拝啓、メディア様。Vol.002 「世界の車窓から」テレビ朝日

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【毎週木曜 6:00 更新】
テレビ、ラジオ、Webに雑誌…旅ゴコロをいざなう番組の作り手に、編集部が会いにいき、制作中のエピソードや思いをシェアし、旅を一緒に盛り上げていく連載。今回は、1日の終わりに穏やかな気持ちに誘われる海外鉄道ドキュメンタリー番組『世界の車窓から』のディレクター宮部洋二郎さんが登場。番組放映30年目、10000回を超えてなお、旅は続きます!





◆なんと今年で10000回を突破!長寿番組の秘密は
スタッフの“車窓愛”にあり?

「海外の列車に乗って旅の様子を放送する5分のミニ番組で、1987年6月1日にスタート。今年5月に放送1万回を迎えて30年目に突入しました。1万回達成時で104カ国の鉄道を取材して、総取材距離は75万kmにおよびます。
僕が携わったのは、2010年のオーストリア、2011年の旧ユーゴスラビアの5カ国、アドリア海の旅、2012年の南インドの旅の3つ。1万回を超す長寿番組の制作に携われて、とても誇らしいなぁっていつも思うんです。

僕はテレコムスタッフという制作会社に所属していますが、仕事内容を聞かれたときに、“『世界の車窓から』を作ってます”っていうと、みなさんが好きだと言ってくださって…。そんな番組に関われたことが、本当に嬉しくて。でもこれは、スタッフみんなそう。作っている僕たちがこの番組のことが大好きなんです。

取材期間は、国や鉄道にもよりますが、だいたい1カ月くらい。それを日本に持ち帰って編集、約2〜3か月分の番組になります。取材中の1カ月は、朝から晩まで撮影していてほとんど休みがありません。体力的にきつくても、それは全く苦じゃないんですよね。むしろ世界中を旅しながら、いろんな風景や人々に出会えるので、”楽しい!”という気持ちのほうが強いです」



ボスニア・ヘルツェゴビナでは、ヨーロッパと中東の景色が入り混じっているそう



豪華列車ゴールデン・チャリオットは、南インドの旅で登場



オーストリアの蒸気機関車に乗り込む宮部さん



旧ユーゴスラビアの旅では、銃弾の跡など内戦の爪痕も…

◆車窓からの風景だけじゃなくて
その国の文化や歴史、人々の営みも伝えたい

「僕はロケ取材に行く前には毎回、旅のしおりを作っています。窓から見える景色はもちろん、文化、経済状況、人々の生活事情も映し込みたい。だから列車の時刻表や取材国の歴史、政治などを本やネットで事前に調べれば調べておくほど、その国の背景を車窓の映像とともに紐とけると思うんです。

色濃く思い出に残っているのは、2011年に訪れた旧ユーゴスラビアのクロアチア、スロベニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロの5カ国の取材。ここは、1990年代〜2000年諸島まで紛争のあった地域で今は7つの国に分裂してしまったすごく複雑なところです。でも取材が決定するまで詳しくは知らなかった…。だから、この地域の歴史はすごく勉強していきました。それを知って行くのと知らずに行くのは全然違う。
特にボスニア・ヘルツェゴビナは、すごく美しい景色が見られるけど、建物には銃弾のあとや墓地もいっぱいあるのが印象的でした。自然豊かで美しい景色の映像とともにすごく激しい戦闘があった地域だということは、きっちり伝えていかないといけない、キレイだけではすませられないと思ったんです。

あといちばん苦労したのも旧ユーゴスラビアの“バール鉄道”の撮影でした。セルビアの首都ベオグラードとモンテネグロの主要港湾都市バールを結ぶ鉄道なんですけど、地上高200mの世界有数の橋“マラ・リイェカ橋”があるんです。列車がこの橋を通るときは、崖っぷちを走っているような状態だから、絶対にヘリコプターを使った空撮で撮りたくて、空軍に協力してもらいながら列車の時刻から飛行計画まで緻密に計算して、万全の体制で挑みました。

 でも、いざヘリコプターを飛ばしたら列車が駅で止まったっきり発車しないし、20〜30分上空で旋回していたら雨がぽつぽつと降り出して…。ガソリンも時間も限られているしピンチってときに、別の車両がやって来てどうにか撮ることができたんです!  気付いたら“やったー、撮れた!”って歓喜の声を上げましたね」



南インドの取材用しおり。宮部さんが入れたメモがびっしり!



空撮を協力してもらったモンテネグロ空軍との1枚



空撮に成功したバール鉄道。カメラマンは機体から身を乗り出してまで撮影に挑んだそう

◆みんな目的があって、鉄道に乗っている。
当たり前の日常こそが旅の魅力に

 「基本的にテレビ番組を作るには、撮影場所を決めるロケハンをしますが、『世界の車窓から』は出たとこ勝負、それがないんです。旅の臨場感やその場で感じたことを、いちばん大事にしています。世界中どこでもそうなんですが、列車に乗っている人は、みんな必ずなにかしらの目的を持っていて、それぞれ違う。だから、ちょっと聞いていると、思わぬ物語や感動があったりするんです。

 オーストリアの列車では、誰かの似顔絵を描いている子供たちをお母さんが笑顔で見守っている家族に遭遇しました。駅に着いて子供たちが歓声をあげて降りていった先には、おばあちゃんが待っていて、その顔がどことなく似顔絵に似ていたんですよね。なんてことない風景だけど、それだからこそ自分との思い出と重なってぐっときちゃって…。

 何気ない日常が今もどこかの国のいろんな場所で生み出されている。鉄道の旅だからこそ、偶然に人の日常に出会いやすいし、その当たりまえの大切さに気付けるんだと思います。

 これまで実は、“鉄道の旅”に興味がなかったんです。だけど、番組制作に関わりだしたら、鉄道の魅力にどんどんハマりましたね。取材でいったオーストリアのブルマウ温泉のファンタジーな世界観に惚れて、自分の新婚旅行に“鉄道の旅”を採用したくらい(笑)。今では“鉄道の旅”が大好きで仕方ないんです」



1987年6月から続く紀行ミニ番組。ひとつの国を約1〜3カ月かけてオンエア。番組スタート時からナレーションを務める俳優の石丸謙二郎は、長く愛される秘訣について「番組を変えなかった、いい意味のマンネリがあるからだと思います」と語っている。

テレビ朝日ほか(関東地区など一部地域で放送)
毎週月〜金曜 夜11:10〜11:15放送
ナレーター: 石丸謙二郎

TEXT/MAKI FUNABASHI