編集者/ライターの池田園子が、週末起業家や個人事業主、経営者など、さまざまなスタイルで起業している女性にインタビューする連載です。

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『cakes』でのを中心に、書き下ろしを加えた初の著書を6月に上梓した紫原明子さん。本にも書かれていますが、20代のほとんどを専業主婦として過ごし、30代になるころに初めて社会に出て、いまやエッセイストのほかフリーランスPRとしても活動する、めずらしいキャリアの持ち主です。
そんな紫原さんの起業ストーリーをのぞいてみましょう。

約10年の専業主婦生活にピリオド。離婚を考えたことがきっかけに

Q. 社会人経験ゼロの状態で「働きに出よう」と決意した裏には、そうとうな覚悟があったのでは。なにがきっかけになったんでしょうか?

A. 前夫との離婚を考えはじめていたころ、社会との接点を保っていたくて、自宅でときどきホームパーティーを開いていました。友だちが友だちを連れてきてくれて、人の輪がどんどん広がっていくなかで、ある方が声をかけてくれたんです。運営者の一員として携わっている非営利団体の仕事を手伝ってくれないか、と。
その団体のボランティア・スタッフになったのは、30歳になるちょっと前です。きちんと働いたことがなく、ビジネスメールの送り方はもちろん、名刺交換のやり方すら知らなくて、とにかくビジネスマナーも知識も一切なかったんですが、ていねいに教えていただいたおかげで、一通りのことができるようになりました。
年に一度、200人規模のイベントを開催するときも、プロジェクトマネジメントや企画進行、危機管理対策など、実際に動きまわりながら、たくさんの学びを得ましたね。
非営利団体で、ボランティアの形で関わっていたため、お給料はいただかないものの、社会に出るための基盤をつくることができた、恵まれた環境だったと思います。そこで得た人脈や人とのつながり、出会いもすべて、かけがえのないものです。

小さな会社で経験を積めば、必要なスキルが手に入る

Q. 今フリーランスでされているPRのスキルは、どう身につけられたのでしょうか?

A. 先の300人規模のイベントにお招きした小さな出版社の経営者から、うちの社員にならないかと声をかけていただいたんです。若い男性ばかりの会社なので、「環境を整えてくれる人がほしい」とおっしゃっていて。
最初は、お茶出しや食器洗いのような事務的な仕事をしていました。私にとって初の正社員生活です。31歳のときでした。
転機が訪れたのは入社の翌月です。人がとにかく少ないので「今月から広報をしてほしい」と言われ、仕事内容ががらりと変わりました。未経験ですから、とにかくやりながら、考えながら、仕事を覚えていく日々です。広報業務に加え、広告営業もやりましたね。
ほぼ同時期に社内でイベントスペースの運営も始まりました。イベントブッキングや企画、当日のサポートなど、イベントに関わる一連の業務を担当させてもらえたのは大きいですね。体調を崩して1年ほどで退職しましたが、小さな会社にいたからこそ、本当にいろいろな仕事を任せてもらえて、毎日刺激的な環境でがんばれたことは、大きな実りになったと思います。
実際「広報経験者」として次の仕事につながりましたし、2014年からは業務委託としてフリーランスPRとして仕事を受注できるようにもなりました。そのころからWebを中心にコラム執筆の仕事もしていたので、物書きとPRの二足のわらじを履けることで、安定感もおぼえていました。
今はWebのコラム執筆に、書籍『家族無計画』に続く2作目の執筆、Webコンテンツのコンサルティング、スマートニュースでの事務・イベント企画の仕事を業務委託で受けてやっています。

自らの人生と重ね合わせて読んでくれる読者に感謝

Q. 初の著書『家族無計画』は好評ですね。いろいろな方が感想ブログを書いているのを見かけます。

A. ありがたいことですよね。はじめて本を出版して一番驚いたのは、Webのコラムを書いたときよりも、読者の方からのフィードバックが熱くて、ずっしりとした重みすら感じることです。
ブログやいただいたメッセージを読むと、その方自身の人生と重ね合わせながら読んでくださったんだな……と思える感想であふれているんです。
Webのコラムも、私から読者の方へ「エネルギーの受け渡し」だと思いながら書いていますが、本は製作期間がより長く、ボリューム感のあるものを出すため、より大きな感想が返ってくるんでしょうね。受け止めるほうもエネルギーを消費してしまうほどです。さまざまな方が手にとって、ていねいな感想を書いてくださり、感謝の気持ちでいっぱいです。

