喫煙者は逆風に晒されている。タバコこそ迷惑の象徴、社会的には禁煙圧力が強大だ。そんな中、「マールボロ」でおなじみのフィリップモリス社による煙の出ない加熱式たばこ『iQOS(アイコス)』が登場し、喫煙者には禁煙以外の選択肢が現れたかのように見える。それは本当なのか?

■【基礎知識編】『iQOS(アイコス)』は電子タバコではない

『iQOS(アイコス)』は正確には電子タバコではない。電子機器を使ってタバコ葉を加熱して、その蒸気を吸い込む加熱式たばことなる。一方「電子タバコ」はニコチンをグリセリンに溶かしてリキッドにしたものを水蒸気として吸うものの名称。別名「VAPE(ベイプ)」。


海外ではシェアをどんどん高めているのは電子タバコなのだが、日本ではこうした加熱式たばこのiQOS(他にはJTの販売する「Ploom TECH(プルームテック)」がある)が勢いがあるのはなぜか。普通に考えれば日本でもドン・キホーテなどで売られている電子タバコにニコチン・リキッドを入れて売ればいいのではないか。

 

その理由は日本の薬機法(薬事法)にある。タバコ葉を売ることはタバコ店やコンビニエンスストアなどで可能だが、ニコチン・リキッドという液体の形になると日本では薬機法(薬事法)の管理下になり、薬扱い。なのでタバコ店でニコチンリキッドを売るわけにはいかない。そこであくまでタバコ葉を加熱して蒸気を発生させて吸い込むという不思議なiQOSシステムが発売されているのだ。

■『iQOS(アイコス)』本体キット入手のための困難な道のり

そうしたガラパゴス的な背景はあるにしても、有害な副流煙を発生させないiQOSは、周囲の目を気にする日本人にとっては非常に魅力的な製品だ。事実今年4月に放映されたテレビ朝日系「アメトーーク!」で特集されてその存在が知られるやいなや、店頭からiQOSキットが一気に消えた。この原稿を書いている7月末でも未だ店頭に在庫はほとんど無い。入荷の目処が立たないために予約さえ受け付けていない状況。今の所は全国のコンビニエンスストアで各店1〜2個、たまに思いついたように入荷するiQOSを運良くゲットするしか手は無い。


記者ももちろんそうした入手困難の中、この検証のために手に入れようとしたのだが、それはそれは苦労した。看板を置いてあるからと突撃しても、どこの店でも「置いてません、入荷予定もわかりません」と口を揃えるので、だんだん気分的にも凹んできたものだ。

そういう状況で1ヶ月半ほど経った頃、近所の行きつけのタバコ店でいつもの通り「欠品中」の貼り紙を見つめていたのだが、念のため店員に聞いてみると「あ、ちょうど予約を再開したところなんですよ」との返答。


驚きとともに、もう何も考えず前のめりに予約。それから二週間ほどで無事入手することができた。カラーリングはホワイトとネイビーの2種類で、汚れの目立たなそうなネイビーを選んだ。その数日後にその店で状況を聞くと、その予約も大量に殺到したためにすかさず再度予約停止したというので、ものすごく運が良かったということらしい。そんな風に幸運の女神さえ味方につけないと手に入らないのがiQOSなのだ。

 

さらに購入手順も普通のタバコと比較にならないほど面倒。購入時は事前にアプリ「iqos.jp」をダウンロード、必要な登録をしておく必要がある。これをしておかないと割引もきかないし、店頭での購入手続きもできない。


【Android】
【iOS】

『iQOS(アイコス)』は電子機器でなので壊れやすい。そんな時も保証がないと無償修理などができないので、この登録は事実上必須だ。価格は税込定価9,980円だが、アプリ登録によるクーポン価格で4,600円OFFの税込5,380円だった。


このように入手困難なiQOSだが、この状況もそんなに長く続くとは思えない。なので入手可能になった時にすかさず購入意思を決められるように、ここでiQOS運用を徹底的にレポートしておこうと思う。果たして喫煙者の救いの神になるのか、iQOS!

