■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ

 4月に東欧モンテネグロで乗ったジャガー『F-PACE』の日本仕様に、早くも八ヶ岳で乗ることができた。その時のレビューは本連載でも2回にわたってお伝えした通りだ。

「『F-PACE』に乗ってわかったジャガーがSUVを投入した理由」

「これは便利!ジャガー初のSUV『F-PACE』のキーがスゴい」

『F-PACE』はジャガー初のSUV。時代は変わった。スポーツカーとスポーティサルーンで勇名を馳せていたイギリスの名門自動車メーカーもSUVを造るようになったのである。詳しい人は、ここで訝しむはずだ。

「今では、ジャガーは同じイギリスのランドローバーと同じ会社になったのだから、わざわざSUVを製造してはダブってしまう。無駄ではないか?」

 確かにジャガーはSUV専業メーカーのランドローバーと同じ経営である。ランドローバー社は、ラグジュアリーな『レンジローバー』やスポーティーな『レンジローバースポーツ』から始まって、ファミリー向けの『ディスカバリースポーツ』など様々なSUVを取り揃えているわけだから、なにもわざわざジャガーが今さらゼロからSUVを開発して製造するのは無駄に思えてくるのも無理もない。

 それでなくとも、現代のクルマはアーキテクチャーと呼ばれる基幹部分やエンジンを始めとするパワートレインなど、共用できるもは可能な限り共用されている。というか、共用を前提として開発と設計が始められている。共用しても、セッティングや制御を変えることによって、運転特性とその印象を変えることができるから、メーカーは積極的に共用を推進している。

 昔はそうはいかなかったから、共用=同じクルマだった。そうしたエンジニアリングが可能になったのだから、ランドローバーが造ったSUVにジャガーのエンブレムを付けて一丁上がりとしても、そんなに外れたものはでき上がってはこないはずである。

ジャガーならではの実力と魅力を兼ね備えた同社初のSUV『F-PACE』

 しかし、ジャガーとランドローバーはそうしなかった。ジャガーは“ジャガーのSUV”を造りたかったのである。つまり、妥協することを良しとしなかったのだ。その出来栄えは、以前のコラムに記した通り素晴らしいものだった。モンテネグロで走って、『F-PACE』は間違いなく“ジャガーのSUV”に仕上がっていた。

 その日本仕様に八ヶ岳で乗ってきた。当たり前のようだけれども好印象は変わらない。輸入車の日本仕様の中には、タイヤの選択や仕様の変更で特性と印象が結構変わってしまうものが時々あるけれども『F-PACE』は問題なかった。

ジャガーならではの実力と魅力を兼ね備えた同社初のSUV『F-PACE』 ジャガーならではの実力と魅力を兼ね備えた同社初のSUV『F-PACE』

 340馬力を発生するスーパーチャージャー付き3.0L、V型6気筒ガソリンエンジンを搭載した「R-SPORT」と180馬力の2.0L、4気筒ターボディーゼルの「PRESTIGE」。どちらも商品力が高く、魅力的だ。クルマの仕上がり具合についての詳細については以前の記事を参照していただきたい。

ジャガーならではの実力と魅力を兼ね備えた同社初のSUV『F-PACE』 ジャガーならではの実力と魅力を兼ね備えた同社初のSUV『F-PACE』

『F-PACE』の走りっぷりの鮮やかさの一端を担っているのは、間違いなくアルミを80%用いて軽量に仕立てたボディーにあるだろう。鉄よりも剛性が高く、軽い。しっかりしていて、加速にも減速にも寄与する。ジャガーでアルミボディーを採用しているのは『F-PACE』だけではない。今や、すべてのジャガーのボディーにアルミが使われている。その中でも、80%と云う最もアルミ比率の高いボディーを持つのが『F-PACE』なのである。

 ジャガーがボディーのアルミ化に取り組んだのは先代『XJ』からだ。クラシカルなデザインと先進的なアルミボディーが対照的だったが、効果はてき面だった。以後、ジャガーはボディーのアルミ化を積極的に展開していく。それと前後して、ジャガーはフォード傘下を離れ、インドのタタ財閥による資本投入が行なわれた。その後、自社エンジン工場を建設し、モデルラインナップの再構築を図った。『XE』『XF』『XJ』のサルーン群と『Fタイプ』のスポーツカーに加わったSUVという最後の1ピースが『F-PACE』である。

 注目したいのは、アルミの特性を活かして再生アルミを意欲的に採用しているところだ。『F-PACE』の構造の3分の1に使用しているだけでなく、他モデルやランドローバーにも展開している。

「現在、年間3万トンの再生アルミを使用していますが、これをもっと拡大して、2020年には、ジャガーとランドローバーで使用するアルミ材の75%は再生アルミを用いるように取り組んでいます」(プレゼンテーションより)

 ジャガー・ランドローバーに限らず、メルセデス・ベンツが『Cクラス』のボディーに50%のアルミを採用していたりして、特にプレミアムカーメーカーに於いてアルミの採用は珍しいことではない。しかし、再生アルミの採用までを推進しているというのはとても先進的である。プレミアム、スポーティーというイメージとちょっと違って、実はジャガーには実質を尊ぶ側面も備わっているのだ。3代前の『XJ』で、シートに本革と本革風合成皮革が選べるよう設定されていた。

ジャガーならではの実力と魅力を兼ね備えた同社初のSUV『F-PACE』 ジャガーならではの実力と魅力を兼ね備えた同社初のSUV『F-PACE』

「ウチの顧客は環境意識が高く、動物愛護精神に富んでいるから、あえて合成皮革製シートを選ぶ人が多い」

 そのように開発者が誇らし気に語っていたことを思い出した。今年に入ってから『F-PACE』以外にも、ボルボ『XC90』、アウディ『Q7』、レクサス『RX』、メルセデス・ベンツ『GLE43 4MATIC』など、プレミアムブランドは矢継ぎ早に新型SUVを日本市場に投入してきている。

 ディーゼル版のベーシックモデルが639万円からという価格も含め『F-PACE』はランドローバーとは異ったジャガーならではの実力と魅力を備えている。プレミアムSUVマーケットは『F-PACE』の参入によって活況を呈し始めている。

ジャガーならではの実力と魅力を兼ね備えた同社初のSUV『F-PACE』 ジャガーならではの実力と魅力を兼ね備えた同社初のSUV『F-PACE』

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文/金子浩久

モータリングライター。1961年東京生まれ。新車試乗にモーターショー、クルマ紀行にと地球狭しと駆け巡っている。取材モットーは“説明よりも解釈を”。最新刊に『ユーラシア横断1万5000キロ』。

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