『ことば選び実用辞典』(学研辞典編集部:編/学研プラス)

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 「こんなとき…もっと的確に表現できる言葉があれば…」という体験をした読者は多いはずだ。ボキャブラリーの多さと知性は比例する。伝えたい気持ちや情報をそのまま適切な言葉に置き換えて話せる人は、会話のもどかしさも少ないだろうし、何より頭が良く見える。ところが、ボキャブラリーは簡単に増やせるものではなく、読書を重ねることでようやく増えていくが、それはちょっと面倒だ。「マンガも読書だ!」などと勘違いすると、「ガーン」「ドッカーン」「チーン」などの擬態語が頭の中に増えるばかりで、いよいよ知性から離れていく。そこで紹介したいのが『ことば選び実用辞典』(学研辞典編集部:編/学研プラス)だ。

 本書は「こんなとき…」にぴったりな表現がすぐに探し出せる辞書になっており、メール、俳句、ビジネス文書などのシーンで役立つシロモノだ。ポケモンGOにどハマリな世間。試しに本書で「探す」という意味合いを持つ言葉がどれくらいあるのか調べてみると、なんと19種類もあるという。Twitterで「ポケモン探すぜ!」とツイートするのも、本書にかかれば「我が家の敷地を脅かすポケモンめを仕留めるため、索敵行動を開始する」「マクドナルドにポケモンがいないか穿鑿(せんさく)した」「ポケモンGOをするにふさわしい地を探勝する」など、一味違うどや顔ツイートができるわけだ。

 本書は辞書だ。このまま他の「こんなとき…」にぴったりな表現を紹介してもいいが、それでは芸がない。そこで私が過去に体験した「こんなとき…」なワンシーンが、本書にかかるとどのように様変わりするか検証してみよう。

(1)以下は、私と先輩の会話だ。

先輩「最近仕事はどう?」

私「んー…ボチボチですかね」

 いつもこのような質問をされて、いつも同じような返しになっている。「良い」という意味合いでなんとかしたい。本書にかかると、こうなる。

先輩「最近仕事はどう?」

私「この前、卓絶した企画書を出しましてね。上々ですよ。」

 うーむ、一気に知性が増した。私ではない気がする。

(2)次は我が愛すべき友人がよく使う言葉を3つ翻訳してみる。まずは「ウケる〜」という表現。

私「あの2人、ようやく付き合ったらしいで」

友人「は? ようやく? 噴飯もの〜(ウケる〜)」

 次は「それな!」という表現。

私「あいつ本当に面倒なことばっかりするな。」

友人「同感するし、共感する!(それな!)」

「ヤバい」という表現も若者の言葉だ。さて、どうなるか。

私「この料理めっちゃウマい!」

友人「風味豊かで芳醇な酒を味わいつつ、肉を享受し、味得した(ヤバい)! マジで天下一品の佳味(マジでヤバい)!」

 私はこの友人と話すとき、もっと色々な表現を使ってほしいといつも思うが、やっぱり若者は若者らしくノリのある言葉で話した方がいいと思う。こんな友人は嫌だ。

(3)最後は、私が先輩にいじられているときのワンシーンだ。高速道路を走行中の車内で、突然先輩が私に向かって「お前はここで降りろ」と告げてきたのだ。無論、私は「イヤですよ!」を連呼した。そのときの「イヤですよ!」が、本書に載っている「断る」の意味合いを持つ言葉に置き換わるとどうなるか。

先輩「いのうえ、お前ここで降りろ」

私「そんなの拒否ですよ! 首がもげちゃいますよ!」

先輩「でもお前を積んでいる分、ガソリン食うから環境に良くない」

私「不承知ですよ! 死体作るのも環境に良くないでしょ! 却下ですよ!」

先輩「何? メシおごってやらんぞ?」

私「死んだらメシ食えへんわい! 拒絶だ! 拒抗してやる!」

…これはこれでアリかもしれない。

 仕事柄のため、私は言葉に関わる人間だ。これからも読者にとって、一驚で赫々な文章をお届けする心算だ。

文=いのうえゆきひろ