なでしこジャパンは21日のスウェーデン代表との試合(0−3)から移動を含む中2日で、ダームアルスヴェンスカン(スウェーデン女子リーグ)のクリシャンスタッドDFFとテストマッチを行ない、2−0で勝利を収めた。

 スウェーデン戦メンバーから5人を入れ替え、システムは4−2−3−1へ変更。それぞれが新たなポジションや役割を担った。ボランチには熊谷紗希(リヨン)と佐々木繭(仙台L)、トップ下に阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)。永里優季(フランクフルト)はこれまでと逆サイドの右サイドハーフに入った。なでしこ初招集の國澤志乃(AC長野)に至っては、前日の紅白戦で、守備全般を担当する大部由美コーチにほぼ付きっきりで、左サイドバックの動きを叩き込まれての初挑戦となった。

 対戦するクリシャンスタッドは上背があり、フィジカル的には日本が不利だが、そうは言っても主導権を握ることはできるだろう――と、思われていた。ところがフタを開けてみると、クリシャンスタッドのラインコントロールや当たりの厳しいチェックを前に、日本は立ち上がりからFKやCKの連続で攻め込まれる。

 ようやく形になったのは18分、右サイドバックの有吉佐織(日テレ・ベレーザ)のクロスに、前線へ永里が走り込んだ場面だった。30分を超えたあたりから、日本がボールをバイタル付近にまで運ぶ場面が増えたが、クロスの精度も悪く、フィニッシュまでこぎつくことができない。それでも、阪口のスルーパスを、永里を介して横山久美(AC長野)がフィニッシュした35分と、44分に再び有吉のクロスに田中美南(日テレ・ベレーザ)をひとつ飛ばして、ファーサイドの横山が合わせようとした場面は確かにゴールの匂いが漂った。

 後半は布陣を4−4−2へ。運動量と機敏性のある中里優(日テレ・ベレーザ)と増矢理花(INAC神戸)を投入。すると50分、阪口からパスを受けた中里が左サイドからドリブルで仕掛け、相手DFをフェイントでかわしてゴール。ようやく日本が先制点を手にした。

「入る前からボールを持ったら積極的に行こうと思ってました。今日はサイドハーフだったので攻撃の形は出せたと思う。本当はスウェーデン戦で決めたかった......」と、中里はなでしこ初ゴールの嬉しさと複雑な思いを垣間見せた。

 追加点が入ったのは75分。有町紗央里(仙台L)の強烈なシュートがクロスバーを叩き、跳ね返ったところを千葉園子(ASハリマ)が押し込んだ。途中出場の2人が決めたゴールだった。この後も最後まで日本ペースで進んだ試合は2−0でテストマッチながらもようやく初勝利を手にした。

 しかし、同時に手放しで喜べない勝利でもあった。クリシャンスタッドは、なでしこジャパンと対戦するということでハイプレスで仕掛けてきていたとはいえ、今シーズンはリーグ最下位と低迷しているチーム。「圧倒したかった」と厳しい表情を見せた高倉監督の言葉通り、圧倒した上で、目指す攻撃スタイルを表現しなくてはならない試合だった。

 特に前半、表現できなかった要因のひとつは動きのないパス受け渡し。スウェーデン戦での最大の敗因として"動きながらのパス"の欠如があった。中2日と限られた時間であっても、動くこと、思考を止めないことを意識したトレーニングが行なわれていたが、強めのプレッシングがあると動きがピタリと止まってしまった。ボールだけが動く展開に、有効なスペースは生まれず、寄せられてミスパスを奪われる繰り返し。

 時折ロングフィードやDF裏を狙った縦パスが繰り出されたが、ことごとくオフサイド。その数10本。これだけ引っかかればゴールが遠いのも致し方ない。アメリカ、スウェーデンと強豪を相手にしての連敗以上に、監督のこだわる攻撃を表現するまでにも至っておらず、それ以前のところでブレーキがかかっていると言わざる得ない内容だった。

 止める、蹴る、のシンプルな技術は必須だ。高倉監督がこだわる攻撃スタイルには"動きながらパスを受ける"ことが最低条件にある。残念ながらこれを体現できている選手は数名、片手ほどしかいないのが現状である。今だからこそ、根本的な個の技術向上に取り組まなければ、何も構築することはできないだろう。

