『怒っていい!?』(矢野惣一/ヒカルランド)

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 喜怒哀楽のうち、「怒」は最も扱いが難しい感情。怒りを感じても、「相手を傷つけてしまうかも…」「反撃されるかも…」という不安が頭をよぎり、グッとこらえている人も多いはず。すぐにキレる人というのは、自分の怒りをコントロールできない幼稚な人に見えてしまいがち。そんなわけで、私たちはなるべく怒りから目をそむけようとする。しかし、飲み込んだり無視したりした怒りは、消えてなくなることはない。じわじわと腹の中に蓄積してしまうのだ。心理療法家の矢野惣一による『怒っていい!?』(ヒカルランド)では、そんな嫌われ者の感情である「怒り」にスポットライトを当てている。

 いつも心穏やかでいたいと願っていても、怒りの種は学校に、職場に、家庭に、街中にバラまかれている。何があっても怒らない人格者を目指している人もいるかもしれない。そんな人格者になれたら、周りからも大切にされて平和な毎日を送れるのだろうか。本書の冒頭では、病気により脳の怒りを感じる部位の機能を失った男性のエピソードが語られている。多くの人が憧れる「怒らない人」になった彼は、尊敬されて幸せな毎日を送った…かと思いきや、いろいろな人から騙され、金品を奪われ破産してしまったそうだ。さんざんである。

 著者は言う。

「怒りは、あなた自身とあなたにとって大切なものを守るためにある感情です」

 私たちに怒りの感情が備わっているのには、ちゃんとした理由がある。原始時代、肉食獣が襲ってきたら、小さな子どもを守るため戦わなくてはならなかった。戦うためには、瞬時に膨大なエネルギーを必要とする。脅威から大切なものを守るために、怒りは瞬時に湧いてくるシステムになっているそうだ。肉食獣に襲われる危険のなくなった現代でも、人とのコミュニケーションにおいて怒りは重要な役割を果たすという。たとえば、怒りを表現することで、相手から再び傷つけられないよう自分を守ることができる。また、相手が何に対して怒っているかを知ることで、相手の守りたい大切なものを知ることができる。怒りはけっしてマイナスな感情ではなく、うまく扱えば人間関係にもプラスに働くというわけだ。

 本書では「怒れない人」と「怒りっぽい人」、それぞれのタイプ別に怒りの表現方法を紹介している。怒れない人向けでユニークな方法は、鏡に向かって怒る顔を練習するというもの。鏡に向かって笑顔の練習をするのはよく聞くが、怒った顔は初耳だ。これがやってみるとなかなか難しい。自分では怒った顔のつもりでも、頬がふくらんで口がとがった「拗ねた顔」になってしまう。著者は、怒りと拗ねは別物であると指摘する。怒りが自分で自分を守るための感情である一方、拗ねは相手に自分を守ってもらおうとする感情であるという。いくら拗ねた顔をして周りにアピールしても、放っておかれるだけで状況は好転しないのだ。本書では、相手の行動=アクションだけに言及するアクショントークと、「私」を主語にして要求を伝えるIメッセージを身につけることをすすめている。この方法であれば、自分も相手も傷つけることなく怒りを表現することが可能となる。

 一方、怒りっぽい人は「怒りを抑える方法」を知っておくことが大切だと説いている。怒りは発散すれば治まるのではなく、怒れば怒るほど脳も興奮して怒りが止まらなくなってしまう。身に覚えがある人も多いのではないだろうか。後から後悔しないためにも、深呼吸をして怒りのエネルギーを抜く、その場を離れるなどの対処をして怒りを爆発させないようにしたい。本書で紹介しているのが、「エンプティチェア・テクニック」という心理療法。椅子に相手が座っていると思って、相手の目で自分を見てみるという方法だ。この方法によって相手の立場で考えられるようになり、一方的に相手へ怒りをぶちまけるのを防ぐことができる。

 著者によると、私たちが怒りを表現するまでには次のような5つのステップを経ているらしい。

(環境情報入力)→(イメージ)→(思考)→(感情)→(行動)

 自分にとって好ましくない結果となったときは、5つのポイントをどこか変えるだけで次からは異なる結果が得られるようになるという。本書には、誤解によりママ友から無視されるようになってしまった女性、上司のパワハラに黙って耐えている男性、元いじめられっ子でリストラされた男性の3人が登場する。怒りを表現することに抵抗があった3人が、著者のメソッドにより、怒りとどのように向き合ってどのような結末を迎えたか、本書を読んでぜひ確かめていただきたい。

文=ハッピーピアノ