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●売っても差し支えない資産が9兆円分
ソフトバンクグループは28日、2017年3月期 第1四半期 決算説明会を開催。登壇した孫正義社長は、英国の半導体開発メーカーARM(アーム)社の買収がソフトバンクグループに及ぼす影響や買収したいきさつ、それによる負債について説明している。

○実質無借金で買収できた

今回はARM買収の発表後、初めての決算説明会となった。そのこともあり、孫社長はプレゼンの中で、ソフトバンクグループの全セグメントにおいて業績が好調であると繰り返し強調している。国内通信事業では営業増益を継続、米国Sprintの業績では調整後のEBITDAが大幅に増加、Yahoo! JAPANではeコマース革命が順調に進展、ソフトバンクの投資資産では投資回収により価値が顕在化したという。

ARMの買収金額は3.3兆円と言われており、一部の投資家からは「ソフトバンクは大きな負債を抱えるが、大丈夫だろうか」といった心配の声が上がっている。これに対し、孫社長は次のように反論した。

「ソフトバンクでは、過去に4回ほどパラダイムシフト(革命的な変化)を行ってきた。その都度、借りることのできるお金は全部借り、売ることのできる事業は全部売って資金をかき集めてから、一か八かの賭けを行ってきた。しかし今回はソフトバンクの歴史上、初めて30%程度の借入金でM&Aが行えた。7割は手持ちの資金で賄った。ARM買収の前後で純有利子負債のEBITDAに対する倍率は3.8倍から4.4倍に増えた程度。ボーダフォン日本法人を買収した直後は6.2倍だったが、それに比べれば充分健全な範囲」

この程度の負債はこれまでも経験してきたので問題ない、という論法だ。

また、「いざとなれば売れる資産を、いくら持っているか。ソフトバンクでは、売っても本業に差し支えのない資産を9兆円持っている。純負債との差額を考えると2兆円余る計算。だから私に言わせれば、今回の買収は実質無借金で行えたようなもの」とも豪語している。

●Sprintは「と金」
○何がARM買収を決断させたか

ソフトバンクの国内事業では、設備投資がピークを過ぎた。このことで毎年5,000億円のフリーキャッシュフロー(会社の稼ぎから事業運営に必要な資金を差し引いた余剰資金)が得られるようになった。累計契約数も堅調に推移しており、SoftBank光の契約者も増え続けている。

このほかSprintの業績が著しく改善してきたことも、ARM買収の決断を後押ししたようだ。いまやSprintの取得原価は2.01兆円。ソフトバンクがSprintの買収に使った1.95兆円を上回る価値が生まれており、米国市場では株価も大幅に増加しているという。「アメリカの投資家の皆さんにもご評価いただけるようになった。将棋の”歩”は裏返したら、金に化ける。Sprintがこれから稼ぎ頭になる」と孫社長。

孫社長は「ARM買収の意思決定ができたのは、ニケシュが辞めたからですか、と聞く人もいる。そうではない。国内の通信事業が好調で、もともと手元には2.5兆円の資金があった。これに加えてアリババ株の一部現金化、ガンホー、スーパーセルの売却によって新たに2兆円の現金が入る目処が立った。さらにSprintのV字回復の道筋が立った」と説明。そして「目の前にはIoTの大きなパラダイムシフトが迫っている。このタイミングで我々が狙わなくてどうする」とまくし立て、今回の買収の正当性を自ら主張した。

孫社長は「ARMの会長にプロポーズして、2週間で買収の合意までこぎつけた。日本の経済史の中でも最大規模のM&Aが、世界でも例がない速さで決着した。5年後、10年後に”ソフトバンクは何をする会社ですか”と問われたら、ARMの会社と答えるようになる。ARMはソフトバンクの中核事業になる」と熱を入れて説明した。心はすでにドーバー海峡を越えている様だ。

そのARMの2015年度の実績だが、営業利益率は51.6%、税引き後利益は578億円となっている。孫社長は、プレゼンの終盤で「ARM社において、この先の4〜5年間は目先の利益を少し減らしてでも、マーケットシェアの拡大、技術者の増加、研究開発費の増加などに先行投資をしようと語りかけた。すると、非常に強い共感を得られた。是非そうしたい、そうありたいと言ってもらった」というエピソードも明かしている。

●国内事業には疎くなった孫社長
○事業家として非常に充実

決算説明会の最後には質疑応答の時間が設けられ、孫社長が回答した。この1カ月間の気持ちについて聞かれると「毎日がワクワクしており、寝る時間がもったいない。朝が来るのが待ち遠しい。いま事業家として非常に充実している。また新しい目標に挑戦できる。当分、社長業は辞められない」と笑顔になった。

ARM買収のシナジーが見えない、との質問にはまず「シナジーが見える会社なら買えなかった。例えばAppleやGoogle、インテル、クアルコムなどは独占禁止法があるのでARMを買収できない。ソフトバンクにとってシナジーが直接的に見えない会社だから、無風状態で買いに行けた。例えば囲碁の名人戦では、自分の置いた石とはポーンと離れたところに次の石を打つ。先に打った石とのつながりがすぐには見えない。でも分かる人は、なるほどと感心する。持っている石のすぐ側に次の石を打つのは、小学生の囲碁」と説明。

その上で、「ソフトバンクにとってのシナジーをここで説明するわけにはいかない。他社との競争がある。リングに立つボクサーが、次は左のジャブを打ちますよとは宣言しない」として理解を求めた。

○Y!mobileの合併を忘れちゃった?

国内の携帯通信事業について、Y!mobileの話題は聞くがソフトバンクモバイルの実態が見えにくくなっている、と指摘されると「基本的にY!mobileは、ソフトバンクグループの100%子会社で、完全にひとつのグループなんです」と回答。

これに慌てたのはソフトバンクグループ代表取締役 副社長の宮内謙氏で、「ブランドとしてソフトバンクモバイルとY!mobileがあるんです。もうY!mobileという会社は存在しません」と訂正した。

これには、孫社長も「合併したんだよな。すみません、このくらい国内の事業に疎くなっている。最近、(宮内氏に)任せて自分は離れているもので」と苦笑いするしかなかった。現在の孫社長の心の居場所が浮き彫りになった場面だったかもしれない。

(近藤謙太郎)