「ジミーのプレーがあまりにも良すぎた。彼は勝者に値する」 去年の覇者は、潔く今年の勝者を讃えた(撮影:岩本芳弘)

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 2週前の全英オープンで激しい一騎打ちの末に惜敗したフィル・ミケルソンは、メジャー初優勝者となったヘンリック・ステンソンを「キミは勝者に値する」と潔く讃えた。
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 あのときミケルソンは「僕自身、悔いるプレーは1つも無かった」と胸を張った。自分は最高のゴルフをしたけれど、それをさらに上回るゴルフをした選手が一人だけいたからこそ、自分は2位になったのだとミケルソンは語り、それは勝者ステンソンを讃える最高の賛辞になった。
 今季最後のメジャー「全米プロゴルフ選手権」の最終日は前日までの雷雨中断の影響で上位選手たちが一気に36ホールを回る不規則進行になったが、優勝争いの大詰めは、またしても2人の選手の激しい一騎打ちになり、1打差で勝利したのはジミー・ウォーカー、惜敗したのは前年覇者のジェイソン・デイだった。
「今週、僕よりいいゴルフをした選手が一人だけいた」
 そう、敗北したとはいえ、最終ラウンドのデイのプレーは見事だった。序盤こそ2ボギーを喫したものの、その後に3つのバーディを奪い返した挽回力はさすがだった。72ホール目に2番アイアンを駆使してセカンドショットをピン3メートルに付け、それを難なく沈めてイーグルを奪い取り、ウォーカーの心に揺さぶりをかけたデイの戦いぶりは、世界一の王者ならではの貫禄だった。
 「あの2アイアンのショットは、僕がこれまでパー5で2オンを狙ったショットの中で、たぶん最高の出来栄えだった。イーグルを奪うことができたのは、もちろん良かったけど、ジミーに何かを考えさせることができたのはもっと良かった。自分のプレーにはとても満足。ただ、ジミーのプレーがあまりにも良すぎた。彼は勝者に値する」
 プロ転向から16年。とうとうメジャー初優勝を挙げ、感無量の様子のウォーカーにデイはやはりメジャー初優勝を挙げた去年の自分を重ねていた。「ジミーの気持ちが手に取るようにわかる。まるで去年の自分をそっくりそのまま見ているようなものだからね」
 去年のデイは、メジャー惜敗を繰り返した末にようやく全米プロを制し、「ようやく報われた」と安堵と喜びを口にした。ウォーカーはというと、メジャーの最終日を首位で迎えたこと自体がキャリア初で、これまでメジャーで悔し泣きするほど悔しい惜敗を味わってきてはいない。だが、その代わり、必死に努力を重ねてもなかなか報われない苦労は嫌というほど味わってきた。
 そんなウォーカーがとうとうメジャー優勝に輝いた姿は「まるで去年の僕と同じだ」とデイは言った。そして、去年の自分が18番グリーンで長男を抱き合げ、愛妻とキスをかわし、家族みんなで勝利を喜び合ったように、ウォーカーにも同じことを味わってもらいたいと思ったのだろう。
 ウイニングパットを沈めたウォーカーに駆け寄っていった2人の子供たちと彼の妻。家族4人で喜び合うウォーカー一家に、デイは心からの「おめでとう」の一言だけを伝えると、デイ自身も家族を引き連れ、控えめにその場から離れていった。
 敗北会見でデイの母国オーストラリアの記者がこんな質問を投げかけた。「本当は最終日最終組でウォーカーと一緒に戦いたかったかい?」
デイは数秒間、黙って考え、そして、こう答えた。「イエス!」
 同組ではなかったけれど、ウォーカーとデイの戦いはすばらしい熱戦だった。
そして、ウォーカーが勝者に値するように、最高のゴルフをして潔く敗北を認め、悔しさの中で勝者を讃えたデイはグッドルーザーに値する。11年ぶりのバルタスロールで生まれた勝者と敗者は、どちらも素敵だった。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
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