『プロ野球「名言妄言」伝説1200』(スポニチ隠しマイク/さくら舎)

写真拡大

 スポーツ観戦が好きです。最近は男子バレー(国内リーグ)ばかり追っている私ですが、現地へ足を運んで見る、という習慣の入り口になったのはプロ野球でした。劇的な勝利に居合わせた時には、翌日のスポーツ新聞を買うのが、楽しみで楽しみで! この気持ち、野球ファンの方ならわかっていただけるのではないでしょうか。

 プロ野球に限った話ではないと思いますが、活躍を報じる記事がスポーツ新聞に載ると、そこには各紙の記者が取材するなかで得た、選手たちの“いい話”が織り込まれていることも多いですよね。不振の時期もベンチを盛り上げていただとか、裏方さんやご家族への感謝の言葉だとか…スコアやデータからはうかがい 知ることのできない裏話が、サラリと記されていたりして。ここがまさに、スポーツ新聞の魅力といえるでしょう。

『プロ野球「名言妄言」伝説1200』(スポニチ隠しマイク/さくら舎)は、毎日新聞系のスポーツ新聞であるスポニチ(スポーツニッポン)の人気コーナー「隠しマイク」から、珠玉のショートコラムを集めた1冊。1990年から2015年までの間に掲載された、選手やスタッフの本音が垣間見える逸話を、実に1200も収録しています。大きな記事にするほどの内容ではないけれど、選手の人柄が滲んだ言葉たちは、ファンにとってはまさに垂涎モノ。技術や戦術だけではない、プロ野球の楽しみ方を示してくれるコンテンツなのです。一例を挙げますと…。

ノーヒットノーランを達成した中日・山井に顔が似ていると評判のヤクルト・田中浩は、報道陣から「ノーヒットノーランおめでとうございます」と声を掛けられて「ああ、どうも。こんな感じでいい?」

 中日の山井投手とヤクルトの田中内野手の顔はそっくり、というネタは、プロ野球ファンにはお馴染みでしょう。田中選手ご本人もそういった弄り方に慣れていらっしゃるのか、サラリと、しかし律儀にコメントしていらっしゃるのが微笑ましい一幕です。

 本紙では一度に5、6ほどのエピソードが掲載されるこの「隠しマイク」ですが、こうして一気に読むと、また違った印象を受けるもの。リラックスした雰囲気と真剣勝負との間に漂う、独特の空気感…何かに似ていると思ったのですが、ひょっとしたら、球場の「通用口」を覗くような感覚かもしれません。そこにいる選手たちは、勿論プロとして野球をしているのですが、ふざけ合う姿やちょっと間の抜けた部分など、テレビ中継で見ているだけではわからないような人間くささがにじみ出ているところを見てしまうと、改めてその存在じたいに魅かれてしまいます。

 欲をいえば、それぞれのトピックに掲載日を添えてほしかったかなと…。おおよそ新しいものから順に並んでいるとは思うのですが、内容や表記によっては、「うわあ、これ何年前のことだろう!」なんて、気になってしまうんです。例えば…。

髪が伸びたことを指摘されたヤクルト・高井は「目標は赤西です」。ジャニーズでなく名投手を目指してください。

 今やスワローズの中軸打者となった雄平(高井雄平)外野手。投手として入団され、野手転向にいたるまでも紆余曲折があったようですから、投手時代を思い出させるこんな話題には感慨深いものがあります。投手登録だったのは2009年シーズンまでですから、6年以上前の話になるでしょうか。せめて西暦だけでも書き添えてあると、ファンも記憶を辿りやすいと思うんですが…。比較的古い話題を読んでいますと、当時のユニフォームや贔屓チームの調子、球場で知り合ったファン仲間の顔など、野球の思い出に浸る“時間旅行”をしたくなるんです。スポニチさん、第2弾があるようでしたら、そのあたりをぜひご検討いただきたく…!

 しかし、本当にあの「隠しマイク」を抜き書きしただけの本が、ここまでオモシロいとは! 前書きも後書きも何もない、潔い編集。それでもこの本が売れているのは、同コーナーが長年にわたり、野球ファンに愛されてきた証でもあるでしょう。読み応えたっぷりの1冊、夏の観戦遠征のお供にもいかがでしょうか。

文=神田はるよ