NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
7月17日放送 第29回「異変」 演出:保坂慶太


予告で「戦国夫婦道 3組の愛の形」と有働由美子が煽っていた29回。
3組と言いつつ、実質、信繁(堺雅人)と春(松岡茉優)、信幸(大泉洋)と稲(吉田羊)、昌幸(草刈正雄)と薫(高畑淳子)、秀吉(小日向文世)と寧(鈴木京香)と4組の愛の形だった。しかも、信繁には春と、うっとおしい女・きり(長澤まさみ)、信幸は稲と、元嫁・こう(長野里美)、秀吉は寧と、世継ぎの母・茶々(竹内結子)と三つ巴の愛が繰り広げられ、昌幸にいたっては薫と吉野太夫(中島亜梨沙)と出浦(寺島進)の四つ巴だった。

最も印象深い出浦の愛については後で記すとして、その前に「戦国介護問題」についても触れておかねばなるまい。
国のトップである太閤殿下が心身ともに老いてきて周囲が右往左往する。
寝ていて粗相する秀吉、同じ指令を何回もしてしまう秀吉、味覚に変化が起きる秀吉・・・と現代にも通じる老いの問題を容赦なく描き、いたたまれない。

文禄5年(1596年)時には年齢的にはまだ59歳だが、人間50年(by織田信長)の時代だと思うとかなりの高齢なのだろう。
壊れはじめていることに薄々気づいている本人の不安も相当なものだが、お世話する三成(山本耕史)、信繁(堺雅人)、寧(鈴木京香)の葛藤がドラマを盛り上げる。
まず、粗相をした時、黙々と蒲団を処理する三成と信繁。片桐且元(小林隆)に粗相の不名誉を押し付けるとは・・・。片桐も片桐で自分がやったと思い込むって・・・。

このまま老いていく中で心配なのは大切な拾であると、秀吉は家康(内野聖陽)を呼び出して、関白は拾が成人するまで置かないので、政は家康を要とした大名たちの合議で行うことと指示する。この前と言っていることが違うと「ん?」となる三成と信繁だったが、その日はそのままスルー。ところが、しばらくして、秀吉は家康を再び呼び同じことを言い出す。秀吉があまりにさらっと同じ台詞をリピートするので、見ているほうもん? さっき、このシーンやったよね? と己の記憶力が不安になった。
家康「ん?」、信繁「ん?」に対して、三成ひとりだけ諦め顔。さすが、長く仕えていて「誰よりも(殿下の)変わり様はわかる」と主張していただけはある。だからこそ3度同じこと言い出したとき、殿下にはっきり言うのも三成だ。ああ、それなのにそれなのに、秀吉ったら信繁だけを残して弱音を吐くなんて、三成可哀想過ぎる! 秀吉も三つ巴でなく、三成もいれて四つ巴の愛と言いたくなった。信繁も入れたら5つ巴か。

三成の気持ちも知らず、信繁相手に拾を死んだ捨と間違うほどの混乱ぶりを見せる秀吉。「死にとうない」と栄華の終わりを恐怖する。
寧も可哀想。夫のために菓子を手作りするが、ことごとくはねつけられてしまう。一番秀吉を大事にしているのは、寧、その次が三成か。ついに寧は「あなたたちが何もかも押しつけとるからじゃにゃあですか!」と部下達を厳しく咎める。元気が有り余っているときのカリスマリーダーはどんどん下の者にエネルギーを分け与えるが、弱ってきてもその構図は変わらないので、吸い取られる一方になってしまう。身近な人間はそれがいたたまれない。
茶々(竹内結子)は「できればあの子から遠ざけたいのです」「老いさらばえた惨めな姿を見せたくありません」と秀吉よりも拾のことしか考えていない。

こういう様子を見ていると、老後は同志と思っていた寧とのんびり暮らしたらいいのに、って思ってしまう。
人生いろいろ。夫婦もいろいろ。
出自詐称が息子達にもバレてしまった薫は昌幸が太夫の元に通っていると思ってピリピリムード。でも、地震のときに伏見城に向かう夫に、女の元に行くのか! と責めるのはいただけない。これだと夫の心はますます離れてしまう。これだとあまりにベタな倦怠期の夫婦ものになってしまうところ、そうは済まさないのがエンターテイナー三谷幸喜。

そこで出浦の愛だ。
出浦も、昌幸が女遊びに興じていることが不満だったが、ある瞬間、城づくりに燃えはじめた昌幸を見て、「わしが惚れたのはそんなお主じゃ」とど直球な告白。
秀吉と三成、昌幸と出浦との、戦国男の愛の道 主君と部下の日陰の愛がシンメトリーに描かれた。
シンメトリーといえば、稲とこう。こうの存在が稲の女としてのプライドをくすぐることとなり、子供を授かる。しかも、こうにも。
子供ができてがぜん自信が沸いたのか、秀吉に加担する信繁を心配し「すべては真田のためだ」と言うときのお兄ちゃん、いつもより力強かった。

強いといえば、春。文禄5年閏7月13日、慶長伏見地震で薫も稲もこうもおろおろしていたなかで、ひとりしっかり、出かける信繁を見送った。このしっかり具合と、三成いわく「あのおなごは厄介」とは何か関係があるのだろうか。
夫婦の形や老いの悩みを見つめ、戦国ホームドラマとしての存在感を際立たせた29回だったが、地震の揺れにテロップがかぶるタイミングがつくり出した緊迫感にしびれた。
(木俣冬)