 

■iQOSを使ってみよう!

カウンターの奥から出てきたiQOSキットの箱を見たときは、後光がさして見えるくらいうれしかった。なので早速家に帰って使用してみることに。箱はさながらiPhoneのような高級感のあるボックスで、タバコとは縁遠いACアダプターやケーブルなどが同梱されている。


小さくて非常に読みづらい取扱説明書を読んでみると、そもそも充電器「iQOSポケットチャージャー」にiQOSホルダーを入れて充電しないと使えないんだとか。さすが電子機器。

満充電まで90分かかるとのことだったが、実際はそこそこ充電済みだったようで1時間弱でフル充電終了。

中にiQOSホルダーをセットしておいたので、いますぐ吸える状況になった。


本体と同時購入した専用のカートリッジ「ヒートスティック」は現在発売されている全銘柄の4種類。そのうちの標準らしい「レギュラー」を開封してセットする。ところが箱を開けた途端に鼻をつく異臭が。病院の処置室にでも迷い込んだような消毒薬のような強い匂い。え、これはタバコじゃないの!? そんな気持ちさえ湧き上がるほど異質な匂い。しかもタバコとしてはありえないほど短い。価格が普通の「マールボロ」と同じなのに…。


まあそれでも実際に吸ってみると意外といけるってことになるのではないかと期待して、iQOSホルダーにセットする。おっかなびっくりホルダー先端に挿入。ホルダーの中には加熱ブレードが剣のように仕込まれており、そこにヒートスティックを挿す。軽く抵抗があるのだが、慎重に力を入れると中に入っていって、目安に付けられているラインの手前まで入り込む。この時、決してねじりこまないこと。中の加熱ブレードが折れてしまう。


そしてiQOSホルダーの中央にあるボタンを長押しするとLEDが点滅して加熱開始。約20秒後に点滅が終わったところでスタンバイOKとなる。ということで、吸う。
「アツッ」
結構びっくりするような熱い蒸気が口内に。なるほど、加熱式だから熱いのか。これは何とも不思議な感覚。実際の吸い心地はニコチン特有のスロート・キック(喉を蹴る感覚)があるのでタバコ。でも煙感は全然ないという不思議な心持ち。


それでも息を吐くとエクトプラズム状のものが出る。蒸気。いやもう不思議。白いモワッを増やしたければ吸い込む時間をゆっくりと長くすればいいのだが、普通にタバコのように肺に入れて吸うと、蒸気もまた少なくなる。

 

よく禁煙やファッション用途のニコチンの入っていない電子タバコがあるが、あれらはスロート・キックがないことを考えると、実にタバコである。喫煙者ならタバコを吸った感はしっかり感じられるだろう。

■iQOSを使用するのは面倒の塊!

タバコの目的はニコチン摂取。そう考えるとiQOSはしっかりとした仕事をしてくれる。さながら栄養たっぷりの「ウィダーinゼリー」を吸引するように、ニコチンを吸入しているような、そんな感覚だ。iQOSのヒートスティックは1本につき、約6分間使用するか14回吸い込むかで自動的に電源が切れる。時間・回数切れ直前になるとウルトラマンのカラータイマー的にLEDがオレンジ色に輝く。


これが何やら忙しい。一服という安らぎのひとときなはずなのに、追い立てられるように感じてしまう。慣れればあまり気にならなくなるが、今度は余裕を持ちすぎていつの間にか6分経過していてほとんど吸えないままに電源が切れているという状況に陥ることも。


ちなみにその時にすかさず新しいヒートスティックを差し込んで吸うことはできない。何とこのiQOSホルダーは一回使用毎にバッテリーチャージャーに入れ直して充電する必要があるのだ。その間およそ6分間。何とものんびりしたシステムなのである、iQOSは。

 

iQOSチャージャーは20回程度iQOSホルダーを充電できるので、1日1箱ペースの人ならチャージャーとヒートスティックだけ持ち歩けばいいはず。もっと吸いたい人は、充電用USBケーブルと専用ACアダプター(5V規格)を持ち歩いてスマホやノートPCのように街中などでコンセントを探すことになる。ACアダプターは角形のコロッとしたタイプだが、iPhoneなどのものと比べると格段に大きい。通常のPCのUSBポートやACアダプタでも充電できるが、時間が多めにかかる。