 このスウェーデン遠征は、先月のアメリカ遠征とは異なる試みでスタートした。それが4−1−4−1のシステムだ。

「この形は難しいとわかっているけど、今しかチャレンジできない」(高倉監督)と、あえてこの時期に取り組んだ。高倉監督は型にハメることを嫌う。重要なのは4−1−4−1という視野だ。

 今回のアンカーは熊谷が担った。この位置で必要になるのは、熊谷の長所である1対1に強い守備力と、新たな資質として直接攻撃を組み立てる"さばき"だった。

 ここでキーになるのが阪口だ。4−1−4−1の視野の中でも状況によって阪口が下がれば、4−4−2にも4−2−3−1にもなり得る。彼女のポジション取りひとつで変幻自在な布陣ができる。高倉監督の構想では、阪口は高い位置でプレーさせたい。となれば、中盤の底を誰が見るのか。熊谷だけでなく、誰が担おうとこのバランス感覚は容易に身につくものではない。しかし、攻撃の幅は確実に広がるだけに、この形も捨てがたい。現在は前めの選手が個性豊かであることから、つい阪口が引いてしまいがちになる。

「もう体に染み込んでしまっている(苦笑)」と阪口本人も感じている長きに渡って培われたボランチ感覚。その彼女の感覚に救われていることも事実で、下がれば抜群の安定感を生み、上がれば驚異の攻撃力となる。阪口を高い位置で生かすことができる人材の台頭が切望される。

 明るい材料として筆頭にあげたいのが佐々木の成長だ。スウェーデン戦では右サイドハーフとして、テストマッチではボランチとしてスタメンを勝ち取った。スウェーデン戦では熊谷のシュートを促したように、パスで味方を生かしたかと思えば、次の場面では最前線に顔を出してフィニッシャーにもなる。ボランチに位置しながら前後に動き、阪口からのDF裏への縦パスにも反応してみせた。

 今年2月、U-23で臨んだラ・マンガ国際大会が初の大舞台という真っさらな選手だけに吸収力はチーム1。ピッチを離れれば、ぽわんとした普通の女の子という印象だが、ひとたびピッチに入れば真逆の姿に変わる。クレバーで、テクニシャン。判断力、戦術理解度も高い。「ああいう選手が11人揃ってほしい」と高倉監督も賛辞を贈るほど。

「ボールを簡単にはたけるときもあって、次の選択肢を持てることが多くなった」と佐々木本人も手応えを掴んでいる。アメリカ遠征では左サイドバックで世界トップレベルのスピードに圧倒されていた佐々木。正直に言って、あのアメリカ戦では彼女の強みを感じ取ることはできなかった。それでも指揮官がチャンスを与え続ける理由がどこにあるのか注目していただけに、このスウェーデン遠征での成長で合点が行った。

 阪口、永里、有吉、熊谷といった経験値のある選手に、今後を見据えた若手をどう成長させていくか。最大の有力選手層は今秋にU-20女子ワールドカップで世代別連続世界制覇を狙うU-20女子代表メンバーだ。彼女たちは、初めての国際大会を経験するU-16年代から高倉・大部ペアの指導を受けている。おそらく、現在なでしこジャパンの面々が四苦八苦している高倉イズムを最も色濃く表現できるのは彼女たちだろう。

 今秋の連覇への挑戦が終われば、彼女たちは満を持してなでしこジャパンに本格参戦するはず。そうなれば、経験値のあるなでしこの選手たちでさえ、高倉イズムの理解度ではU-20世代に追い越される可能性もある。

「私が描きたい画をU-20の選手たちはある程度持っている。どう混ぜていくか。どこかで決断しないといけない」(高倉監督)

 2カ月連続の海外遠征を経て、噴出した課題に生半可な取り組み方をしていては、指揮官の愛弟子たちはいとも簡単に今のなでしこジャパンを追い抜いていくだろう。競争が激化することは必至なだけに、次の招集までの自己への向き合い方で明暗が分かれそうだ。

早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko