『つぶやくみつる』(やくみつる/自由国民社)

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 読者はやくみつると聞いて、どんなイメージをお持ちだろうか。たとえば今回のポケモンGOに対する「物言い」にしても、そこには賛否両論あるかもしれないものの、「小言ジジイ」という印象がどうしても拭えないのではないか。しかしながら、それは本人が望むイメージではなさそうだ。その理由は『つぶやくみつる』(やくみつる/自由国民社)に書かれている。

 どうもわしは、世間の皆様には“噛みつき屋”のように映っているようである。(中略)そのイメージが先行しているらしく、はなはだ心外なのである。

 ならば実際はどうか。本人曰く、「温厚篤実を画に描いたような人間」らしい。その裏付けも記されている。「10月になってもまだ鳴いているアブラゼミがいれば、あいつは無事にメスを見つけられるだろうかと心痛める」「街でファンにサインを求められたら、ありがたく書かせて頂く」といった具合だ。どうやら世間のイメージをかなり気にされているようだ。

 本書は、漫画家やくみつるが、この10年ほどの間に雑誌や新聞に発表してきたマンガ以外、つまりエッセイやコラムを集めた集大成。「ご意見番タレント」としてのやくみつるが、その時代の出来事に対して常日頃感じている意見がびっしりつまっており、かなりの密度だ。また、巻末には林真理子をはじめとする著名人4名との対談も収録されており、一冊の重みがハンパないことになっている。

 やくみつるといえば「相撲」だろう。ある章では、両国国技館に押し寄せていた「相撲女子」についてふれている。相撲界のご意見番として一喝するのかと思えば、意外に肯定的なようで、オヤジ臭い館内の雰囲気が劇的に変わり、場をわきまえた応援をする相撲女子が好印象のよう。最後には「相撲女子相手であれば私をご説明役として駆り出していただいてもよい。いかがですかね。」とあり、相撲女子の増殖を心から願っているようだ。

 やくみつるが「ハゲ」に悩んでいたことはご存じだろうか。それについても本書で延々と書かれている。長いので(笑)話をまとめると「髪の毛なんて本当はどうでもいいが、精神的な変化を期待し挑戦したい。若い頃からハゲで、マンガ家として独立した頃にモデルまがいでかつらを愛着。そのかつらも色々あって別のものにしたいが、今は色々な方法があるのでどうしようかと悩んでいる」。髪の毛の話だけでこんなに書けるものなのか。意見を持っている方にかかると、些細な「つぶやき」も芯の通った「論考」に変わるのだ。

 最後に、やくみつると林真理子の対談を少しだけご紹介しよう。この対談の途中で、やく氏のマンガの話になり、林氏がマンガの「沢尻エリカ」ネタをほめている。しかし、ほめた林氏も描いたやく氏も肝心のマンガのオチを忘れているのだ…。そのあとのやくみつるの発言がこれだ。

 ま、そういうものでございますよ、マンガなんてものは、ハイ(笑)。私、3日前に描いたオチが思い出せないんで、編集部に電話して、「私、何を描きましたっけ?」って聞くんです。

 この他、読者が期待している政治ネタもバッチリだ。本書の真ん中あたりは黄色いカラーページになっており、政治や時事ネタを皮肉ったマンガが、時事解説と共に描かれている。あの人もあの人も、ご登場だ。ウィットに富んだユーモアは作者ならではの味。本書は、やくみつるの感じたことがそのまま書かれており、あまりの幅広さにジャンルの特定が不可能となっている。「私もやくみつるばりの意見を世間に言いたいぞ」という御仁は、本書を参考に考えをまとめてみてほしい!

文=いのうえゆきひろ