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●竹尾の紙が「光る」
竹尾といえばファインペーパーの開発・販売などを行う専門商社で、デザイナーの間では有名な企業。神保町にある同社のショールーム「見本帖本店」の2階では紙とデザインにまつわる展示やセミナーが催されているが、現在行われている「光れ!紙 銀ナノinkと紙のミライ 展」の会場は、少々様子が違う。

場内に展示されている紙に電子回路が印刷され、光っているのだ。

裏側に装置を組み込んでいるのではなく、紙に印刷された銀色の線を通電させ、LEDを光らせている。これらの展示は、スタートアップ「AgIC」の技術を用い、特殊な「銀ナノインク」で電子回路を紙に印刷することで実現した。

紙の質感や機能といったいわば"アナログ"な情報を商材に有する竹尾が、AgIC、および博報堂とコラボレーションしたのはこれが初めてではない。同社が2014年に実施した「折り紙の呼吸 Breathing of ORIGAMI」展から協業関係は続いていたということだが、この時はAgICの作品は多数ある出展作の一つであった。今回はAgICの技術を全作品に反映し、アートディレクターたちが思い思いに技術を活用した「光る」紙の作品が展示されている。

作品群の中でも、キャラメルコーンのパッケージデザインなどを手がけた博報堂のアートディレクター・杉山ユキ氏による「初夏の夕暮れ」は、LEDを蛍の光に、トレーシングペーパーとの対比によって銀ナノインクの色を葉の緑と位置づけた用い方が秀逸だった。

葉がふわふわと揺れており、何か動力源となるパーツが組み込まれていると思っていたところ、実は会場の空調の風や人の動きによって揺らいでいたのだという。杉本氏は「僕らが考えたら、やはり何か機械で動かそうとしてしまう。こうした発想はやはりクリエイターからでないと生まれない」と語っていた。 

●誰もが電子回路を作れる時代へ
○誰もが電子回路を作れる時代へ

AgICの提唱する「プリンテッドエレクトロニクス」は、版を作って製造するのが主流であった電子回路を、極小の銀の粒子が含まれる「銀ナノインク」で必要な場所にインクジェット印刷することで電子回路を制作することができる技術だ。1点から大量生産まで、同じ手法で対応可能となっている。

AgICの杉本氏は、印刷という広く用いられている手法を介することで、これまで電子回路と縁遠かった人々、たとえば今回の作品制作に関わったアートディレクターなどのクリエイターらが、電子回路を扱えるようになることが大きな変革に繋がると語る。

「今回の作品ではLEDだけを使っていますが、電子回路にはさまざまな種類のセンサー等を組み込むことができます。これから、今までの回路の使い方ではない方法がとられるその入り口に立っているところです。現代では電子回路(を使ったデバイス等)がないと生活できませんが、全人類のほんの数%の人が作ったものをみんなが使っていて、回路は"自分たちでは作れない"のが常識でした。ですが、その常識は今後変わってきます」(杉本氏)

実際、今回の作品制作に際して、電子回路向けの専用ソフトは用いておらず、アートディレクターやデザイナーらが通常の印刷物の制作と同様、Adobe Illustratorのデータを入稿して制作したという。一部、試作段階ではAgICの開発した銀ナノインクのペンでドローイングを行い、本制作に活かした。セメダインとAgICの共同研究で生まれた通電する接着剤の試作品も、これらの作品には使われている。

「(銀ナノインクとの)相性が悪いと思われた種類の紙にもダメ元で印刷したことがあって、中には上手く回路が繋がった物もありました。インクジェット印刷によるプリンテッドエレクトロニクスは、トライアルが手軽にできるのが利点です。僕たちが取り組んでいるフレキシブル基板の開発で、ファインペーパーに電子回路を印刷しようとする人はいませんから、今回はすべて手探りで、3社が共同で開発していきました」(杉本氏)

竹尾の全面協力のもと、40〜50種類のファインペーパーで銀ナノインクを用いた印刷を試作し、今回の作品を「開発」したとのこと。結果、ポリエステルを主体とした、銀の粒子が表面にとどまりやすい「ピーチコート」や、特殊なコーティングによるテクスチャに特徴のある「プライク」などが用いられている。

なお、「光れ!紙 銀ナノinkと紙のミライ 展」は8月26日まで開催中。開場時間は10:00〜19:00、土日祝休み。入場無料。先端テクノロジーとクリエイティブの融合を目の当たりにできる展示となっているため、興味がわいた方は足を運んでみてほしい。

(杉浦志保)