『能町みね子の純喫茶探訪 きまぐれミルクセ〜キ』(能町みね子/オレンジページ)

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 ミルクセーキ…この名前を聞いて、ふんわりと、ほのかに甘いあの味を思い浮かべることができるのは、きっとある年代以上の人ではないだろうか。なぜなら、ミルクセーキを出すのは、今では少なくなりつつある「喫茶店」が多く、いまどきのカフェやファストフード店で出される○○シェイク、○○フラペチーノの類とは、似て非なるものだからだ。

 そんなミルクセーキを求めて、近頃メディアで独特な存在感を放っている、漫画家・エッセイストの能町みね子さんが、東京、そして日本各地の喫茶店(純喫茶)を巡り、綴った本、それが『能町みね子の純喫茶探訪 きまぐれミルクセ〜キ』(能町みね子/オレンジページ)だ。能町さんの喫茶店愛にあふれた文章と写真、味のある丁寧なイラストと共に、さまざまなミルクセーキが紹介されている。

 まず、「東京でミルクセ〜キ」の章では、東京都内の喫茶店のミルクセーキが取り上げられている。押上、仙川、日本橋、番町、牛込榎町、大塚、赤坂、高田馬場、浅草と、いわゆるオシャレで華やかな場所は少なく、喫茶店が似合いそうな街ばかり。

 この中で、筆者が一度だけ行ったことのある喫茶店があった! 赤坂にある「喫茶パンジー」。能町さんの言う通り、「社員食堂みたいな」飾り気のない雰囲気だったが、能町さんのミルクシェイク(この店ではこう呼んでいる)の評価は高く、「パンジーは名店です!」というお墨付き。

 後半の「旅先でミルクセ〜キ」の章では、全国各地の喫茶店のミルクセーキを紹介。北海道から始まって、青森、宮城、石川、岐阜、愛知、静岡、大阪、福岡、佐賀まで、個性的な喫茶店が目白押しだ。

 能町さんが描く各店のマスターやお店のイラスト、そして文章からは、ミルクセーキの魅力が伝わるだけではなく、旅心をもかきたてられる。センスがいいのか悪いのか、そんな基準を軽く超越した、マスターこだわりの内・外装、店内の小物(人形、ランプ、コースターetc.)、BGM、メニュー、看板のロゴ、店名にいたるまで、どれをとってもホントにユニークで魅力的だ。

 昨今のカフェチェーン店は、どこもこぎれいで当たり外れがないのはいいが、それ以上でも以下でもない。大体、そういった店ではマスターの顔など見えない。だが、喫茶店の場合は、マスターの個性=店の個性になっているのが、本書を読むとよくわかる。これまで気にも留めていなかった街の喫茶店に、ちょっと勇気を出して入ってみたら、そこにはカフェチェーン店では味わえない、魅力的な世界が広がっているかもしれない。

 ちなみにYouTubeでは、能町さん自作自演による本書のイメージソングを公開中。能町さんのアンニュイな歌声がいい感じだ。

 余談だが、長崎出身の筆者は、これまでミルクセーキは飲み物ではなくデザートだと思っていたが、これは長崎のミルクセーキ独特のもの。長崎市にある九州最古の喫茶店「ツル茶ん」店主の本書インタビューを読んで、初めてわかった事実である。

文=森野 薫