『総選挙ホテル』(桂望実/KADOKAWA)

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 イギリス国民投票に参議院選挙、東京都知事選、はてはAKB選抜メンバー総選挙など、最近何かと目にとまることが多い“選挙”の二文字。メディアが選挙の話題を多く取り上げる中、タイトルにその文言を冠して登場した『総選挙ホテル』(桂望実/KADOKAWA)は、大人の青春小説であり、ふっと肩の力を抜くためのヒントが詰まった指南書でもある。

 ホテル支配人を務める永野は、30年もの間ホテルに愛を注ぎ、そして最高のサービスを訪れる客に提供し続けてきた。しかし、その思いとは裏腹にバブル崩壊後のホテルは、年々経営が傾く一方。その状況を打開すべく投資ファンドから送られてきた新社長が、社会心理学者の元山だ。

 元山は、研究の延長線上としてホテルの経営を捉え、“実験”と称し施策を推し進める。ホテルの人事を従業員たちの投票によって決定させる総選挙。監視カメラに録画された勤務風景に対して、従業員同士で点数やコメントをつけ合う。覆面調査員の査定によって、来期の人員削減部署を決める。そんな内部から雰囲気が悪くなりそうな要求を突きつけられても、半信半疑のまま実行に移していく永野。しかし、論理的な思考でもって考えられた施策たちは、永野を振り回した挙句、心の奥底に隠れていた従業員たちへの思いを引きずり出してしまうのだ。

 そして社長の実験に翻弄されるのは、永野だけではない。花に携わる仕事がしたいと転職までしてホテルに入社した小室は、選挙の結果によってフロント担当に。38歳の黒田は、異動した先で管理職に抜擢されるも、査定によって来期には2人の部下を失うことを宣告される。他にも、仕事への充実感を感じずにいる中西や、派遣清掃員から一転して年下の先輩の下で働くこととなった主婦の後藤など、ホテルのあらゆる場所で仕事や人生について、それぞれが否応なしに向き合うことになっていく。

 社会に出れば、やりたい仕事ができないというジレンマや、本当にこの仕事が自分に向いているのだろうか、と考えることがあるだろう。本書に出てくる登場人物たちは、現代を生きる社会人たちと同じような悩みにぶつかり、そして自分なりの答えを見つけ出そうとする。その不器用ながらも前に進もうとする姿は、時に愛おしく、そして改めて仕事に対する気持ちを呼び起こさせてくれる。

 特に終盤のエピソードでは、彼らが新たに与えられた舞台での活躍が光る。それまで不安や迷い、憤りなどを抱えた彼らが、ひとつのことを成し遂げようとする姿には、青春のような光り輝くものを感じ、熱い気持ちがわき起こってくるのである。

“実験”と称した経営改革を行う元山の思惑。新たな役割について思い悩む従業員たち。仕事、食事、睡眠の繰り返しに嫌気がさし、日々をしんどいと感じている人にこそ、彼らが見つけた答えの結末を見届けてほしいと思う。

文=椋鳥