『ココロノセンリツ♪』(有安杏果/太田出版)

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 有安杏果はなぜか推したくなる。かくいう筆者も、あーりんこと佐々木彩夏をきっかけにももいろクローバーZ(以下、ももクロ)を好きになったはずが、いつのまにか「ちょっぴりおバカな小さな巨人」に心を奪われたひとりである。

 自分の記憶を振り返れば、きっかけは2013年5月28日に横浜アリーナで行われた、ももクロのファンクラブである「ANGEL EYES」の限定イベントだった。しおりんこと玉井詩織がセットリストを担当したライブで、有安のソロ曲『ありがとうのプレゼント』で見せたけなげな姿、そして、心にしみる歌声からなぜか「頑張ってほしい」と願い始め、もっといえば「自分が推してあげなきゃ」という気持ちがふつふつとわいてきたのを覚えている。

 結成から8年を迎えたももクロ。いまや国立競技場や全国各地でのドームツアーを実現させるほどの、怪物級のアイドルになった。アイドル冬の時代をぶち破った存在であり、とりわけ2010年代のライブを軸とするアイドルブームの先駆者であったのはいうまでもない。

 来歴をたどると、有安は、現在のメンバーであるリーダーの百田夏菜子、玉井詩織、佐々木彩夏、高城れにに遅れての途中加入だった。ちょうど彼女たちのインディーズデビュー曲『ももいろパンチ』のキャンペーン中、全国のヤマダ電機をハイエースひとつで巡るという、今では彼女たちの“伝説”として語り継がれるエピソードのさなかだった。

 グループ内ではとりわけ、歌唱力とダンスに定評のある有安。幼少期にはEXILEの育成組織「EXPG」でパフォーマンスを磨いてきた過去もあり、ひとたび客席からその立ち居振る舞いを見れば、有安の真髄は誰もが感じ取れることでもある。

 グループへの加入から7年目を迎えた今年。有安は7月3日に横浜アリーナで自身初のソロライブ「ココロノセンリツ♪ 〜Feel a heartbeat〜 Vol.0」を実現。そして、先行して販売された公式パンフレット『ココロノセンリツ♪』(有安杏果/太田出版)には、ライブの1年以上前から直前までの有安直筆の日記、ロングインタビューを通して彼女のパフォーマンスへかける思いが秘められていた。

 インタビューのテーマとなるのは「有安杏果と歌」である。グループへの加入後ものどを痛めて、活動からあえなく離れたこともあるが、本書では小6の終わりに「声帯結節」の手術を受けたと明かしている。

 声帯結節とは、声帯にポリープが発生して声がかすれてしまう症状だ。有安は本書の中で、手術を決断した理由を「とにかくガラガラ声だったのがすごくコンプレックスだったの。それが嫌だったから、迷わず手術を受けたんだと思う」と述べるが、当時から、みずから付けていた日記には「歌いたい」「伝えたい」という言葉がはっきりと刻まれていたという。

 そして、初めての手術から2年後。中2になった有安は、初めて“人前で歌う”という体験を味わう。ダンスボーカルグループ「Power Age」に加入していた有安は、秋葉原の石丸電気でステージへと立った。じつは、ちょうどこのときももクロも同じ舞台に立ち、佐々木と共にランカ・リーの『星間飛行』を歌ったという。

 当時を振り返って有安は「すごく不思議な感じだった」と回想する。その理由は「お客さんとの距離」で、ステージと客席が一体となる中で「お客さんから『ももかぁ〜!』って声をかけてもらったのは、あのときがはじめてだったので、すごく新鮮な感覚だった」と話している。

 この体験が有安の原点となっているのは、想像にたやすい。そして、ももクロのメンバーとして多くの人たちを魅了するようになった少女は21歳となった今年、横浜アリーナでのソロライブへと挑んだ。

 タイトルの「ココロノセンリツ♪」に込められたのは「私の心の旋律をみんなの五感で感じてほしい」という思い。その真意は、有安自身が他のアーティストのライブで味わった経験からで「はじまる前からライブ中もずっと、心臓が高鳴って鼓動と脈が速くなるんだけど、その鼓動が脈打つ感じを、ライブでみんなと一緒に感じたい」という願いから来ている。

 当日は、ライブの副題と同様の『feel a heartbeat』をはじめ、有安が作詞や作曲を手がけた楽曲が披露された。ナンバリングが「Vol.0」だったのは、有安自身が「2016年7月3日が、すべての基準点でプロローグ」と位置づけていたからである。「ももクロがなかったら、今の私はいない。それをわかったうえで、あえて『ももクロと違うこと』をやりたい」と決意した先で、有安は「『Vol.1』『Vol.2』と続けていきたい」と“新境地”への期待を込める。

 そして最後に、じつは、本書には有安の“過去と現在をつなぐ”仕掛けが施されている。「7月3日のソロコンが終わるまで開けないでね!! 杏果」とシールの貼られた封筒の中身は、実際に目にしたファンの心にきっと響いているはずである。

文=カネコシュウヘイ