonから購入可能(1.Rapt In Fantasy / 2.Fetish / 3.Lunar Kick / 4.Fana-Tekk / 5.Crescent Moon / 6.Die Boten Vom Mond / 7.Amazones / 8.Lunatique / 9.Selene / 10.Dawn )。

──ソロとしては、6年振りのアルバムになります。

本当はもっと早く出すつもりだったんですよ。『CRUISE』(2010年)の次はもうちょっとアッパーな、派手めのダンスアルバムをつくろうと考えて、来る日も来る日もスタジオに入って作業をしてたんだけど、ただ、なかなか思うようにできなくて。

オレは曲をつくるとき、途中で止めないようにしてるのね。いったんつくり始めたら、「ダメだ」と思っても最後までやって、「次に行こう」って感じで。『CRUISE』のあとも、そんなふうに、多いときで1日に3曲くらいつくってて。でも、「何か違うんだよなぁ」って首を捻りながらつくり散らかしてるうちに、気が付いたら世の中はEDMが流行りはじめてたし、「じゃあ、アルバムはしばらくいいか」って作業を止めちゃった。

しばらくして、今年の頭に自分のPCのHDDをチェックしてたら、つくったのも忘れてたような曲がたくさん出てきて。2007年ぐらいから、いま言った『CRUISE』のあとにレコーディングしたものまで、全部で100曲ぐらい。で、「そう言えば、こんなものつくってたなぁ」って聴き返してみたら、いいものも多くて。「こんな曲、誰がつくったんだ?!」っていう。そりゃあ、覚えてないよね。1日しか聴いてないわけだから。ひと晩しか寝てない女の顔、覚えてないでしょ?

──時々、印象に残る人もいると思いますけど(笑)。

もちろん、聴き直してみて、自分の曲だっていうことはわかるんだけど、「はぁ、あなたがわたしの息子? はじめまして」みたいな距離感っていうかさ(笑)。で、そこから抜粋してCDに焼いて、友達に配ったりしてたの。「家で作業するときにでも流してよ。邪魔にならなくていいよ」みたいな感じで。

そうこうしているうちに、「友達に配ってるだけなのももったいないなぁ」と思い始めたんだけど、そこでアイデアが湧いて。つまり、いままでのソロのアルバムっていうのは、アルバムをつくると決めて、一定の期間にレコーディングしたものをパッケージングしてたわけ。でも、今回は、発掘されたストックを、DJでいうレコードボックスとして捉えて、そこから、コンセプトに合った曲と順番を考えたらどうだろうと。で、それをさらに肉付けして、アップデートしたのがこのアルバム。

──そのコンセプトは“エロティック”だということですが、ちなみに、プライヴェートでCDにまとめていた際も同じコンセプトで、渡す際にそう説明していたのでしょうか?

以前は、テーマは“フロウ”って言ってたかな。「漂うような感じ」って。“エロ”までは言ってなかった。でも、自分でも聴いてるうちに、「これ、随分、エロいなぁ」と思うようになって。

『CRUISE』のあとのレコーディングでは、いわゆるメロディではなく、不安定な音をどう取り込むかっていうことを考えてたんだよね。そのあとアルバムにする段階の肉付け作業のときに入れたシンセとかも、あえてシンクさせないでズレさせるっていう。そういう、不安定な感じっていうのは意識してた。だから、全体的にカチッとしてはいるんだけど、常にモワーンって霧がかかったような音が鳴ってたり、シーケンスが合ってるのかと思いきやズレてたり。で、「これは、実際にズレてるのかな? 頭のなかでズレてるのかな?」って補正して楽しむような感じ。それが、自分にとってのエロのイメージと重なったんだよね。

──Twitterでは、「イヤらしいことを考えてつくりました」と書いていました。

LUNATIQUE,デビューしたての新人の様に繰り返し聴いています。良い出来です。mixは得能直也くんと僕です。(ストイックにイヤらしい事だけを考えてます)

- Takkyu Ishino/石野卓球 (@TakkyuIshino) 2016年6月17日

「イヤらしいこと“だけ”を考えて」、ね! 制作中はずっと硬くしてました。

──持続力、すごいですね。

普通、「硬くしながらつくってた」って言うと、「ふざけた野郎だ」って思うだろうけど、別にしごきながらつくってたわけじゃなくて、硬くしながらつくってたんだから、溜めてるわけですよ。むしろ、ストイック。

──ただ、このアルバムに漂っているエロさは、直接的な感じではないですよね。

“エロ”って、人によって考え方が違うから。おっぱいがボーンって出てるのがエロっていう人もいるでしょ。でも、オレにとってはそれはまったくエロくないし、かといって、“お色気”とも違うし。…よく、変態呼ばわりされるんだけど、筋金入りの変態なんで、気安く呼ぶなよっていう。ただ、自分としては法に触れるようなことはしない。それはオレの変態道に反するんで。あと、人を巻き込まない。

──プレイの場合は、ひとりは巻き込んでますよね?

