「人生はある意味、ギャンブルのようなもの。社会の価値観に左右されなければ、もっと楽に生きれると思います」と語る紫原明子氏

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ブロガーとして人気を博し、現在はエッセイストとして活躍している紫原(しはら)明子さんのデビュー作『家族無計画』が先月発売された。

彼女の文章表現は実に多彩だ。セックスレスに関する際どいネタを扱ったかと思えば、「ところで」と話題はなぜか手作りのパンに転じる。「ウユニ塩湖と同じくらい行ってみたかった」というキャバクラへの潜入ルポは、その生き生きとした筆致がネット上で話題になった。

文章だけでなく、彼女は経歴もユニーク。ネットで知り合い、結婚した元夫は都知事選への出馬経験もある起業家の家入(いえいり)一真氏。29歳という若さでジャスダックに当時最年少で上場した人物だ。くしくも億万長者の夫人になった明子さんだが、その後、家入氏の相次ぐ事業失敗と散財で家庭は崩壊してしまう。

本書は、そんな家族との生活における、あらゆる「無計画」について記したエッセー集だ。

―初めての書籍ですが、今おいくつでしょうか?

紫原 1982年生まれの34歳です。子供はふたり。中3の息子と小5の娘がいます。

―34歳で中学生のお子さんがいると珍しがられませんか?

紫原 東京の、しかも都市部に住んでいるので、そういう意味では珍しいかもしれません。私の地元の九州だと結構多いですけどね。若く妊娠しちゃう子もいるし。ハプニング的に。

―紫原さんはハプニングではなかったんですか?

紫原 計画的なんですよ、意外とそこは(笑)。それまでは計画が順調に進んでいたんです。

―なるほど。お子さんたちはどんな性格をされてますか?

紫原 両親とは正反対で(笑)、今のところは精神的にすごく安定していますね。危ないことに手を出そうとか、大きな夢に手を伸ばそうとはあまりしない。私、田舎育ちが影響してると思うんですけど、痛々しい中二病というか、何者かになりたい少女だったんです。鬱屈(うっくつ)した気持ちをネットにつづって椎名林檎を聴くみたいな(笑)。でも息子と娘は都会の環境がデフォルトなので、刺激が欲しいとか、インターネットで積極的に出会うとかしないみたいです。

―まさに真逆ですね。そんなふうに若くして母親になったこともあり、13年間ずっと専業主婦。初めて就職したのは31歳の頃だったそうですが、やっぱり不安はありましたか?

紫原 それが、そのときはもう楽しくてしょうがなかったんですよ。それまでは夫婦関係の悩みをずっとひとりで抱えていたんです。結局、夫も愛されキャラだし、「あの人ならしょうがないよね」って周囲には思われてしまうので……。

でも、ホームパーティを自分で開くことで個人の関係ができた。夫と切れたとしても、私の人生終わるわけじゃなくて、どんどん人の輪は広がるし、そのなかには私のことを恋愛対象として見てくれる人もいるんだってわかったんです。

―なるほど。本書にはシングルマザーの恋愛に関する章がありますけど、紫原さんはお子さんとそういう話はしますか?

紫原 いえ、私は言う必要のない恋愛しかしてないので(笑)。でも、子供は「ママはどうせ彼氏いるんでしょ?」とか「今日、男に会いに行くんでしょ?」とかジャブを入れてきます。

―(笑)。週プレは男性読者が多いんですけど、そのなかには子持ちの女性を好きになる人もいると思います。

紫原 おお〜、素晴らしい! 理想! 希望!

―想像以上の食いつき!(笑) でも、逆に「子持ちだし、恋愛してる暇もないかな」と考えてしまう男性もいるかも…。

紫原 子供がいるからといってアプローチを遠慮する必要は全然ないと思いますよ。支えはやっぱりみんな必要だし、そういう人の存在ってすごい貴重。

当たり前ですけど子供を尊重してくれるかが大事ですよね。いきなり最初から父親になろうとせず、むしろ毒にも薬にもならない存在になって、距離感を考えながら詰めていく。家に遊びに行くとしたら、「勉強教えに来たんだよ」って言って、いやらしい空気が出ちゃわないようにするとか。彼が子供から遊びに誘われるようになってから「私たち、付き合っちゃっていいかな?」ってお母さんから聞いてみるのがいいかも。

―めちゃくちゃ計画的ですね。

紫原 やっぱり、シングルマザーはみんな結婚に失敗しているわけだから、結構、心の傷があるし、慎重になると思うんです。それと、私はお母さんだって自由に生きていいと思っているけど、一方で古い価値観も現実には存在しますし。

「再婚したおうちはかわいそう」とか「お父さんがいなくてさみしいね」とか、子供は言われるわけじゃないですか。それを無視して新しい価値観を押しつけるのは結構、乱暴だと思っていて。

―なるほど。それが社会の現実なのかもしれませんよね。そういうシングルマザー特有の話もそうですが、『家族無計画』は全体を通して、悪い男にハマる未婚女子やセックスレスのカップルの話など、重い題材が多いのに、実際は爽やかで明るい作品に仕上がっています。

紫原 エッセーを書くのって、自分が体験したことをどういうふうに浄化していくか、という作業なんです。すごいいやなことがあったときに、「こういう学びが得られるよね」ってものを書けば、自分を説得できる。

結局、深刻にとらえるかどうかは自分次第だと思うんです。例えば「夫がまた家のお金を使い込んでつらい」とか思っても、お金のなかった最初の頃に戻ったと思えばいい。別にそれによって私がケガしたとか、誰かに殴られたわけでもないし、本当は痛くないはずなんです。

それでも、つらさや痛みに浸るのは自分が主人公になる快感を感じてしまうから。痛みで生きている実感を得るんです。

―いわゆる“悲劇のヒロイン”というやつですね。

紫原 今って、みんなすごいお互いの首を絞め合ってるというか。社会のレールからはみ出てしまうと全部自分のせいにされてしまうんですよ。

でも、そもそもすべてを計画どおりに生きようとするのは無理がある。誰だっていきなり交通事故に遭うかもしれないし、病気で半身不随になるかもしれない。人生なんてある意味、ギャンブルのようなもの。社会の価値観に左右されなければ、もっと楽に生きれると思います。無計画でもいいんですよ。意外となんとかなるものです。

●紫原明子(しはら・あきこ)

1982年生まれ、福岡県出身。エッセイスト。高校卒業後、音楽学校在学中に起業家の家入一真氏と結婚。後に離婚し、現在は2児を育てるシングルマザー。個人ブログ『手の中で膨らむ』が話題となり執筆活動を本格化。エッセー『家族無計画』(cakes)、『世界は一人の女を受け止められる』(SOLO)を好評連載中

■『家族無計画』

朝日出版社 1600円+税

夫が都知事選に出馬を表明した日、私は離婚届を取りに行った……。18歳で結婚、19歳で出産、31歳で離婚を機に初めて社会に出た2児のシングルマザー。豊かな暮らしはどこへやら、日々新しい問題が家庭に舞い込む。つらい日々を経て、彼女が至った「無計画」の境地とは? すべての家族に送る、優しく力強い応援賛歌

(取材・文/テクモトテク 撮影/藤木裕之)