■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ

 シトロエンが数年前から“DS”というプレミアムカーブランドを積極的に展開している。世界各地のモーターショーではシトロエンの隣に別のブースを設けて、独自のブランドであることを訴求している。昨年の東京モーターショーでも「DS」はシトロエンよりも通路側に独立した展示を行なっていた。

 東京モーターショーは、魅力の乏しさと出展料の高さから、海外からの参加メーカーが年を経るごとに減っているのにもかかわらず、「DS」は他の国のショーと同じように参加してきたのには高く評価されていた。日本では4モデル、世界ではもっと多くのモデルを販売している。最もベーシックな『DS 3』を運転してみた。

シトロエンのプレミアム・ブランド“DS”とは何か? シトロエンのプレミアム・ブランド“DS”とは何か?

■機械として優れているか? ★★★(満点は★5つ)

 新開発された1.2L、3気筒ターボエンジンが思いのほか、パワフルで、レスポンスも良好。とても運転しやすい。高速道路も勾配の強い山道も走ったが、3気筒の1.2Lターボとは思えない加速で驚かされた。ターボの効き方も自然で気になるところがない。6速のATも賢く、このエンジンの良いところをうまく引き出している。

シトロエンのプレミアム・ブランド“DS”とは何か?

 ソフトで滑らかな乗り心地もしっかりとシトロエンから引き継いでいる美点だ。ハンドリングもシャープでありながら、過敏に陥らず、運転しやすい。長距離を走っても苦になることがない。加速や操縦性、乗り心地などの走行性能に関して不満はなく、コンパクトなクルマなのに快適性が高いのが優れているところだろう。

シトロエンのプレミアム・ブランド“DS”とは何か? シトロエンのプレミアム・ブランド“DS”とは何か?

 強いて改良を望むとすれば、アイドリングストップのショックとノイズの大きさの削減だろうか。と、ここまでは大きな不満はない。★評価が満点に2つ及ばないのは、カーナビの使いにくさだ。1つの機能を遂行するのに、複数のアクションを必要として、初期画面に戻るのにも複数のアクションを要求される。各アクションもわかりにくい。これほど使いにくいカーナビも最近では珍しい。なぜ、この機種を採用したのだろうか。

シトロエンのプレミアム・ブランド“DS”とは何か?

 日本と欧米ではカーナビの規格が異なっていて、それに対するコストも小さくないことはよく知られている。それならば、今となっては古臭いだけの、それも本機のように使いにくいカーナビ専用機をわざわざ搭載する理由はないだろう。

 多くの人がすでにそうしているようにスマートフォンやタブレットで済ませることを助けるためのクレードルを設置するほうがはるかに購入者のためになる。さらに言えば、すでに多くの輸入車が採用している、アップルの「CarPlay」やグーグルの「Android Auto」などをインストールする方法だってある。

 現代では“たかがカーナビ”ではないのだ。走行性能と同じか、それ以上にテレマティクスは重要な要素となっている。「CarPlay」や「Android Auto」を使って、スマートフォンやタブレットの機能をクルマでもそのまま使えたり、クルマ自体が端末化してインターネットに常時接続することの重要性が増している。もはや、クルマそのものが情報端末化しているのである。

 先進的なテレマティクスは、クルマのサイズの大小とは関係だけでなく、プレミアムを謳うクルマならば、いの一番に採用されていないければならない。それが現代における“プレミアム”だからだ。そうした認識がこのクルマからは少しも感じられないのがとても残念だ。「DS」の名が廃る。

シトロエンのプレミアム・ブランド“DS”とは何か?

■商品として魅力的か? ★★★(満点は★5つ)

 ブランドネームとなっている「DS」とは、1955年にデビューしたシトロエンの「DS」に由来している。オリジナリティーの塊のようなクルマで、今でも信奉者が多い。宇宙船のようなスタイルやハイドロ・ニューマチックというサスペンションとパワーステアリング、ブレーキまでも統合したオイルとガスを利用した統合システムなど、後のシトロエンを決定付ける要素と技術を持っていた記念碑的なクルマである。

シトロエンのプレミアム・ブランド“DS”とは何か? シトロエンのプレミアム・ブランド“DS”とは何か?

 DSブランドは、シトロエン「DS」の革新イメージを活用している点がMINIやフィアット・チンクエチェントとは異なる。MINIやチンクエチェントはオリジナルの内外デザインまでも巧妙に回顧として利用しているのに対し、DSは姿かたちを似せていない。そこがわかりにくいとも言えるし、シトロエンらしい未来志向の気概が感じられて好ましいとも言える。

 筆者は後者の立場を採るが、オリジナルのDSがあまりにも独創的で革新的、強烈な未来志向を有していたが故に、DSブランドはそれを持て余してしまっているように見えてしまう。DSの主任設計者であるアンドレ・ルフェーブルやポール・マジェス、デザイナーのフラミニオ・ベルトーニらが、もし現代のDSを任せられたら、超革新的なコンセプトやテクノロジーを投入したものでないと納得することはないのではないか。DSとシトロエンのことを知れば知るほど、そう思えてくる。

 例えば、ここ数年間、シトロエンがジュネーブやパリのモーターショーでコンセプトを発表し続けてきている「空気ハイブリッド」だ。電気ではなく、圧縮空気をエンジンと組み合わせる。エンジンの回生パワーで内臓タンク内の空気を圧縮し、その反発力を駆動に利用するというもの。まるでSF小説に出てくるような突飛なコンセプトだが、シトロエンは開発を続け、その経過をモーターショーで報告しているから本気なのだろう。

 他メーカーが思いもよらない独創的なアイデアを実現してしまうところをファンはシトロエンというメーカーに期待しているのである。奇怪さを訝しまれるくらいがちょうどいい。私自身、DSの後継車である『CX』に乗っていたから、ファンの気持ちが良くわかる。

 時代が違うので、かつてのDSのようなクルマが生み出されることが容易ではないことはわかる。好むと好まざるを問わず、技術と同等以上にマーケティングが重視されてしまう時代はシトロエンには少々生き難いのかもしれない。シトロエン、特にDSを謳うからにはもっともっと尖ったクルマを期待したい。

シトロエンのプレミアム・ブランド“DS”とは何か?

文/金子浩久

モータリングライター。1961年東京生まれ。新車試乗にモーターショー、クルマ紀行にと地球狭しと駆け巡っている。取材モットーは“説明よりも解釈を”。最新刊に『ユーラシア横断1万5000キロ』。

■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