『昼、介護職。夜、デリヘル嬢。』(家田荘子/ブックマン社)

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 極道の妻、歌舞伎町に生きる女性たち、愛と性を追い続ける作家、家田荘子。「風俗を取材すると、日本の縮図が見えてくる」という著者が3年の月日をかけて取材したテーマは“介護”。新刊『昼、介護職。夜、デリヘル嬢。』(ブックマン社)は介護の仕事に就きながら、副業として夜にデリヘル嬢として働いている女性たちを追ったルポだ。そこには、低賃金のため介護の仕事だけでは生活費が賄えない現状が浮き上がってくるとともに、これまで社会が蓋をしてきた高齢者の性の問題も潜んでいた。

デリヘル嬢をしなければ生活できない

 現在、要介護(要支援)認定者数が約618万人に対して、介護職員が171万人 (2015年11月末)。特別養護老人ホームへの入居待ちは52万人と言われている(2015 年/厚生労働省)。すでに人手が足りない状態なのに、訪問介護の平均月給約18万8000円、介護職員は約19万4000円(公益財団法人介護労働安定センター『平成25年度介護労働実態調査』)と低賃金は改善されないまま。本書に登場する女性は、訪問介護のヘルパー、施設職員、作業療法士、外国人介護福祉士、ケアワーカーなど様々だ。生活の背景もシングルマザー、既婚者、彼氏アリとそれぞれ異なる。共通するのは、家族のために生活費をデリヘル嬢の副業で補填していること。

 介護の仕事は安いです。安くて有名ですよね。うん、安いです、安いです。でも、介護そのものに私は重きを置いているんですね。お金じゃなくて……私は介護が好きなんです!

 肉体を酷使する仕事でありながら、登場する女性たちはみな明るい。「デリヘルで勉強したことが介護に活かせる」「介護のストレスをデリヘルで解消している」と前向きだ。しかし、介護の仕事を続けたいから、時間の融通がきく風俗で働くというのは、なんという矛盾だろう。著者は「介護職の女性=デリヘル嬢をしていると言っているのではない」と書いており、そういった方々は少数かもしれない。しかし、高齢者数が増加し介護施設不足が叫ばれている一方で、副業をしないと生活できない、子供の学費が払えないという現状が確実に存在する。

衰えぬ高齢者の性欲

 また本書に登場する女性たちが口にするのは、高齢者になっても衰えぬ性衝動を持つ利用者によるセクハラだ。認知症を患っていて“セクハラ行為をしている”だという認識がない方もいる。本書の中で著者は、訪問介護のヘルパーとして潜入取材も試みている。そして“か弱いおじいちゃん”だと思っていた利用者が、急に男の顔になり力ずくで迫ってきた体験を恐怖とともに綴っている。他にも、おしりを触られた、卑猥な言葉をかけられたなど、セクハラの被害は枚挙にいとまがない。社会の中で、“ないもの”として見ないふりをされてきた高齢者の性衝動は、身近な介護職員に向けられている。本書に登場する介護職員は、うまい切り抜け方を見つけて対処しているが、この問題は寛容な介護職の女性たちに甘えていていいのだろうか、犯罪に発展することもありうるのではないかと家田氏は危惧する。

日本の介護はこれでいいのか

 本書では、入所サービス、ショートステイ、デイケアを行う介護老人保健施設の1日が綴られている。リクレーション、食事、入浴介助、その間にオムツ交換など分刻みのスケジュールだ。介護士たちは忙しい中にも気配りや会話を絶やすことがない。著者は「利用者さん一人一人の話を傾聴して的確に受け答えし、決して怒らず、面倒がらず、人生の先輩を尊重しながら、笑顔で『お世話させてもらっている』。私には、とてもできない大変な仕事内容だった」と述べている。肉体的にも精神的にもハードな仕事にもかかわらず、なかなか改善されない賃金水準。

 いずれ自分も歳をとる。介護施設には、親や配偶者、子供が関わってくる問題でもある介護に無関心でいいのだろうか。待ったなしの問題を突きつけてくる1冊だ。

文=松田美保