台湾の蔡英文総統は1日、総統府に先住民族16民族の代表を招き、華人(漢民族)が台湾に住むようになってから400年の歴史について謝罪した。資料写真。

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台湾の蔡英文総統は1日、総統府に先住民族16民族の代表を招き、華人(漢民族)が台湾に住むようになってから400年の歴史について謝罪した。

蔡総統は謝罪の理由について、「台湾という土地には、400年前にすでに人が居住していた。それらの人々はもともと自らの生活を営み、自らの言語、文化、習俗、生活領域を持っていた」として、後からやってきた華人が「元からいた一群の人からすべてを奪った。彼らは自分の最も親しんだ土地で、流浪し土地を失い、異邦人となり、非主流となり辺縁となった」などの考えを示した。

さらに「1つのエスニック・グループの成功は、その他のエスニック・グループの苦難の上に打ち建てられる場合が多い」として、「われわれは、自らを公正で正義ある国家と言うならば、過去の歴史を正視して、真相を話すことが必須だ。そして、最も重要なことは、政府は必ずや、この過去の歴史を心から反省せねばならない」などと述べた。

◆解説◆
台湾先住民族に対する公式謝罪が、蔡英文総統の信念によるものであることは、間違いない。その一方で、政治面での効果を計算していたとしても、総統という立場を考えれば、非難はできないだろう。

蔡総統の「謝罪」の持つ政治的意味として、まず考えられるのが「台湾は中国の一部ではない」との間接的なアピールだ。

蔡総統は、台湾先住民族こそ「台湾の本来の主人」と論じ、400年前からやってきた華人が、「すべてを奪った」と表現した。つまり、台湾は中国大陸から渡ってきた華人の土地ではなかったとの言い方だ。

現在の中国(大陸部)でも、少数民族の居住地の多くは、華人の住んでいた土地ではなかった。しかし、例えば清朝時代には、モンゴル人は清朝皇帝を同時に自らの皇帝と認め、チベット人は「チベット仏教の擁護者」として頼り、ウイグル人などイスラム系民族は「イスラム教の理解者」と認め従っていた。

しかし、台湾原住民族が清朝に服属あるいは従属的な立場になったことはない。中国とはまったく別個に、台湾という土地で生きてきた民族だ。つまり蔡総統の「謝罪」は、「華人は中国の一部ではなかった台湾にやってきた」ことが前提となっている。そして、先住民族に謝罪し、和解を呼びかけたということは、台湾独自の新しい社会を築いていこうとのアピールと理解できる。

次に蔡総統の念頭にあったと考えられるのは台湾に住む華人間の対立問題だ。つまり第二次世界大戦終結以前に、すでに台湾に住み着いていた内省人と、戦後になり国民党関係者や軍人、その家族として台湾に移ってきた外省人の関係だ。戦後の台湾社会には長期にわたり、外省人(といっても一部だが)が政治や経済を“牛耳って”きた歴史がある。

国民党統治に反発して内省人が蜂起し、国民党当局側の大弾圧で当局側の1990年代の推計でも1万8000人から2万8000人の犠牲者が出た1947年の2.28事件もあった。

内省人の側に外省人への反発と、「あいつらにやられた」との被害者意識が出るのは当然だ。現在は世代の交代とともに、両者の反発は希薄化してきたとはいえ、台湾人としての一体化を進める上では、内省人と外省人に「あいつらと、われらは別」との意識があることは好ましくない。

蔡総統の謝罪にあった、内省人も400年前から台湾に移り住んだ人であり、先住民族に対する加害者の側面があった点では外省人と同じとの認識は、先住民族との「和解政策」が順調に進行することが前提とはなるが、台湾人としての一体感を強化することにつながるだろう。

ここで気になるのが中国側の出方だ。蔡総統の謝罪の言葉には、中国あるいは大陸といった言葉は含まれていない。しかし民進党政権の「独立志向」を警戒する中国当局が、今回の謝罪について「政治的意図」を強く感じることは間違いない。

蔡総統の謝罪は、先住民族との和解を目指す世界の潮流とも合致しており、その意味で「最先端の考え方」と評価できる。「理路整然たる謝罪」とも言える。

しかし、理屈だけで動くのではないのが政治だ。中国側が蔡政権をこれまで以上に警戒し、露骨な“報復措置”に出る可能性もある。

もっとも、中国が露骨な「反蔡政権」の動きに出た場合、これまで以上に公正な先住民族関連政策への意欲を示す台湾を評価し、同時に中国の少数民族政策を批判する国際世論が高まる可能性もある。蔡政権としては、中国側の反応を織り込んだ上の先住民族に対しての謝罪と考えてよい。(8月2日寄稿)

■筆者プロフィール:如月隼人
日本では数学とその他の科学分野を勉強したが、何を考えたか北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。