写真提供:マイナビニュース

写真拡大

日本国内における各種研究費について紹介してきた本連載。今回は番外編として、個人事業主として研究を行う「独立系研究者」の小松正さんにお話を伺いました。生態学や進化生物学が専門の小松さんですが、組織に属さず一体どのようにして研究を進めているのでしょうか。

――小松さんは組織に属さない「独立系研究者」として活動されていると伺いました。普段はどういった形でお仕事をされているのですか。

独立系研究者とは、ひとことでいうと個人事業主としての研究者です。個人事業主なので、企業や大学、NPOなどのプロジェクトを個人で契約し、研究統括や実験計画、データ解析などといった研究に関する業務の委託を受けて、その研究チームに入るという形をとっています。システムエンジニアやプログラマの方など、IT系などの分野ではよくある働き方ですよね。弁護士や会計士なども、個人の専門家として働いていらっしゃる方は多いです。業務スタイル自体は特別なものではありませんが、サイエンスの世界でこういった形式で働いている人はあまり例がないので、イメージが沸きにくいのかもしれません。

――たとえば現在ではどんなプロジェクトに参加されているのでしょう。

海洋生物の身体に取り付けて行動関連データを記録するバイオロギングデバイス(データロガー)の開発に関わっています。これは、独立したときからお付き合いのある大学発ベンチャーの方たちとの共同研究なのですが、ハードウェア、ソフトウェアのスペシャリストたちと、私の専門である生物学の知見をつなげることで何かできないかと考えたところから始まったプロジェクトです。

このプロジェクトでは、まず6年前に北海道・函館にある財団の助成金に応募して約200万円の資金を獲得し、予備実験を行いました。その結果をもとに、中小企業向けの助成金である経済産業省の「戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)」に応募したところ採用され、2011〜2013年度で約1億円の助成金を得ることができました。2014年に製品化に成功し、現在は経済産業省の「ものづくり・商業・サービス革新補助金」をもとに、量産化技術の開発を進めています。

――組織に所属していない個人として、そういった助成金を獲得することは可能なのでしょうか。

科研費には「奨励研究」といって一個人として応募できるものもありますが、私としては個人名で助成金に応募したことはありません。では、どのようにしているかというと、研究プロジェクトを主催している大学の客員研究員という肩書きを一時的に作成し、その肩書きを使って応募するのです。民間企業の場合は、執行役員などといった柔軟性の高いポジションに入れてもらっています。

――なるほど、プロジェクトに対してではなく、大学や企業との間で契約を結べばよいということですね。大学や企業への営業活動は行われていますか?

積極的な営業活動を意識して行ったことはほとんどありませんが、結果的に営業としての機能を持ってしまったものを営業と呼ぶのであれば、四六時中が営業活動ですね(笑)。学振研究員(PD)まで北海道・札幌市にいましたが、2001年に東京の民間の研究所に就職し、上京しました。東京で、北海道時代の知人のネットワークに参加するうちに、生き物に関連した相談事をいただけるようになり、それが次第に業務に結びつくようになったのです。当初は、土日や夜などに副業として対応していましたが、数が増え、プロジェクトの内容が発展してきたため、37歳のときに独立開業しました。

――生き物に関連した相談事や業務というのは、そんなにたくさんあるものなのでしょうか。

知人のネットワークにおいて私は、「生き物の専門家」「データ分析に詳しい人」というような認識を持たれているようで、そもそも業務として具体化できていない段階で相談を受けることが多いです。でも確かに、具体化できるくらいだったら組織の内部に詳しい人がいるはずですよね。それ以前の段階でつまづいているところに、私のニーズがあるようです。また、中小企業では研究開発資金に余裕がなく、お金の出所も含めて困っている人が多いので、助成金の獲得に関するコンサルティングのようなことも同時に行っています。

――「生き物」「データ分析」「助成金」が小松さんのキーワードなんですね。

しかしながら、私は自分のことをあくまで研究のプレイヤーだと思っています。漠然とした相談事をどう具体化するかというところで、研究として自分の興味のあるように仕立て上げるのです。やはり、資金を調達できるようなプロジェクトを提案するには、専門家でないと厳しい。そうであれば、自分の専門と関連づける形にすればよいというわけです。

――独立系研究者として活動されているなかで、デメリットに思われることはありますか?

面倒だなと思うのは、論文の入手に手間が掛かるということですね。基本的には自分の事務所にいることのほうが多いので、大学内からアクセスしないとダウンロードできないものなどを入手するには少し面倒です。逆にいえば、それくらいしかデメリットはないと考えています。今ではオープンアクセス誌も普及してきているので、昔に比べると論文の入手も容易になりましたしね。

――独立系研究者として、学生や若手研究者の方にアドバイスがあれば教えてください。

研究者として生きていくことを中心に考えるのならば、独立系研究者は選択肢のひとつとして現実的なものになってきているのではないでしょうか。

独立系研究者としての仕事を獲得するには、相手の職業や専門分野、興味・関心についての情報を得て、それらと関連付けて自分の専門分野を説明できるようにしておくことが大切です。その際、自分の専門分野にだけ詳しくても、相手との会話を展開することはできません。自分の専門分野と同等のレベルで知識を身につけることは難しいかもしれませんが、関連する事柄についてある程度理解しておくことで、さまざまな人とコミュニケーションをとることができます。

私は昔から、自分の専門と関連するさまざまな話題に触手を伸ばして、相手の興味との関連付けを行うことが多かったように思います。こういうことを意識しないで普段からやっている人は、独立系研究者に向いているのかもしれませんね。

研究者プロフィール
小松正 (Tadashi KOMATSU)
独立系研究者/小松研究事務所代表
1967年北海道札幌市生まれ。1998年北海道大学大学院農学研究科農業生物学専攻博士後期課程終了。博士(農学)。日本学術振興会 特別研究員(PD)、言語交流研究所 主任研究員を経て、2004年に独立。専門は、生態学、進化生物学、実験計画法、データマイニング。多摩大学情報社会学研究所客員准教授および東京家政大学非常勤講師を兼任。

(周藤瞳美)