逝去にあたり謹んで、「横綱」という摩訶不思議なるものを僕に教えてくれた大横綱・千代の富士への御礼のご挨拶。
あれが「横綱」の基準である、そう思って育った!

第58代横綱・千代の富士が亡くなりました。まだ61歳。これまでも決してなかったことではありませんが、自分の人生と重なるスターがひとり、またひとり旅立つことは寂しさを一層募らせます。僕にとって「横綱」という摩訶不思議なる概念を説いてくれた師匠は千代の富士でした。そして、それはとても幸せなことだったと思います。

とにかく、千代の富士は強かった。若い頃は、小さい身体に不似合いな鬼神の相撲によって、星や番付を落とすことも多かったそうですが、僕の記憶の中にある千代の富士はまっこと強かった。黒のまわしの鋼の肉体。大きく広げた足は大木の根のように地面に生え、相手の胸に突き刺さる頭は丸太の杭のように敵の動きを封じました。速く、重く、強い。千代の富士を「小さい」「小兵」などと思ったことは、ついぞありませんでした。

今ビデオで見返しても驚くような鋭い立ち合いから、目一杯に伸ばした左の腕でまわしをガッチリとつかむ。豪快な左上手投げ、強引な吊り出し、電光石火の寄り。「千代の富士が左の上手をとる」は勝利の予告でした。千代の富士の相撲は持ち前の身体能力によってバラエティ豊かなものではありましたが、その芯には確かに完成された「型」があった。

改めて千代の富士のことを思い返すとき、パッと思い浮かぶ姿は、大型力士を組み止めて踏みとどまる時の姿。大きな「大」の字のように低く広がる身体です。その型に入ったときの強さ、美しさ。それは何をもってしても打ち消されることのない、相撲の極みだったと思います。スピードとパワー、そのふたつを土俵の上で同時に極めた力士という意味では、空前絶後と言っていいでしょう。

↓黒船来航、全盛期の小錦を組み止めて、振り回して、ブン投げる!


最大VS最少の激突!

相撲だなぁ、圧倒的に相撲だなぁ!

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横綱という理解しがたいものと、いつ、どのように出会うか。思うに、相撲に惹きこまれるかどうかの分岐点において、その時代の横綱が誰なのかという点は極めて大きいでしょう。何せ、相撲≒横綱です。毎日の結びの一番で登場する力士が、相撲自体の印象を左右しないはずがない。

その意味で、千代の富士という素晴らしい横綱に出会ったことは幸運でした。強さ、カッコよさはまずもって圧倒的。しかもただ勝つだけでなく、単なる勝ち以上の勝ちを求める貪欲さもあった。あだ名の「ウルフ」そのもののように、喰らいつくさないと気がおさまらない気性の荒さ。ねじ伏せられる力士たちの躯に、「横綱というのはこんなにも別格なのだ」と幼心に見せつけられました。

一方で、強さゆえのケガも多かった。自身の気性と、腕力を受け止めるには脆すぎた肩関節。千代の富士は相手を投げ飛ばしては肩を外しました。下手にあらゆる面で盤石であれば、「飽き」が「憎しみ」へと変わっていくもの。ちょうど今、白鵬がそうした逆風にさらされるように。千代の富士は強い時は滅法強い代わりに、ケガでいなくなる場所も多い諸刃の剣だったことが、僕にとってはよかった。

溢れる闘争心⇒左腕で強引に投げ飛ばす⇒肩を脱臼⇒「筋肉で補強する」と言い張って鬼の筋トレ⇒鋼の肉体で復活、という千代の富士の様式美。そのサイクルの合間に新たなライバル候補が生み出され、そしてまた千代の富士によって駆逐される。狩場を留守にしては、新たに出てきた獲物を、食いつぶして、食いつぶして、北尾は親方ぶん殴ってどこかに消えたので食い損ねて、またほかの力士を食いつぶす。

好敵手に恵まれることなく、横綱としては孤高の存在であった千代の富士は、自らのケガによって「強さ」と「敗北」を同居させ、ドラマを自分で作り上げることに成功した稀有な存在でした。マッチポンプ…いや、相撲だけに「独り相撲」と言うべきか。自分でケガして自分で落ちて自分でまた上がってくるという、たったひとりのエンターテインメント。

↓巨漢・大乃国を振り回してブン投げてみたら肩を外しました(てへぺろ)、という千代の富士ショートコント!


