「夫に殺意を抱いたことがありますか?私はあります」恋愛作家・村山由佳が語る

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 数々の恋愛小説を世に送り出してきた作家の村山由佳さんが、待望の新刊『La Vie en Rose ラヴィアンローズ』(集英社)を上梓しました。まずは簡単にストーリーを見てみましょう。

◆婚外恋愛で、夫のモラハラに気づき…

<門限は九時、打合せで外出する場合は三日以上前に場所と時間を報告、男性と一対一での打ち合わせは避けること、泊まりの旅行など論外――病的な束縛癖を持ちながらも優しい夫・道彦と暮らす咲季子は、自宅で開くフラワーアレンジメント教室が大人気で、ライフスタイルを紹介する著作もある主婦。

平穏な幸せを実感しつつも、年下のデザイナー・堂本との出会いをきっかけに夫のモラハラに気付き、秘密の婚外恋愛にのめり込んでいく。が、ある夜。すべてを知り激高した夫に対して、咲季子は大切なものを守るため、戻れない道へと踏み出してしまう>

 女心の読めない典型的なアラフォーおっさんである筆者は、このストーリーだけを見て、「未知の快楽にハマった不貞妻の堕落の物語」などとタカをくくっていました。

 が、不思議なことに、自分とは性別はもとより、趣味、生い立ち、家庭環境のすべてが違う主人公・咲季子に感情移入し、気付けば一気読みしていたことに驚きます。この謎を解き明かすため、著者の村山由佳さんご本人を直撃してきました。

◆最初の結婚生活で受けた傷が、いまだに消えない

――本作を執筆するキッカケについて教えてください。

村山:最初に書こうと思ったのは“殺意を抱く場面”でした。旧知の編集者と集まって話をしていて、「人が誰かを殺めたくなる瞬間ってどんな感覚なのかな」という会話になったとき、「私、本当に殺意を抱いたこと、一度あるよ」と。その状況を克明に話したら、「是非、村山さんの言葉で読んでみたい」となって。

――村山さんの実体験がベースになったわけですね?

村山:最初の結婚生活(編集注:村山由佳氏は二度の結婚→離婚を経験している)のときですから10年ほど前のことです。自分が一番大切にしているものを否定されたり、自分でも自信を持っていいと思っていたものを「ない」と言われたり。

 それを一番身近な人から言われると、抑圧されている側は最後の手段に出るしかなくなるんです。踏み越えてしまう人も中にはいて、たまたま私は踏み越えずに済みましたが、危うい線だったとは思います。

 最初の結婚相手自身に対しては、恩もあれば情もあるしネガティブな感情は消えています。ですが、その私を傷つけた“言葉”というのは、10年経った今でも消えないし、癒えない。そのことを今回、作品を書いていて、改めて感じました。

◆「これが幸せだ」と自分に言い聞かせている?

――社会的、経済的に自立し“強い女性”という印象の村山さんが、抑圧されていたとは想像しづらいところでもあります。

村山:すでにできあがっている人間関係というのはバランスの問題なので、外でどんな仕事をしてどんな社会的地位を築いていたとしても、家の中ではまた全然違う自分になってしまう。

 誰かしらあると思うんですよ。夫婦関係に限らず、この人には強く出られるけど、この人には頭が上がらない。もちろん、それは自然なことで、何にも我慢しないとなれば人間関係は成り立たない。

 でも、人によっては低姿勢でい続けるとどんどん増長して、モラハラを受けている側にしても、どこまでが大人としての譲歩で、どこからが人間としての尊厳を明け渡す行為なのか見えづらい。本作の序盤、咲季子は「これが幸せ」と自分に言い聞かして殻に閉じこもってしまうわけですけど、それって性別に関係なく、どこにでもあることですから。