いや、巻き込むっていうのは、自分の快楽を相手に押し付けるっていうこと。そうじゃなくて、お互いの楽しめないことは取り入れないっていうのがルール。

──現代日本人男性のセックスは、相手に対して、一方的に性的な欲望を押し付けるものになりがちだということも言われますが。

喋るTENGAみたいな? それに満足できるっていうのが、ねぇ。新人類って言うんですか?(笑)

──卓球さんのエロ観としては、先程のシーケンスの話のように、互いにイメージを調整し合って楽しむことが重要だと。そういえば、よくSMについて話されていますよね。「SとMは表裏一体だし、パートナーシップなんだ」みたいな。

そうそう。分かりやすく言えば、SとMは立ち位置の関係ではなくて…まぁ、ロールプレイ(役割演技)でもあるんだけども、嫌なのは、「はい、スタート!」っていうミニコントになりがちでしょう? そりゃあ、イッたあとに恥ずかしくなりますよ。じゃあ、その問題をどう解消するかというと…この話、続けても大丈夫? 興味ある?(笑)

──続けて下さい(笑)。

どう解消するかっていうと、要するに、皆、日常からエロいモードに入るときに、カチッとボタンを押すみたいにスタートしようとするけど、そうではなくて、ロータリーフェイダー(ミキサーに付いている、音を調整するための回転式のノブ)で、幽霊のように常にうっすらとエロを被せておいて、それをコントロールすればいい。

──音楽の話に繋がりましたね。

そうすると、「恥ずかしい」みたいな感覚がなくなって、俗に言う変態的な行為も当たり前の愛し合い方になっていきますよ?(笑)

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──ちなみに、ジャケットには、いわゆるスーパーリアリズムのイラストレーターとして知られる、横山明が描いた成人向けマンガ雑誌『漫画エロトピア』の表紙が使われています。

最初は違う写真を使おうと思ってたんだけど、それはあまりにも生々しくて直接的な感じだったので、もっとイメージを伝えるのに合ったものはないかなぁって、日課であるインターネットフェティッシュサイト・パトロールをしてたんだよね。もちろん、ミニスカポリスの格好で。

──(笑)。

で、最初は“昭和のSM”をキーワードに探してたんだけど、それだと、どうも“畳感”が強いものばっかりが出てくるのね。「そうじゃないんだよな〜」と思ってたところに、この表紙の画像に行き着いて、「これだ!」って。

──それを基にデザインを担当したのは、宇川直宏さんです。

これはもう宇川くんしかないと思って直談判した。それで、今まで出たことがないDOMMUNEへの出演(8月3日配信予定)と引き換えに、やっもらえることになって。で、まずは宇川くんが横山先生の原画を探してくれたんだけど、膨大な数だし、いちいち取っておくわけがないじゃない(笑)。だから、仕方がなく、コレクターのひとから雑誌の実物を買い取って。ただ、それも昔の雑誌だし印刷が粗いんで、宇川くんがレタッチしまくってくれたという。

──印刷されて解像度が粗くなったスーパーリアリズムを、レタッチでもって再び解像度を高めていくという作業は、非常にテクノ的に思えます。

素晴らしいよね。もちろん、宇川くんもストイックにイヤらしいことだけを考えてレタッチしてたと思う(笑)。

──元の雑誌は78年刊行ということですが、67年生まれの卓球さんにとってはちょっと上の世代のものという感じですか?

いや、78年だと11歳でしょ? 余裕で読んでた。実家が店をやってて、エロ本も置いてあったから読み放題だったんだよ。でも、子供だからどうしていいのか分からず、グラビアを舐めてみたり(笑)。友達と、「何かエロいの見ると、おちんちんが尖るんだよね」「え、お前も? 良かったー! オレだけかと思ってたー!」なんて話をしてたね。

──『エロトピア』は、この後、ロリコン路線に行きますよね。

そうそう。表紙が変わっちゃう。

──遊人が担当するようになる。そこで、横山明時代をチョイスするというのが卓球さんらしいなと。

横山先生の絵は“大人”!って感じ。それにしても、“エロトピア”って名前が凄いよね。住みてー!

──今回、ミックスエンジニアには、電気グルーヴ『Fallin’ Down』(15年)から引き続き、得能直也さんが採用されていますね。

最初は何人かのエンジニアに発注して、曲調がヴァラエティに富んでる感じを強調しようと思ってたんだよね。それで、まず、得能くんにアルバムのラフミックスを送って、「このなかから好きな曲をいくつか選んで」ってお願いしたら、「曲順も音の方向性も決まってるんだったら、全部、ぼくにやらせて下さい」って言ってくれて。で、「マスタリングはボー・コンドレン(カリクス・マスタリング/ベルリン)にお願いしたい」っていうアイデアまで出してくれたんで、じゃあ、そうしようって。

──以前、得能さんに話を訊いたとき、「卓球さんは割と丸投げしてくれる」と言ってました。

エンジニアにも2種類いて。ラフミックスから原型を留めないくらいまでいじるタイプと、方向性を踏まえてブラッシュアップしてくれるタイプ。得能くんは後者で、綺麗に磨いて形も整えてくれるから、注文をつける必要がないんだよね。

