老親介護 来訪するケア支援者はそもそも「どこの誰か?」「敵か味方か?」

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■誰が公的職員で、誰が民間社員か?

老親の衰えが目立つようになり、介護サービスが必要になった時、多くの人はまず、市区町村の役所の介護保険課に連絡をとり、相談するはずです。

最初に役所の介護保険課に連絡・相談することを(1)のステップとすれば、以降の段取りは次のようなものになります。

(2)窓口で介護保険の説明を受け、要介護認定の申請を行い、そのエリアを担当する地域包括支援センターを紹介される。
(3)数日後には役所から派遣された調査員がやってきて本人・家族から心身の状態を聞き取り調査。
(4)それを元に要介護度が判定される。

(2)の段階で紹介される地域包括支援センターでは担当する相談員が決められ、その後に判定される要介護度や利用者の状態に応じてケアプランを作成。ホームヘルパーによる訪問介護、訪問看護、デイサービスといった、それぞれの家族に必要な具体的な介護サービスが行われます。

だいたいこうした流れで介護生活が始まるわけです。

そもそも介護行政を担うのは厚生労働省であり、国民は介護保険料を国に納めます。介護給付金の半分は公費=税金でもあります。また、最初に相談に行くところは役所の介護保険課ということもあって、介護サービスは「公的機関によって行われるもの」と思っている方も多いのではないでしょうか。

ところが、介護が始まると、やってくるホームヘルパーにしても訪問看護師にしても民間企業が運営する事業所の職員。利用を開始する時、契約書を書くのでそれがわかります。

まあ、利用者とその家族にすれば、より良い介護サービスを提供してくれれば何の不満もなく、相手が公的機関の人だろうが民間企業の人だろうが、どっちでもいいわけです。

■「いい人」でも利益優先の業者はいる

ただ、「公」と「民」では若干、印象が違うことは確かです。

最初に相談する役所の職員=公は「お役所仕事」という言葉があるように融通が利かない面はあるものの、市民には分け隔てなく対応してくれる印象があります。一方、介護サービス業者=民。誠実な業者は多いと思いますが、営利を求めなければ成り立たない面もあり、利用者のことより儲けを優先する部分があるのではないか、という印象を持ちがちです。

それと我々が利用する他の業種の民間企業、たとえば家電メーカーであれば、A社の製品とB社の製品の性能などを比較して選ぶことができますが、介護サービスの場合は基本的にケアマネージャーが選んだ業者を利用することになりがちです。

提供されるサービスに不満があればケアマネージャーに言って業者を変えてもらうこともできないわけではありませんが、介護の専門家に対して素人の家族がなかなか言い出せるものではありません。こうした状況にある利用者は「どこまでが公営で、どこからが民営なのか」といったモヤモヤを抱えるのです。

だからといって公は信用できて、民は信用できないというわけではありません。

以前、我が家(父)を担当したケアマネージャーはとても良い方で、要介護3になった父の状態や家の事情をくみ取って最適のサービス事業者を手配してくれました。利用したのは、介護用品レンタル、訪問介護、訪問看護、訪問入浴でしたが、来た事業者はみな親身に対応してくれました。

ただ、中には利益優先の業者がいるという話を聞きますし、介護サービスを利用するうえでの基礎知識として、どこまでが公で、どこからが民か、ということは頭に入れておいてもいいと思います。

■中立公正ではない地域包括支援センターもある

最初に介護の相談をする役所はいうまでもなく公的機関です。

また、同(2)の役所からバトンを受け、担当ケアマネージャーを決めたり介護サービスの相談や仲介の窓口になったりする地域包括支援センターは微妙です。

その業務の性格上、公的機関と思われがちですが、大半の地域包括支援センターを運営しているのは社会福祉法人。公益法人という公的性格を持つ民間事業者なのです(数は少ないが以前同様、役所が運営しているところもある)。そして、ここが仲介し介護サービスを行なうのが民間事業者です。

地域包括支援センターが設置されるようになったのは2005年に介護保険法が改正されてから。それまでは役所の在宅介護支援センターという部署がその役割を果たしていることが多かったのですが、介護保険制度が施行され要介護者が激増したことで対応しきれなくなり、ほとんどの地域で介護の人材とノウハウを持つ社会福祉法人に委託するようになりました。

社会福祉法人は公益を目的として設立・運営される所轄官庁から認可を受けた公益法人です。営利を目的としてはならず、そのかわり自治体からの補助や税制の優遇措置があります。

また、社会福祉法人であれば地域包括支援センターを開設できるというわけではありません。一定のエリア(平均人口約3万人、高齢者人口約6千人が目安)に1カ所と決められ、審査を受けたうえで設立が認可されるそうです。

そうした厳しい規定があるうえ、役所から委託を受けて業務を行なうのですから、民間業者といえども公的機関と同様の組織と見てよさそうな気がします。しかし、ケアマネージャーのSさんは、「そうとも言い切れないんです」といいます。

Sさんは現在、独立したケアマネージャーとして事務所を構えて仕事をしていますが、以前は地域包括支援センターに所属しており、その時の内情を含めて、こう語ります。

「役所などの公的機関とその職員は中立公正が大原則ですよね。介護職も同様で研修のときなどは“中立公正であれ”と厳しく指導されます。すべての利用者さんに質の良い介護サービスを提供するのが使命ですし、そこに差が出てはいけないからです。でも、地域包括支援センターのなかには中立公正とはいえないケースがあるんです。私が務めていたところがそうでした」

■公益法人 実際は飽くなき利益追求

社会福祉法人の多くは地域包括支援センターの運営とは別に、訪問介護やデイサービスなどの介護サービス事業を行っており、所属するケアマネージャーは担当する利用者に自社のサービスを受けてもらうように上司から言われることがあるのだそうです。

「ケアマネージャーは多くの事業者のサービスの質や仕事に対する姿勢をチェックしたうえで、利用者さんに合ったところを選ぼうとするわけです。自社のサービスの質に自信が持てればいいのですが、他の事業者より明らかに劣っている場合でも命令でケアプランに組むことがありました。とても中立公正とはいえませんよね」

一般の会社では営業マンの成績に順位をつけて尻をたたくところがあるようですが、Fさんが所属した地域包括支援センターでも、ケアマネージャーごとの自社のサービス利用件数を明示して、少ないと怒られたそうです。

公益法人であるにもかかわらず、営利も追求しているところがあるわけです。

Sさんが独立したのも、そんな方向性に疑問を感じたからだといいます。

「ただ、これは私が経験したことであって、レアケースかもしれません。本来の目的である公益に徹し中立公正を守っている地域包括支援センターも多いはずです。まあ、どちらの方向性になるかはトップである理事長次第だと思います」

構図にすれば、役所と介護サービスを行なう民間事業者をつなぐ「中間」に存在するのが地域包括支援センター。公の要素と民の要素を併せ持ち、そのことによる矛盾を抱え込んでいる可能性がある組織ということは頭に入れておいていいのではないでしょうか。

(相沢光一=文)