世界のすべてに白黒をつけようとしなくていい

Q. 書籍でこだわった部分、注目してほしい部分はどんなところですか?

A. 表紙や裏表紙などのイラストです。編集担当・平野さんがディレクションしてくれたものですが、イラストができあがったときに、私が伝えたいことや絶妙な温度感を100%くみとってくれている……と感動して、ちょっと涙してしまったほど(笑)。誰かを排斥しないようなゆるさ、なにかを無理に押しつけることのないやわらかさが、イラストからにじみ出ています。さらに言うと「寛容なことがいいよ」という考え方すら、主張したくはなかったんです。
私は父母が仲良く、お金の心配もない家庭で育ち「なにかが欠ける」という経験をしたことがありませんでした。でも、自分が離婚を経験して、いわゆる「標準的な家族」ではなくなったわけです。私自身は解放されて幸せになりましたが、社会の枠組みのなかでは離婚したことを後ろめたく思ったり、離婚していると言いづらいきゅうくつさを感じたりしたこともあります。
でも、本当はそう感じる必要なんてないし、もっと自由になるべきだし、自分も無自覚のうちに誰かにきゅうくつさを強いていたのではないかと、敏感に感じるようになりました。
それもあって、コラムでもなにが正しい・正しくない、なにがいい・悪いとは主観で表現しないようにしています。選択の幅は自分で広げたらいい、と主張しているつもりです。なにかに必ず白黒つけるのではなく、いい・悪いを曖昧にしたほうが、私自身は生きやすかった。そういう考え方、やり方もあるよと、文章はもちろんイラストからも伝わったらいいなと思っています。
ちなみに、著者名を印鑑にしたのは「これから紫原として生きていく」という覚悟を表明したかったから。カッコよくないですか(笑)?

多様性のある組織に身を置いてみると、目に映る世界は変わる

Q. 最後に、しばらく社会に出ていなかったけれど、いずれは独立して自分らしく働きたい方へ向けて、アドバイスをお願いします。

A. 1つ目は、すこし「あざとい」と感じるかもしれませんが、人のために日々できるだけ動いておくこと。フリーランスをやっていると、ずっと調子よく仕事がくるとも限りません。そういうとき、助けてくれるのはいつだって友人、知人のネットワークです。頼ったときに助けてくれる人をつくるには、頼られたときに自分が動いておくことが大事です。
2つ目は、多様性のある組織に属してみること。主婦生活の長い方が、いきなり会社に入るのは難しい可能性もあります。そういう方はまず、趣味のサークルやボランティア団体など、お給料につながらなくてもいろいろな方のいる組織に属してみてください。そのなかで奮闘していると、がんばりに応じて声をかけてもらえる可能性もありますし、次のステップも見えてきます。私自身はそうでした。
このときに意識したいのは、なるべく多様な人のいる組織を選ぶこと。主婦の強みを活かせるのは、“主婦外”のコミュニティですから。たとえば読書会もいいですよ。老若男女問わずいろいろな方とコミュニケーションを図れます。イチ参加者から運営側にまわるチャンスもあるでしょう。
人との出会いが自分を次のフェーズにあげてくれることもよくあります。身を置く場所を変えてみるだけで、世界は変わりはじめますよ。

▽ 紫原明子さん

エッセイスト。1982年福岡県生まれ。高校卒業後、音楽学校在学中に起業家の家入一真氏と結婚。のちに離婚し、現在は2児を育てるシングルマザー。ブログ「手の中で膨らむ」が話題となり執筆活動を本格化。著書に『家族無計画』がある。7月には『りこんのこども』を刊行予定。