大正14(1925)年に生まれた91歳の角田照子(つのだ・てるこ)さんは、40歳を過ぎてヨーガに魅せられ、現在は東京と埼玉の2ヵ所でヨーガ教室を開いている。2年前には、88歳にしてヨーガの実践書『図説 しあわせヨーガ 健やかに美しく齢を重ねるために』(めるくまーる)を執筆。今でもほぼ毎日ヨーガの指導を続けている、バイタリティいっぱいの角田さんに聞いた。

40歳を過ぎて出会ったヨーガの恩師

――角田さんは幼い時から、ヨーガや健康に関するお仕事に興味を持っていたのでしょうか?

角田照子さん(以下、角田):ヨーガと出会うのはもっと先ですが、幼少期からそれに通ずる経験はしていたと思います。私の娘時代は戦争中で生活がとても厳しかったですし、未婚女性で構成された「女子挺身隊」に連れていかれて工場で働かされたこともありました。そんなつらい時にも、山に登ったりして自然の雄大さにたくさん触れていました。その頃から自然は大好きだったんです。

また、当時は保育園もなかったので、よくおばあさんに預けられていました。おばあさんにお寺参りに連れていってもらっていたせいか、幼い頃から死について考える機会がありました。なので、お釈迦様や仏教が生まれた国で、かつヨーガ発祥の地であるインドには淡い憧れを持っていた気がします。そうした体験があったので、仏教思想と関係が深いヨーガの世界にも自然に入っていったのかな。

――ヨーガに出会ったのはいつでしょうか?

角田:40歳を過ぎた頃です。当時は専業主婦をしていました。夫の知人に、芥川賞候補にもなった小説家兼ヨーガ研究家の広池秋子さんという方がいらっしゃいました。30歳半ばに大ケガをして不調が続いて困っていたところ、広池さんが「ヨーガ禅」を提唱していた佐保田鶴治先生を紹介してくださったのです。ヨーガを行えば身体の不調もよくなるのではないかということでした。

佐保田先生はもう亡くなりましたが、インド哲学の専門家で大阪大学名誉教授でした。お仕事を定年退職された後にインド人からヨーガを教わったところ、もともとの虚弱体質がピタっと治ったんです。それを機に「ヨーガ禅」を日本に広めるべく、「日本ヨーガ禅道友会」を創設されました。私は48歳の時に、設立されたばかりのその会に入りました。

――そして、今のようにヨーガを教える立場になられた。

角田:先生のもとでヨーガを教わっていた50歳くらいの頃、先生の推薦で教師の資格をいただいたんです。今は試験があって資格を得るのは厳しいのですが、当時は推薦でもらえました。その後、東京信用金庫で開かれていた「東信ヨーガ禅教室」で37年ほど指導し、同時に埼玉・浦和に開いた「埼玉ヨーガ禅道友会」でも教えていました。

88歳の時、高齢のため東信ヨーガ禅教室の退任が決まったのですが、生徒さんたちに惜しまれて新たに板橋で教室を開くことになりました。今は長男の息子にもいろいろと協力してもらいながら、浦和と板橋を行ったり来たりしながら平日は毎日午前・午後の2レッスン、土曜日は午前中の1レッスンをこなしています。最近は地方で教える機会をいただいて、北海道から九州まで各地に出向いています。本当にヨーガ三昧の生活です。

ひとりになった時こそ、人生を充実させるチャンス

――佐保田先生のヨーガのどこに惹かれたのですか?

角田:最近、若い女性の間ではやっているのは、ダイエットや美容とつながった、アメリカナイズされたヨーガです。それもいいと思いますが、私が続けてきた佐保田先生提唱のヨーガは、精神のあり方に重点を置いたもの。私が惹かれたのも、その点でした。ヨーガで身体のプロポーションがよくなることも幸せのひとつですが、心身の両面で幸せになるという点が、先生のヨーガの深くて素晴らしいところなんです。

先生は「誰の心の中にも仏様や神様の分身がいる。だから生きているうちに、ヨーガによってその分身を表に出しなさい」というお考えでした。そうすることで身体は健康になり、心は優しくて穏やかになります。さらに、‘虻遒呂罎辰り行うこと、動作に呼吸をつけて行うこと、上の空で行わないこと、ざ枋イ斑亟砲鯆艦造気擦襪海函この4つの原則を守りましょう、と。これらは誰でもひとりで簡単にできます。だから、たとえひとりだとしても人生を豊かにしながら、深く幸せに生きていくことができるのです。

――角田さんのクラスには元気な70代、80代の女性も多いそうですね。

角田:はい、たくさんいらっしゃいます。みなさんプロポーションがいいのでオシャレをしてあちこちに出かけたくなるんだそう。そのせいか、みなさんますます元気ですね。旦那さんがいなくても、外に出て、お友達と一緒に楽しいことができる喜びを感じていただいているようです。

ヨーガの研修を兼ねてインドへは20回以上行っていますが、今年のお正月も、クラスのみなさんと一緒に行きました。私は旅が好きで、7、8年前にはヒマラヤにも登りましたよ。来年はイタリアに行こうかしら、と。

佐保田先生がかつてこうおっしゃっていたんです。「高齢者がこれから増えていく中で、国や家族のお世話にならずに自立してひとりでも生きていけるようにならないといけません」と。91歳の私が元気で健康な心と身体を持っているのは、ヨーガのおかげですね。私を見ると、「ヨーガをやると100歳まで元気でいられるんだな」と思ってもらえるかな。

欲に囚われなければ幸せになれる

――今後の目標はありますか?

角田:本当に今までやりたいことを十分やらせてもらいました。あとは、家族やまわりの人が幸せに生きていってくれたらと思うくらいですね。ただ、私くらいの年齢になると死が近づいてきます。“死”をどう考えていくかは今後の課題かもしれないです。

生前、佐保田先生は私に、「死ぬと肉体はなくなるけど、魂は先に逝った人のもとへ行く。だから死は怖くない」と言ってくれました。その2年前、私が60歳くらいの時、次男に先立たれてしまい、失意のどん底だったので、この言葉にはとても救われました。今年、インドのアジャンター石窟群を見に行ったら、壁画に先生がおっしゃったことがそのまま描かれていたんです。私も死んだら息子、夫、そして父や母が待つところに行けるんだと感じられたから、死は怖くないかな。

ヨーガは「死」と「善い生き方」を考えてくれます。生きている間は自分に与えられた仕事を精いっぱいやることが大切だと教えてもらいました。だから私にとっては、ヨーガを一生懸命にみなさんにお伝えして、お役に立つというお仕事をしていることが、本当の幸せなんです。

――最後に20代、30代の女性にアドバイスをお願いします。

角田:生きていく中で「これをやってみたい!」と強く思えるものが見つかるのはとても幸せなことです。損得勘定なしで生きがいとして追求していけるもの。それに出会うためにはいろいろな場所に出かけていったり、たくさんの人に会ったりして経験を積む必要があります。

今の若い方は考え方がすごく進んでいますし、私の娘時代とは違って自由もあるけれども、その分ストレスも大きいのかな。恋愛や見た目の美しさ、手に入れたい物など、欲望は満たされたらいいけれども、満たされなかったり、囚われたりするととても苦しい。ヨーガはその欲望に囚われてはいけないと教えています。私もそのことをヨーガを通じて身につけました。今の若い人にも、欲望をなくしていく「離欲」が必要なのではないでしょうか。

(石狩ジュンコ)