──それこそ、宇川さんのレタッチのように、音に関しては得能さんがブラッシュアップしたと。

そうそう。あと、彼は研究熱心だよね。ダンスミュージックにも凄く理解が深いから。

──得能さんの名前はceroを始め、インディロックの仕事で知られるようになった感じがありますけど、もともと、ダンスミュージックが好きなひとですもんね。京都でもパーティをやってるし。

そういえば、得能くんが京都に住んでるってこともあって、今回、初めての試みとして完パケするまで一度も顔合わせなかったんだよ。最近はDropboxなんかですぐ音を確認出来るじゃない? DJで地方に行って、空港で得能くんが送ってくれたものを聴いて、そこで、「ここをこういうふうにして」って言ったら、羽田に着いたときにはもう出来てるっていう。未来だよね!

──ちなみに、アルバムは6年振りになりますけど、DJはペースを落としてないですよね。

落としてないね。入れられるだけ入れてる。肩を温めておきたいっていうのもあるし、あと、単純に好き。アナタノコトガチュキダカラー! 磯部くんのことだよ。

──告白、ありがとうございます(笑)。6年前とは日本のクラブの状況も変わってきたと思うんですよね。客の年齢層が上がったと言われる一方で、最初に話に出たようにEDMが流行ったりとか。風営法が変わったりとか。ペースを落とさずに、DJを続けるなかで感じるところはありますか?

まず、EDMは盛り上がってたって話は聞くけど、そういうところに遊びに行ったことがないから、実際は知らないな。あと、年齢層が上がってるっていうのも分かる。でも、一方で尻すぼみはしてないっていうか。例えば、EDMが流行ってフェスに行くようになって、そこでオレのDJを聴いて、「こんなのもあるんだ?」って遊びに来るようになった子もいるし。

──ちなみに、いま、やってていちばん面白いハコはどこですか?

岡山の「YEBISU YA PRO」。

──この間もやってましたよね。

うん。ダントツで面白いね、あそこは。音もいいし、店のひとたちのお客さんをもてなそう、楽しませようっていう姿勢が素晴らしいんだよね。もちろん、ビジネスとして成り立たせながら、ちゃんと人肌の伝わるやり方をしてるっていうか。ほんと、よそに例がない。

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──というわけで、新作『LUNATIQUE』について訊いてきましたが、エロとテクノって、これまで、日本ではあまり結びついていなかったですよね。

エロい人がいなかったんです、オレくらいしか(笑)。

──例えばエロとR & Bだったら、日本でもあると思うんですけど。

R & Bのエロさとは違うよ。これは、変態だから。いや、やっぱり、変態って言うと語弊があるな。「変わった性癖をおもちの方」? そこは、今後、言い方を考えていかないとなって。「変態は何でもあり」みたいに思われちゃっても困るからね。盗撮して、下着盗んでとか、そんなんじゃないからさ。そんなやつが「アルバムをつくりました!」って堂々とインタヴューを受けてるの、ヤバいじゃん(笑)。そうじゃなくて、どちらかというと、“フェティッシュ”って言葉が近いかな。

──もともと、エレクトロニックミュージックおいては、音に対するフェティシズムが重要ですしね。そう考えると、卓球さんがこれまでこのようなアルバムをつくってこなかったのが不思議なくらいです。

実は前にもトライしたんだよね。『throbbing disco cat』(99年)とかで。ただ、当時はアルバム1枚をレコーディングする間、おちんちんを硬く保つことができなかった。

──若かったのに(笑)。

若いからこそ、途中でイッちゃうんだよね。で、賢者モードになっちゃうんで、また勃て直さなきゃいけないじゃない? その間につくるもののなかには、イヤらしいことを考えずにつくった曲もあるし、そうすると、イヤらしいアルバムとは言えなくなっちゃう。

──今作、リスナーの想像力の豊かさも試されそうですね。

ヴィジュアルとタイトルと音の方向性がここまではっきりしてたら、どういうことを表現したいかはよっぽど鈍くない限り分かると思うから、あとは、各自、楽しんで欲しいかな。オレはこういうフェチだけど、あなたはどんなフェチなのかっていう。フェチのない人なんていないんだからね。

石野卓球|TAKKYU ISHINO
1989年にピエール瀧らと「電気グルーヴ」を結成。95年には初のソロアルバム『DOVE LOVES DUB』をリリース、このころから本格的にDJとしての活動もスタートする。97年からはヨーロッパを中心とした海外での活動も積極的に行い始め、98年にはベルリンで行われる世界最大のテクノフェスティヴァル「Love Parade」のFinal Gatheringで150万人の前でプレイした。99年から2013年までは1万人以上を集める日本最大の大型屋内レイヴ「WIRE」を主宰し、精力的に海外のDJ/アーティストを日本に紹介している。現在、DJ/プロデューサー、リミキサーとして多彩な活動をおこなっている。www.takkyuishino.com