『一瞬の永遠を、きみと』(沖田円/スターツ出版)

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 消えることなく、心の中に永遠に生き続ける記憶がある。切なさも悲しみも喜びも、甘酸っぱい恋心でさえも、青春は気がつけばあっという間に通り過ぎてしまうが、生きる希望となるような思い出が、自分の進む道を照らし出してくれる。

 『一瞬の永遠を、きみと』(スターツ出版)は、出会ったばかりの2人の高校生の純愛ストーリー。本作は、「スターツ出版文庫」の第1弾『僕は何度でも、きみに初めての恋をする。』につづく、沖田円氏の第2弾となる作品だ。彼らの人生を変えた無謀な挑戦。次第に惹かれ合う2人と彼らを阻む残酷な運命に、私たちは思わず、涙を流さずにはいられない。

 舞台は、山と田んぼばかりの内陸のとある町。高校1年生の竹谷夏海は、学校の屋上から飛び降り自殺をしようとしているところを、その場に居合わせた藤原朗に話しかけられる。

「今ここで死んだつもりで、少しの間だけおまえの命、おれにくれない?」

 夏海は、朗の「海が見たい」という願いを叶えることになるが、電車で行っても何時間かかるかわからないのに、方法は自転車二人乗り。おまけに、朗は自転車に乗れないと言い張るから、自転車の運転は夏海担当。 何日かかるか分からない旅が始まったが、朗と過ごす時間のなかで、次第に、彼女は生きる希望を見つけ始める。だが、ふたりを待ち構えていたのは、つらく悲しい現実だった。

 天然なのか、純粋なのか、朗の言葉には、思わず、ドキッとさせられる。

「おれは何も持ってないし知らないんだ。だから夏海がいなきゃダメなんだ。おれはひとりじゃなにもできない」

 「海に行きたい」という朗はあまりにも無鉄砲。夏海はただひたすら振り回され続ける。真夏の太陽の下で、厚いベージュのカーディガンを羽織って腕まくりもせず、涼しげな表情を浮かべる朗。触れると、びっくりするほど身体は冷たく、肌は透けるように白い。そんな彼を後ろに乗せて、あれこれ言い合いながら、2人は海を目指していく。

 朗はなぜ海に行きたいのだろうか。この旅の果てに何が待っているのだろうか。素直に人に助けを求めようとする朗と、人に迷惑をかけてはダメと強がってばかりいる夏海。正反対のようにみえる2人は、足りないものを互いで満たし合い、励まし合いながら、旅を続ける。

「海が遠いのも、夏が暑いのも、誰かを求めるのも、抱き合う温かさも。教えてくれたのは、全部夏海だ。何も知らない空っぽだったおれに、夏海が全部教えてくれたんだ。おれの全部は夏海でできてるんだよ」

 死ぬつもりだった夏海は、この旅で何を得るのだろう。何が得られるかなんて分からない。ただ、朗の思いを叶えたい。夏海はただひたすら自転車を走らせ続ける。

 誰かに愛し愛されるということの喜び。必要されることの幸せ。別れの悲しみと、希望。たった3日間とは思えないほど濃厚な夏海と朗の冒険から、今を真剣に生きることの大切さが伝わってくる。『セカチュー』『キミスイ』に匹敵する純愛小説は、この作品と言って過言ではないだろう。とびきり暑い夏にぴったりの甘酸っぱくも切ないこの作品は、今に悩むすべての人に読んでほしい物語だ。

文=アサトーミナミ