80年代のビデオレンタル開始により、未知の海外作品が大量に輸入された。それまでSF&ホラー映画マニアは、テレビで放映された知名度の高い(マニアには)作品を観るしかなかったので、彼らのオタクライフは一気に豊かなものになった。中でも、今まで当コラムでも紹介してきたソニービデオの「エキサイティング」シリーズは衝撃的だった。

 連載第17回『夜霧のジョギジョギモンスター』(インドネシア)、第30回『三大怪人史上最大の決戦』(イタリア・スペイン合作)、第31回『あ・ら・ぱ・あ・ぷ 顔面溶解女のおたけび』(フィリピン)と、ソニーさんは世界各国の埋もれた怪作を発掘して、勝手に変なタイトルを付けてリリースしてくれていたのだ(感謝)。

 そして今回、エキサイティング・ビデオの中から、色々と心配なリオ五輪に便乗して珍しいブラジル産のホラーコメディ映画を紹介しよう。しかも作品は公開年のブラジル国内興行収入1位! 監督は1982年に『ナイト・オブ・ザ・リビングマミー』というミイラ男映画をブラジルでヒットさせたイヴァン・カルドーゾ。邦題はもちろん、無名時代のジャック・ニコルソンが出ていた事で知られるロジャー・コーマンの『リトルショップ・オブ・ホラーズ』(60年)のパクリだ。


 リオ・デ・ジャネイロの港に、アフリカから2メートル四方の大きな荷が届き、ロッシ博士(嶋田久作をラテン調にしたような顔)の研究所に運ばれる。荷の中は、牙が並ぶ赤い花弁と、食虫植物ハエトリソウのような葉を持つ巨大植物だった。そいつはビオランテ(『ゴジラVSビオランテ』)のようでもあるが、元ネタはタイトルから分かる通り、『リトルショップ・オブ・ホラーズ』の人食い植物オードリーだ。

 博士の妻・シルビアはダンス教室の講師。生徒達がロッカールームで着替える様子をサービスカットで長回し(全裸あり)。さすがブラジル、レオタードも尻を出し過ぎだ。研究室で奇怪な植物を見せられたシルビアは、心配になって博士に電話するが出ない。ちょうどその頃、博士は植物に生肉を与えていて自分も食われている最中だった。

 シルビアが車で研究所に駆け付けると、植物の花弁の周りにベットリと血が付いていて、白衣の切れ端が引っ掛かっている。人食い植物はシルビアにも襲いかかり、カッと開いたハエトリソウの中には食われた博士の目玉! シルビアも食い付かれるが、必死に逃げて命だけは助かる。この日からシルビアはダンスを辞め、周囲から連絡を絶つ。その夜、若いカップルが車の中で失血死体となって発見される。

 それから2か月後、博士の親友だったロジェリオが、家に帰らず研究所に籠るようになったシルビアを心配して訪問する。クラブ経営をする彼は、店が不振なのでダンスに長けたシルビアの手を借りにきたのだ。後日シルビアは、ロジェリオに『7人の吸血鬼』というディナーショーを提案する。この映画の原題だ。一方、町では血を吸われて死んだ被害者は8名に上り、所轄のパチェコ刑事は捜査を強化する。

 数日後、シルビアが脚本と演出を手掛けた『7人の吸血鬼』の初舞台が大成功を収め、店は活気を取り戻す。どこかの王子様の恋人が、ドラキュラの花嫁である女吸血鬼七人衆の1人にされるという内容で、美しき7人のバンパイアは全員トップレスでTバックだ。さて控室では、プレイボーイのロジェリオが「店を君にやろう」なんて甘い言葉で主役のイベットに手を付けている。それをドア越しに盗み聞きしているシルビア。

 閉店後、イベットを自宅の豪邸にお持ち帰りするロジェリオ。だがイベットがシャワーを浴びている間、ロジェリオは『スクリーム』みたいな白い仮面と黒衣で変装している怪人に殺される。白仮面は殺す直前に顔を見せたらしく、「あ、オマエは!」とメッチャ驚くロジェリオ。翌日から店の支配人にシルビアが収まる。犯人はイベットに店を渡すまいとするシルビアなのか?

 次にイベットが白仮面に襲われ、レイモンド・マーロウというふざけた名前の探偵事務所に逃げ込む。レイモンド・チャンドラーの小説の「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない」という台詞で有名な探偵フィリップ・マーロウが元ネタ。漫画を読み漁り、秘書といちゃつくお気楽探偵のマーロウは、イベットの24時間身辺警護をするが、彼女は吸血鬼の衣装を着けたままプールで水死体となって発見される。

 被害者は増える一方なので、パチェコ刑事はクラブを一時閉鎖して施設内を調査するが、覗きと間違われて従業員達に袋叩きにされる。その隙にクラブ内で大暴れする白仮面。現場で刑事と探偵が捜査中にも関わらず、ダンサーと守衛が殺され、マーロウと秘書も襲われる。さらに白仮面は、騒ぎに駆け付けたシルビアの親友クラリスを抱えて逃げる。狂ったらしく、暴走している。その頃、老婆のように干からびたシルビアが、よろよろと廊下を歩いて来る。白仮面の正体はシルビアではなかった!

 白仮面から逃れようと暴れるクラリスの手が仮面に当たり、外れて落ちる。すると仮面の下は、顔半分がグチャグチャになったロッシ博士だった! 博士は生きていたのだ。そこへシルビアが現れ博士を撃ち殺し、彼女も力尽きて夫の亡骸に寄り添って死んでいく。人食い植物に咬まれた2人は、人の生き血を飲まずには生きられない体質になっていたのだ。そこへ、ようやく痴漢騒ぎから解放された刑事がやってきて「何? 何?」(笑)。メッチャ陽気なラテンミュージックが流れ出して完!


「え? これが1位?」(笑)。そう言うことなかれ、ブラジル映画には1930年代に生まれた「シャンシャーダ」と呼ばれるジャンルが根付いていて、陽気な歌やダンスで悲喜劇的な物語を盛り上げる。それがブラジル映画の楽しみ方なのだ。

(文/天野ミチヒロ)