『ヒマワリ:unUtopial World』(林トモアキ/KADOKAWA)

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 世界を支配する力をかけて、なんでもありのバトルゲームに挑む“ヒロイン”。今回ご紹介する『ヒマワリ:unUtopial World』(林トモアキ/KADOKAWA)が描くのは、ライトノベルではちょっと珍しい女の子の主人公、ヒマワリこと日向葵(ひゅうが・あおい)だ。

 四年前にテロ事件に巻き込まれたヒマワリは、理不尽な人命の蹂躙と殺戮を目の当たりにし、前向きさを失っていた。惰性で通っていた高校も養父の他界をきっかけに不登校となり、ひきこもりの生活を送っていたが、ある日の外出でカラードギャングと呼ばれる不良少年たちの戦闘に巻き込まれてしまう。

 舞台はテロ事件による崩壊からの復興により、摩天楼が屹立する近未来都市の風貌と化した東京湾の人工島〈新ほたる市〉。独自の行政がしかれたそこでは、〈精霊さん〉と呼ばれる魔法のような能力を操る不良青少年の群れ、カラードギャングが夜ごと抗争を繰り返していたが、その場の戦闘を制した少年はヒマワリが通っていた高校の生徒会長・桐原士郎だった。不登校を咎め、逃げるヒマワリを引き留めるべく一方的に勝負をつきつけた桐原を、咄嗟に腕ひしぎで倒してしまった結果、彼女は無理やりバトルゲーム〈ルール・オブ・ルーラー〉の参加者として登録されてしまう。

〈ルール・オブ・ルーラー〉とは命以外なら何をかけてもどんな勝負をしても合法とされるゲームだ。勝負によって得られたポイントは、単にお金としても換算できるが、その主催元であり〈新ほたる市〉を影から操る摩天楼の主たちである企業部会に対する権力、つまり「世界を統べる権利」として行使できる。参加資格は無制限とされていたが、開始直後にギャングが参加者に名を連ね、やがて〈精霊さん〉の能力をぶつけあうケンカへと変わっていた。

 意図せずも上位ランカーであった桐原から勝ち星を奪ったことで、ヒマワリはギャングたちの標的とされるが、驚くことに彼女は恐怖を感じず、それどころか敵として存在を求められる生の実感に胸を高鳴らせる。〈精霊さん〉の能力を駆使して火や水を操るカラードギャングのリーダーたちにヒマワリはどう対抗するのだろうか。秘められた能力が覚醒するか、知略を巡らせるかと思いきや……彼女が繰り出すのはシンプルな力。蹴る、殴るの体術で、次々と敵を倒してしまう。様々な意図や野望に燃える相手を、ぼーっとしたように見えるヒマワリがぶん殴る姿は爽快だ。殺意に限りなく接近しうる戦闘を求め、人外じみた狂気を滲ませる様子にゾクゾクする。

 しかし四年前に見失った生きる理由を得ようと〈ルール・オブ・ルーラー〉にのめりこんでいくヒマワリは正常とはいえない。そんな彼女の欠落を桐原は気にかけていた。やはり四年前のテロ事件で友人を喪った彼は、二度とテロのような過ちを起こさぬよう世界を正すべく〈ルール・オブ・ルーラー〉に挑んでいたのだ。「日向。ヒマワリ。お前は咲き方がわからないのではない。咲く理由がわからないんだろう? 俺が与えてやる」と手を差し伸べる桐原の決意を認め、ヒマワリは「少しくらいなら、手伝ってあげてもいいかもしれません」とこたえる。生きる理由を求める少女と、その理由を与えるため世界を変えようとする少年のボーイ・ミーツ・ガールとしてのドラマは胸を熱くするはずだ。

 天然なヒマワリに、傲岸不遜な桐原や、アクの強いカラーギャングたちのかけあいは、ツッコミどころ満載で始終楽しい。本書は世界観を共有する著者の作品群「精霊サーガ」の完結編に位置づけられており、著者の作品を読んだことがある読者は見覚えのあるキャラの登場が嬉しいだろう。もちろん、本書をはじめて手に取る読者も十分に楽しめる内容となっている。謎多き〈ルール・オブ・ルーラー〉の目的とはなにか、ヒマワリたちは戦いの果てになにを得るのか、物語のこれからに目が離せない。

文=丸茂智晴