千代の富士が肩を外すための巨大な置物!

大乃国も頑張んないで、適当なとこで投げられちゃえばいいんだよ!

20万円くらいやるから!

↓むしろ千代の富士は、格下の向こうっ気が強い力士との相撲のほうが映える!


こんなん今やったらインターネット相撲掲示版で総叩きだけど、これがいい!

ムッときて地べたに投げつけ、また次の場所顔をビンタされる!

寺尾、貴闘力、小錦…ちょっと不躾なヤツとの相撲が面白かった!

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その稀有なる横綱のおかげで、「この人が勝つのをずっと見ていて何が面白いのや?」という退屈を覚えることなく、横綱とそれ以外の圧倒的な差を自然と受け入れることができた。また、千代の富士の不在をたびたび感じたことで、場所のすべてが横綱を中心にしてまわり、横綱なくして相撲はパッとしないことを理解しました。そして余力を残しての引退。あの綱は、一番強いヤツが巻くチャンピオンベルトではなく、特別な責任を負う証なんだと教えてくれたのは千代の富士でした。

引退後は現役当時ほど華々しい活躍ではなかったかもしれませんが、九重部屋からは大関・千代大海などを送り出し、指導者としてもひとかどの実績を残しました。千代大海は本当に傑作でした。千代の富士でなければ、あの力士は生まれなかった。ていうか、相撲部屋に入れてなかった。本格的チンピラを、本格的相撲親分が従えて、土俵で大暴れなんて痛快なドラマ、月並みな師弟愛などよりよっぽど面白い。

そして、ほんの一瞬ではありましたが、北の湖元理事長が病床に伏せった平成二十六年初場所に、理事長の代役として場所をつとめました。千秋楽恒例の協会ご挨拶に立った千代の富士の雄姿。あれは本当にカッコよかった。内容は「大関・稀勢の里が休んで遺憾」というもので、若干心に刺さるところもありましたが、それを補うほどカッコよかった。

↓この1回限りの協会ご挨拶を目撃できたのは、僕の自慢とさせていただきます!


なお、この直後の理事選で千代の富士は落選!

そこで理事長の目が消えたことは忘れてください!

北の湖さんが亡くなったのが2015年11月。それからわずか8ヶ月での千代の富士の逝去。実はふたりはひと世代違うかのような経歴でありながら、年は2つしか違わないというドン被りの世代。思えば、北の湖が早咲きの大横綱で、千代の富士が遅咲きの大横綱であったことが、すべての始まりで、すべての決定打だったのかもしれません。

千代の富士は出世の遅れもあり、ライバル関係ではなく栄枯盛衰・入れ替わり・すれ違いの関係性。そして、再び貴乃花という大横綱が現れる頃には、千代の富士もまた「体力の限界、気力もなくなり」の状態だった。また、北の湖が先に裏方へとまわったことで協会トップの座を争おうにも及ばないほどの親方としてのキャリアの差がついてしまった。

千代の富士があれほどの長い現役生活を過ごしながら、衰えたとか、チカラが落ちたとかいうことを感じさせなかったのは、本当にチカラをぶつけるべき相手がいなかったからなのかもしれないと、逆説的に思います。余力があったというよりは、全精力を振り絞る機会を逸したことで、見せられなかった部分が、さも「余力」のように感じられていたのかもしれないな、と。

横綱とは強くて孤独なものである。

僕の横綱の原風景は千代の富士が作りました。

大相撲に導いてくれて、ありがとうございました。

↓両国国技館のこけら落とし、北の湖・千代の富士の両雄がそこにいた!


昭和から平成へ、相撲をつないだ人だった!

心から、お悔み申し上げます…!

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千代の富士のように強くてカッコいい力士を、またいつか見たいものです!