そして吸い終わった後は、iQOSホルダーの上部をスライドさせて引き上げ、使用済スティックを抜き取る。

火を使っていないので普通のゴミ箱に捨ててもいいとのことだが、かなり臭いので密閉できる容器に捨てた方が無難だ。


さらに数本吸い終わるたびにメンテナンスも必要。iQOSホルダーを付属の専用クリーナーブラシでガリガリと、付属スティックでカスなどを除去・掃除するのだが、これが気を使う。

なぜならホルダー内部のiQOSの心臓ともいうべき加熱ブレードが非常に脆弱だから。記者も数回使用してスティックでクズをかき出すようにガリガリ掃除していたら、いとも簡単にポキッと折れてしまい冷や汗をかいた。


上記のようにブレードが転がり出てきて愕然。急いでサポートセンターに電話したところ、「1回だけなら無償交換できます」とのこと。すかさず新しいiQOSホルダーを送ってもらえて事なきを得たが、用心するに越したことはない。

それでは実際の味についてレビューしてみよう。

 

■iQOSの味は実際問題どうなのか?

世界が誇る著名タバコブランド「マールボロ」を擁するフィリップモリスジャパンが20年の歳月をかけて開発した加熱式たばこ『iQOS(アイコス)』。その味わいにも期待してしまうところ。


専用ヒートスティックの構造は特殊。一見短めの紙巻きたばこという見た目だが、中身はちょっと違う。通常のタバコは細かく刻まれている葉が詰め込まれているが、この短いヒートスティックは葉を粉砕してペースト状にして乾燥させたもの。


普通のタバコ葉はそんなに嫌な香りではないが、この加工の段階で何事かが起こっているらしく、ヒートスティックが非常に異臭。普段から「マールボロ」を吸っている人なら愕然とするくらい異質だ。それでは紙巻タバコと現在発売されている4種の専用ヒートスティックを比較してみよう。

 


●紙巻きタバコ「マールボロ」と「ヒートスティック マールボロ レギュラー」

古き良き時代のタバコ葉の良い香りのする赤マルこと「マールボロ」が、「ヒートスティック マールボロ レギュラー」になると、消毒薬漬けにされてしまったような不思議な香りになってしまう。タバコの重さを感じさせるタール値で言えば半減、6〜8mg程度の感覚か。

●紙巻きタバコ「マールボロ」と「ヒートスティック マールボロ バランスドレギュラー」

感想は同様だが、さらにタール値は低く感じて3〜4mg程度か。ライト的な立ち位置のようだ。ただiQOS特有の金属的な香りは控えめなので、レギュラーよりは移行しやすいだろう。

 

●紙巻きタバコ「マールボロ メンソール」と「ヒートスティック マールボロ メンソール」

程よいメンソール感がありつつ、しっかりタバコの味もする紙巻きタバコ「マールボロ メンソール」。男のメンソールという印象だが、これがiQOSバージョンの「ヒートスティック マールボロ メンソール」になると、びっくりして咳き込むくらいの強烈なメンソール感になる。ただその分iQOS特有の香りは気になりにくい(ただ周囲の人間からするとしっかり感じる)。

●紙巻きタバコ「マールボロ メンソール」と「ヒートスティック マールボロ ミント」

こちらの方が「ヒートスティック マールボロ メンソール」よりもスースー感は抑えめ。iQOS臭を程よく中和する感じなので、一番クセを感じにくいので、メンソールに抵抗のない入門者にはオススメ。


多分iQOSを使用し始めて3日くらいは、その特異な匂いが鼻について気になって仕方ないと思う。iQOSは匂いがないという風説もあるが、それは言い過ぎだろう。記者はその臭さがかなり辛かった。ただ4日目くらいからは慣れてきて、ごく普通に美味しく感じるようになる。慣れというものは恐ろしいもので、そうなると通常のタバコが煙くて吸いづらくなるのだ。切り替えの分水嶺は一週間。そこまで耐えれば、面倒な作法も茶道や華道のように体になじみ、香りもまた気にならなくなる。

