■酒井宏樹選手インタビューpart.3

 2014年ブラジルW杯。あのときメンバーに選ばれながら、結局一度もピッチに立てずに終わってしまった悔しさを、酒井宏樹はどのように受け止めているのだろうか?

 今シーズンからオリンピック・マルセイユ(OM)の一員となり、あえて厳しい環境に身を置くことを決意した酒井の視線の先には、当然ながら日本代表としてロシアW杯を目指す姿がある。9月からスタートするアジア最終予選を戦う日本代表のこと、そしてロシアW杯への想いを、酒井が語ってくれた。

―― 今回の移籍について、フランスのサッカー事情をよく知るハリルホジッチ監督に相談しましたか?

「ええ。ハリルホジッチ監督には、一度合宿のときに相談しました。『いくつかオファーが来ているけど、マルセイユというクラブをどう思いますか?』と聞きました」

―― そのとき、監督は何と言っていましたか?

「マルセイユに関しては、『大きなクラブで相当なプレッシャーだけど、覚悟があるんだったらいいんじゃないか。ただ、プレッシャーは相当すごいぞ』と(笑)」

―― OMを選ぶにあたって、やっぱり日本代表の存在は移籍するうえでのモチベーションになりましたか?

「そうですね。やっぱり日本代表に帰ると、いつもみんなの高いモチベーションに刺激を受けますし、もっともっと自分自身も成長しなければいけないと感じています。ただ、クラブでやっていることが、そのままうまく代表に還元できるかという話になると、そんなに簡単なものじゃない。あくまでも代表チームは代表チームで、クラブはクラブ。それぞれに参加しているときに頭を切り替えないと、うまくはいきません。

 だから、メンタルの部分というか、取り組む姿勢みたいなものはしっかり代表に持って帰りたいと思います。でも、タクティクス(戦術)の部分などに関しては、それぞれの監督が求めるサッカーをしっかりやっていくことが大切だと思っています」

―― 前回のブラジルW杯アジア予選と今回のアジア予選では、チームにおける立場も違うと思いますが、その辺の変化は感じていますか?

「その話は、(酒井)高徳ともよく話すんですよ。僕たちは、前回はアジア予選の後半戦からチームに加わって、そのあとに予選を突破して本大会出場が決まった。その流れの中でW杯に行けたと思うんです。

 でも今回は、予選の最初から代表でプレーしているわけで、やはり"戦っている感"は前回と比べてまったく違います。プレッシャーの感じ方も全然違いますし、今は(内田)篤人君という大きな存在がいないから、僕たちがやるしかない。僕たちがもっと上に行かないといけないと思っているし、そういうプレッシャーみたいなものも感じています」

―― しかも前回は、本大会の大舞台のピッチに立てなかった。そういう意味でも、今度のロシア大会にかける想いも強いのでは?

「そうですね。やはりW杯は4年に1回しかないですしね。もちろんサッカー選手なので、これから何があるかわからない。パフォーマンスの問題だったり、ケガの問題だったり、その他にもいろんな問題が出てきてW杯に行けないという可能性もありますけど、今回はどうしてもW杯の舞台に立ちたい。それは間違いないです」

―― やはり、前回のブラジル大会は少し悔いが残っていますか?

「試合に出てないので悔いも何もないです。ただ、(ザッケローニ)監督のチョイスになれなかったことは、確かに悔いと言えば悔いとなっています」

―― 現在の日本代表チームですが、監督がハリルホジッチになってから何か変わった部分はありますか?

「攻守の切り替えを含めて、ハードワークの部分が変わったと思います。

 それと、僕たちディフェンス陣で言えば、味方が攻めているときの守備の部分。攻めているときほど相手の近くにいてセカンドボールを意識する、ということを考えるようになりました。攻めているときにすぐにボールを奪い返すことができれば、また続けて攻撃ができる。逆に、そのときに相手にボールを収められてしまうと、一気にカウンターアタックを受けてしまう。

 そういう意味で、攻めているときの守備はすごく大事な部分だと思っていますし、日頃からそこはすごく意識しています。ハリルホジッチ監督からも、よく言われます。相手との距離が広かったときは、もっともっと相手の近くに寄せなさいと」

―― 守備については、監督から厳しく言われているんですね。

「そうですね。それと、相手をどうしても止めなければいけない場面で、うまくファールする方法なども言われたりします。そういうプレーは、こっち(欧州)の選手はめちゃくちゃうまいですから。ある意味、ファールの能力は完璧ですよ。あれは、もう一種の才能ですね(笑)」

―― 確かに文化の違いといいますか、日本人に急にやれと言われても難しい。

「ユベントスの試合を観たりすると、カウンターを受けそうなときにディフェンダーがファールをして相手を止めるんですが、あの止め方はすごいですね(笑)。ああいうプレーは、日本人にはなかなかできない部分かもしれません。少年時代からファールをしてはいけないと指導を受けていますし」

―― 日本人にはフェアプレー精神が根付いているんでしょうね。

「ええ。ただ、ブンデスリーガは比較的レフェリーが笛を吹く傾向がありましたけど、フランスはまた違うでしょうし、そういう部分も学びながら楽しめればいいと思っています」

―― よく本田選手や長友選手が、まずは個人が成長することが大事で、個人が成長すれば自然と代表チームにそれが還元されると話しています。そういう意識は強いですか?

「はい。あの世代が代表チームに還元してくれているものはとても多いと感じますし、逆に僕たちの世代がもっともっと力をつけなければいけないと思います。世界の中でまだ日本人選手が上位にいるわけではないですし、それは僕たちもわかっているつもりです。だからこそ、もっと上を目指していきたいという気持ちでやっています。少しでも世界に近づけるように、全員がやっていかないといけないと思います」

―― 9月からはいよいよアジア最終予選がスタートします。今は移籍直後でクラブのことで頭がいっぱいだと思いますが、最後に予選にかける意気込みをお願いします。

「今、頭の中は100%、クラブのことです(笑)。でも、まず予選についてひとつだけ言えることは、クラブから代表チームに行くときに、自信を持って代表に合流するということが当面の目標ですね。そのためには、ここ(OM)でどれだけできているかということが、そのまま自信につながる。そういう意味で、まずはクラブで結果を残すことが大切だと思います。

 どこでやっていてもサッカー選手は結果ですからね。だから今シーズンは、勝利の数、失点の少なさ、得点に関わる回数など、とにかく結果にこだわり続けていきたいです」

 酒井が日本代表デビューを果たしたのは2012年5月23日、アゼルバイジャンとの親善試合のことだった。あれから4年の月日が流れた現在、酒井は選手として着々と成長を遂げ、代表選手としての貫録も増し、代表チームに欠かせない戦力となった。

 そんな酒井の新天地OMは、現在ヴァンサン・ラブルン会長の辞任やクラブの売却の動きといった複雑な問題が報じられている。しかしその手の雑音はどこ吹く風、酒井自身はフランク・パッシ監督のもと、シーズン前のキャンプに黙々と励み、8月14日の開幕戦(トゥールーズ戦)に向けてプレシーズンマッチを重ねている。

 果たして、酒井にとっての2016−2017シーズンの行方はいかに。自身にとっても、そしてロシアを目指す日本代表にとっても、重要なシーズンがもうすぐ始まる――。

(おわり)

中山淳●取材・文 text by Nakayama Atsushi