スコアは、必ずしも両者の実力差を正確に表すとは限らない。数字上の結果は2点差でも、試合内容はというと、それとはまるでかけ離れた惨敗だった。

 リオデジャネイロ五輪に臨むU−23日本代表が、大会前最後の強化試合としてブラジルと対戦した試合は、日本が0−2で敗れた。

 スコアだけを見れば、まずまずの接戦だったかのようにも思えるが、日本はブラジルにまったく歯が立たなかった。面白いようにパスをつながれ、易々とドリブル突破を許し、決定的なシュートを何本も浴びた。

 失点が2点で済んだのが不思議なほどで、前半のうちに、少なくともあと2、3点は入ってもおかしくなかった。それほど両者の実力差は大きかった。日本はブラジルからボールを奪うどころか、満足に体を触らせてもらうことすらできなかった。

 0−2になり、ブラジルが明らかにギアを一段階落とした後半こそ、日本はそれなりにチャンスを作った。前半にはまったくなかった、落ち着いてボールをつなぎ、相手ゴールに攻める場面を何回かは作れた。

 しかし、残念だが、それを評価するのは難しい。リオ五輪のような世界大会においては、わずかなミスも許されない0−0の緊迫した状況の中で、それができるかどうかが重要だからだ。

 この試合を見ていて思い出したのは5年前、日本がブラジルに2−3で敗れたU−17W杯準々決勝のことだ。日本は0−3とリードされながらも、諦めずに攻め続け、2点を返した。結果は1点差の惜敗。しかも、日本は試合終了直前にあわや同点ゴールかという際どいチャンスも作った。

 だが、当時のU−17日本代表を率いていた吉武博文監督は、試合を振り返って、こう語っている。

「0−3になってから、あの攻撃ができました、ではダメ。ケンカして泣かされた小さな子が、泣きじゃくりながら両腕をグルグル振り回していたら、たまたま相手の子に当たったようなものだから」

 今回の試合についても、まったく同じことが言える。勝負が決したあとにようやく開き直れたのでは、時すでに遅し、なのだ。

 しかも、5年前は泣いて両腕を振り回した結果、相手を2回殴ることができたが、今回はそれさえできなかった。ブラジルは前半の試合内容で日本の実力を見切り、攻撃の手を緩めた。後半は無理せず、慣らし運転で45分を終わらそう、という雰囲気だった。にもかかわらず、日本は一矢を報いることさえできなかったのである。

 今回の先発メンバーの中では、GK中村航輔、DF植田直通、DF室屋成、MF中島翔哉、MF南野拓実が当時の経験者だが、この5年間で開いた差に、少なからずショックを受けたのではないだろうか。

 とはいえ、本番直前の今、この結果を引きずることは得策ではないし、そもそも、この結果を気にする必要もない。

 わずか8カ月ほど時間を巻き戻せば、今回のU−23代表はリオ五輪本大会への出場さえ厳しいと思われていたチームである。厳しいというより、絶望視されていたと言うほうが実態に近いかもしれない。事実、最終予選を兼ねたアジアU−23選手権でも、日本が負けていても不思議はなかった試合がいくつもあった。

 にもかかわらず、アジアを制し、リオ行きを決めたことで、いつの間にか彼らはメダル候補であるかのように持ち上げられてしまった。そして、手倉森誠監督をはじめ、選手たちも、そんな過度の期待に乗っかる発言が増えた。率直に言って、現在の状況にはかなりの違和感を覚える。

 その意味では、本番を前に自分たちの本当の立ち位置を思い知らされた惨敗は、むしろよかったのかもしれない。

 グループリーグで対戦する3カ国に、おそらくブラジルよりも強いチームはないだろう。リオ五輪出場国中、最高と言ってもいいスピード、テクニックを実際に体感したことで、「これより強いチームはない」と開き直るきっかけになれば、ショッキングな敗戦も貴重な予行演習となる。

 現在のU−23代表は、もともと国際経験が少なく、成功体験に乏しい世代。せっかくアジアで得た自信を失い、ショックを引きずってしまうことは避けたいが、この試合が無欲で戦うきっかけになるのならば、悪くない惨敗だったのではないだろうか。

浅田真樹●文 text by Asada Masaki