 

それでは喫煙者がiQOSに切り替えるためのメリット・デメリットについて考えてみよう。

■iQOS導入のメリット・デメリット

メリット●副流煙が発生しない/有害物質が少ない

喫煙者を攻撃する嫌煙家の一番大きな根拠が、周囲の人間に有害物質を吸い込ませてしまうリスク=副流煙だ。iQOSは燃やさないということで、そうした有害物質を90%減少することに成功した。ここで改めて思うのが、タバコの有害物質の中心はニコチンではないということ。ニコチン自体は依存性があり、大量に摂取すると血管収縮のリスクも少しはあるのだが、それより問題なのは燃焼によって発生するタール、一酸化炭素、アンモニア化合物なのだ。


歯や部屋の壁に付着する粘つくようなヤニはタール。タバコを巻いている紙から多く発生するそれは、喫煙者にとっても摂取したいものではない。その点でiQOSはリスク少なくニコチン摂取ができるというのがメリット。その上周囲の迷惑を低減できるのだから素晴らしい。

 

最近はこうした背景から禁煙の店でもiQOSはOKという「iQOS only」表示のある店舗も増え始めている。全面的にタバコはNGという世の中の風潮の中、iQOS使用という縛りはあるものの、店内で楽しめるのは喫煙者にとっては大きな前進ではないだろうか。

 

 

デメリット●くさい/コスパが悪い/面倒で重い

iQOSは煙くはないが、ヤニくささはある。記者本人もiQOS特有の匂いは一発でわかる。通りすがりの人からiQOS臭を感じることもあるので、匂いがほとんどないというのは俗説。衣服にもそれなりに臭いはつく。そして持ち歩きに重いというのと、定期的に以下の機器を使ってメンテナンスをしなくてはならないという、以前のタバコにはなかった手間がある。


中でも深刻な問題はコストパフォーマンスの悪さだろう。家計において削減の対象になりやすいのがタバコ代。なのに5,000円以上(キャンペーンなしなら9,980円)の初期投資が必要な上、通常のタバコとしては高価格の部類に入る1箱460円というのはいかがなものか。さらに充電池を使用した電子製品であるがゆえに故障の可能性もある上、耐用年数は2〜3年が限界だろう。そうなると家賃の更新料のように定期的にコストが上乗せされるということ。2年使用だとひと月あたり約415円の追加となる。

 

ただ加熱式たばこ自体が発展途上の代物なので、今後安価になる可能性もある上、JTからは機器代金が4,000円(キャンペーン価格で2,000円)という「Ploom TECH(プルームテック)」という製品もあるので未来はあると思う。ただそちらも現在入手困難であることには変わりはないのだが。

■ まとめ:喫煙者がタバコを吸い続けるための妥協点がiQOS

確かにiQOSにはデメリットもある。しかしこの先喫煙行為自体が違法になりそうなくらい嫌煙風潮は加速している。ターミナル駅周辺の喫煙所まで撤去されてしまうこともしばしば。そうなるとこうしたiQOSのような副流煙被害をもたらしにくい喫煙機器を、喫煙者は積極的に選ぶ必要があるのではないか。いろいろとデメリットはあるが、喫煙者と非喫煙者が仲良くやっていけるための妥協点がiQOSだと思うので、喫煙者は一度は導入を検討してほしい。

またもう一つの可能性として記者が考えるのは、ニコチン・リキッド使用の電子タバコの国内解禁である。実はこうしたニコチン・リキッドは副流煙をもたらさない特徴の上に、コスパが良く匂いがないという強力なメリットがある。薬機法(薬事法)に引っかかるなら、調剤薬局などでもいいので手に入るようになってもらいたい。今でも個人使用限定だが個人輸入で入手は可能なニコチン入り電子タバコ。記者はそちらにも大いなる可能性を感じている。