きずな橋   photo:Hiroaki Kano

カンボジアの通貨、リエルの紙幣を何気なく眺めていてハッとした。そこには二つの橋が描かれているのだが、デザインの一部に日の丸のような模様があるのに気づいたからだ。

 
よく見ると隣にはカンボジアの国旗も描かれていて、どうやら日の丸に間違いない。国を象徴するもののひとつである紙幣のデザインに、他国の国旗が使われるとはただ事ではない。

12208481_939949156098964_4582839834208566014_n著者撮影

日の丸がデザインさているのは、500リエル札の裏面。描かれている二つの橋は、通称「きずな橋」と「つばさ橋」と呼ばれている。ともに日本のODA(政府開発援助)による無償協力によって、カンボジアを南北に流れる大河メコン川に架けられた。どちらもカンボジアの発展と人々の生活に欠かかせないものとなっている。500リエル紙幣に記された二つの橋と日の丸には、カンボジアの人々の日本への思いが込められている。

12239547_939949109432302_4935069151202987367_n著者撮影

プノンペンの北東部、コンポンチャム地区にある「きずな橋」は2001年に完成した。メコン川に初めて架けられたこの橋の開通によって、農産物の産地である東北地方から首都プノンペンへの交通が劇的に改善。現地ではクメール語で橋を意味する「スピエン」に日本語の「きずな」をそのまま組み合わせて、「スピエン・キズナ」と呼ばれ親しまれている。「きずな橋」は、紙幣だけでなく切手にもなった。

KHM-15007_mdつばさ橋   写真提供:久野 真一/ JICA

一方の「つばさ橋」は、2015年の4月に完成したばかり。同じく日本の協力で整備が進められている国道1号線を、プノンペンから1時間半ほど走ると姿を現す全長2,215メートルの大きな橋だ。2羽の鳥が翼を広げているように見える特徴的なデザインから、こちらも日本語をそのまま用いて「スピエン・ツバサ(つばさ橋)」と命名。橋の完成によりベトナム、カンボジア、タイをつなぐ大動脈が生まれ、昨年末にASEAN経済共同体が発足したことで今後ますます大きな役割を担うことが期待されている。

KHM-13552_mdメコン川から見たつばさ橋の建設時の様子  写真提供:久野 真一/ JICA

「つばさ橋」の建設プロジェクトは2004年にスタートし、10年以上の歳月をかけて完成。建設作業は、さまざまな困難に直面した。建設地付近には1970年代にカンボジアを支配したポル・ポト派の弾薬庫があり、工事開始前に不発弾の処理は行っていたものの完全に処理することはできず、2012年7月に不発弾の爆発事故が発生。幸い負傷者は出なかったが、数ヶ月間の工事中断を余儀なくされた。そんな苦労の末に造られた橋は、昨年発行された新札に日の丸を添えて描かれることになった。

これらの橋を無償で建設してくれた日本への感謝の気持ちは、広く一般のカンボジアの人々の中にもあるという。現地で日本語通訳として活躍するセン・セイハーさんはこう語ってくれた。

「これらの橋を日本に造っていただいたことは、もちろんみんな知っていますし、大事に使おうとしています。たとえば農家の人たちが新鮮な農作物を市場に運ぶにも、妊婦が出産のために病院へ行くにも、橋ができる前は小さなボートで1時間もかけて川を渡らなければいけませんでした。カンボジアの人々の生活にとって、言葉で言えないくらい大きな意味を持っているんです」

12c-29-22トンレサップ湖   ©ASEAN-Japan Centre

日本の協力で造られた橋が、カンボジアにはもう一つある。トンレサップ湖に架かる橋で、通称はずばり「日本橋」。「きずな橋」や「つばさ橋」よりもはるか以前、1966年に造られた。重要な輸送路であったため内戦時に爆破されてしまったが、1994年に再び日本の手によって復旧。その際にもポル・ポト派により橋の爆破予告がされるなど、作業は命懸けだった。「日本橋」の再建はカンボジア復興の第一歩となり、命懸けで作業を続けた男たちの姿は当時の1000リエル紙幣に描かれた。

カンボジアを訪れた際には、ぜひ500リエル札の裏面を確認してみてほしい。そこにはカンボジアの発展と生活を支える二つの橋が日の丸とともにあり、そこに託されたカンボジアの人々の日本への強い思いを感じとることができるだろう。

 
(text : 本多 辰成 )

 

連載「東南アジアと日本の絆」
>その他の記事はこちら