■女王イ・ボミ、新たなるチャレンジ(後編)

 イ・ボミ(27歳/韓国)のリオ五輪出場という目標は、日本ツアーの賞金女王獲得と同じく、一昨年亡くなられた父ソクチュさんとかわした約束でもあった。ゆえに、それを実現できずに終わったあと、いろいろな思いが駆け巡ったという。

「父と約束した日々を思い出したりもしましたね......。(五輪ランキングが確定する)全米女子オープン(7月7日〜10日/カリフォルニア州)を前にして、韓国選手の中での世界ランキングは7番目だったので、リオ五輪に出場するためにはそこで優勝でもしないと無理なのはわかっていました。その可能性は本当に小さくて、大きな賭けでした。でも、可能性がある限り、最後まで挑戦することはすごく大事ですから、そういう意味ではまたひとつ成長できたのかな、と思っています」

 また、かつて「韓国の選手にとって、"五輪"はどのような舞台なのか」という話を聞いたことがある。改めてそのことを問うと、イ・ボミは「韓国のスポーツ選手にとって、五輪という舞台に立つことはとてつもなく大きな"栄誉"」だと言って、自らの思いを代表となった選手たちに託した。

「どの種目でも、韓国の選手たちは"国を代表する"という思いが強く、そのことに大きな誇りを感じています。今回(女子ゴルフの)代表の座を勝ち取った選手、朴仁妃選手(28歳)、キム・セヨン選手(23歳)、エイミー・ヤン選手(27歳)、チョン・インジ選手(21歳)もそうです。皆、強いメンタルを持っていますし、ブラジルのコースにもすぐに対応できると思います」

 五輪出場をかけた戦いを終えて、イ・ボミは韓国の女子ツアーに3年ぶりに出場した。日本同様、韓国でも彼女の存在は注目の的となっていた。

 連日、ホールアウト後の記者会見に呼ばれ、テレビのインタビューにも毎日答えていた。プレー中は、日本と韓国のファンクラブの方々に限らず、多くのギャラリーが彼女の動向を見守った。それこそ、息つく暇もない状態だった。

 それは、無理もないことだった。昨年、日本で賞金女王になったあと、その活躍ぶりが韓国でも大々的に報じられた。結果、もともと人気選手だったのが、さらにその人気に火がついたのだ。

 おかげで、イ・ボミの組には相当な数のファンが列をなした。それは、韓国の女子プロ選手たちが「すごい数のギャラリーね!」と驚きの声をあげるほどで、"イ・ボミ人気"のすごさに誰もが舌を巻いていた。

 4日間の試合で、最終的にイ・ボミは26位タイに終わった。それでも、「韓国の試合に出るのは本当に久しぶりだったのに、こうして注目してくれることにはすごく感謝しています」と、韓国での日々を存分に楽しんでいたようだった。

 実はその大会中、思わぬ"事故"があった。それは、初日のホールアウト後の、テレビインタビューでのことだった。インタビュアーの質問に対して、イ・ボミがこんな第一声を発したのだ。

「やっぱり......」

 一瞬、耳を疑った。韓国語で聞かれながら、イ・ボミの口から咄嗟に出た言葉は日本語だったのだ。

 直後、「えッ!?(笑)」と声を上げたイ・ボミは、ひとりその場で大爆笑していた。周囲の韓国メディアやギャラリーは、ただただポカーンとした表情を浮かべているだけだった。

 その様子を見て、こちらも思わず噴き出してしまったが、イ・ボミの思考はもはや完全に"日本仕様"になっているのだろう。日本での強さ、日本で成功を収めた要因の一端が垣間見えた瞬間だった。

「韓国ツアーに久しぶりに来て感じたのは、私がどれだけ日本ツアーに馴染んでいたか、ということです」

 そう語ったイ・ボミに、「韓国語がすごくお上手ですね(笑)」とツッコミを入れると、「それ、韓国にいると本当によく言われます(笑)」と、可愛く頬を膨らませて笑った。

 母国に帰って、十分にリフレッシュできたイ・ボミ。今後の目標について聞いてみると、「成し遂げたい目標はたくさんあります」と言って、こう続けた。

「(今季は)早い時期に2勝目を挙げられたので、年間5勝を目指したいです。あと、自分でもすごく驚いているのですが、前半戦では平均ストローク『69台』を記録することができました。平均ストロークで『70台』を切ることは、まだ誰も達成したことのない領域なので難しいとは思いますが、後半戦もその数字を意識して、最後まで"70切り"を目指してみたいですね。

 連続トップ5の記録(現在、11試合連続と記録を更新中)は、意識しすぎると精神的にしんどくなるのですが、それもできる限りがんばっていきたい。賞金女王ですか? それについては、"獲る"ということは意識しないでやっていきたい。とにかく後半戦も、精一杯プレーするつもりです」

 この1カ月、五輪出場を目指して、最後まで諦めずにがんばってきたイ・ボミ。その非常に過酷で、厳しい戦いの中で、何かと神経をすり減らしてきた。その間は、「簡単な取材を受けることも、大きなストレスになった」と漏らす。

 しかし、難度の高い挑戦は、ひとまず終止符が打たれた。プレッシャーから解放された彼女が、今や完全なる"ホーム"の日本ツアーに戻ってくれば、再び大暴れしてくれることだろう。昨年に続いて、歴史を塗り替える快挙を果たしてもおかしくない。

text by Kim Myung-Wook