『Pokémon GO』公式サイトより

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 いま、世界中で大ブームになっている任天堂のスマートフォンゲーム「ポケモンGO」。今月22日に日本国内でもローンチされるや否や大きな社会現象に。テレビや新聞などのマスメディアもその"熱狂"を連日報じるなど乱痴気騒ぎだ。

 このポケモンGOブームに便乗して、さっそく党勢拡大に利用し始めたのが安倍自民党だ。

 菅義偉官房長官は国内配信の始まった22日の会見で、「我が国のコンテンツが海外も含めて幅広く親しまれていることは非常に歓迎することだ」と述べ "日本礼賛言説"を称揚した。内閣府のセイバーセキュリティーセンターも「ポケモントレーナーのみんなへおねがい♪」なる注意喚起のチラシをしたり顔で公開。また自民党の金子恵美衆院議員にいたっては、ブログで「議員会館の私の部屋にもポケモンがいました!」と人気ポケモン・ゼニガメとのツーショット写真を投稿する有様だ。

 安倍政権によるポケモンGOの政治利用は、こういう"アピール"だけにとどまらない。

 すでに、自民党のネット監視、世論工作のキーマンである平井卓也衆院議員率いるIT戦略特命委員会は、ポケモンGOを地方創生に活用するよう、任天堂や運営会社の米ナイアンティックなどに協力を求めることを明言している。平井議員は「一種の社会貢献ができるゲーム」だと述べているが、レアなポケモンを政府や自民党関係施設、イベント等に恣意的に配置すれば、巨大な宣伝につなぐことができる。

 事実、その"露骨な仕掛け"を想起させる事案も明らかになっている。たとえば、ゲーム内で永田町の自民党本部はアイテムを入手できる「ポケストップ」の一つに指定されており、そこには自民の看板入りの写真とともに、説明文として「自由民主党 永遠の与党」との表示まである。他方、野党の民進党本部はテナントビルの名称が表記されるだけで党名すらない。米ナイアンティックはポケモンGOのシステムの元になったゲームアプリの情報が引き継がれていた可能性があるとしており、この件については自民党の直接的関与は薄そうだが、しかし、こうしたポケモンGOを使った"広報の仕掛け"はいくらでも可能だ。

 実際、安倍政権以外にも、たとえばイスラエルのルーベン大統領が自身のFacebookで「誰か警備員を呼んでくれ」というコメントとともに、ゲーム内の大統領官邸にポケモンが現れたことを投稿している。そして、こうした政治権力のアピール合戦をメディアは嬉々として報じる。その危険性にまったく触れることなく、だ。

 さらに、このポケモンGOをめぐる報道では、もうひとつ、日本のメディアのどうしようもなさを痛感させられる事態が起きている。それは、長引く内戦に巻き込まれているシリアからの悲痛なメッセージを無視、もしくは歪曲してしまった問題だ。

 先週、シリアで西側の支援を受ける活動家や反体制派の統一組織である「シリア国民連合」が、ポケモンのイラストを手に持った現地の子どもたちの写真を発表。可愛らしいピカチュウの絵の下には、「助けに来て」という叫びが刻まれていた。

 また、自身も難民であるシリア人グラフィックデザイナー、サイフ・ターハンさんは、ポケモンGOを模した架空のゲーム「シリアGO」の画面を作品として公開した。これは、先進国でポケモンを探す代わりに、衣料品や学習のための教科書など、いま実際にシリアで必要なものを紛争地で見つけ、モンスターボール(ポケモンを捕縛する玉)で捕まえるというゲームだ。

 これらはSNS で一気に拡散し、世界中で大きなニュースになった。欧米各国の主要メディアもこぞって、このメッセージを取り上げ、改めてシリアの子どもたちの惨状をクローズアップした。

 ところが、日本のテレビや新聞はこのメッセージをほとんど報じなかった。また、これらを取り上げたニュースも、多くは「シリアでもポケモン人気を使って子どもたちの惨状を訴える動きがあった」という表層的なものだった。

 しかし、シリアから発せられたメッセージは、たんなるポケモンを使ったPRなどではない。ポケモンGOブームへの批判的な意味合いも込められたものだ。たとえば、これを報じた英BBCは、ウェブサイトの日本向けの翻訳記事で、このように記している。

「ポケモンの絵を掲げた子どもたちの写真は、ソーシャル・メディアで多くの人が共有した。そこに込められたメッセージは次のようなものだろう。不思議な想像上の生き物を追いかける暇があるなら、なぜ、戦火の下で大きくなる子どもたちを助けに来ないのだと」

 また、ゲーム「シリアGO」を公開したターハンさんのこんなコメントも記されている。

「(みんながいま熱中している)ポケモンの代わりに、シリア問題やシリア人が直面する苦難に関心を持ってもらいたいと思って制作したんです」

 実際、シリアの子どもたちの現実を知ったら、「ポケモンGO」どころではないのは明らかだ。ユニセフは今年3月の報告で、シリアの子どもの80パーセントにあたる40万人が内戦の影響を受けていると発表した。これによれば、推定370万人、すなわち3人に1人の子どもが内戦の後に生まれているとされている。また、昨年には軍や武装勢力に徴用される子どものうち15歳未満の子どもが半数を上まわり、戦闘参加や武器運搬などをしているという。

 戦地の子どもたちがポケモンの絵を掲げるのは、まさにBBCがいうように「不思議な想像上の生き物を追いかける暇があるなら、なぜ、戦火の下で大きくなる子どもたちを助けに来ない」という訴えに他ならない。それは同時に、「なぜ世界のメディアは私たちの現実を無視しているのか」という報道機関へのメッセージでもある。

 しかし、たとえば日本のNHKはこれをどう報じたか。「NHK NEWS WEB」の見出しは「ポケモンGOの人気を利用してシリアで支援の呼びかけ」。ネットニュースも含めて、他の報道もほとんど同じトーンだった。ようするに、日本発祥のポケモンGOがとくに欧米先進国で大ブームを巻き起こしているという"日本スゴイ!"文脈のなかで、"戦地でもポケモンが"とハシャいでいるにすぎないのだ。......平和ボケとはまさにこのことを言うのだろう。

 テレビや新聞などのマスメディアが、「ポケモンGOブームスゴイ」的な報道をまったくしてはならないとは言わない。だが、報道機関には、何をどう伝えるべきかという順序と深度がつねに求められているはずだ。そして、それはなにより"一番の弱者"に寄り添うためのものでなければならない。彼らにはそれができるだけの金も体力もある。

 しかし、彼らはそのもっとも重要なことを伝えなかったばかりか、ブームに乗っかるあさましい官邸や政権与党のPRを嬉々として垂れ流している。

 いま、この瞬間も、大人の戦争によって子どもたちが殺されている。一刻でも早く止めなければならない。そんな現実すら伝えなくなってしまった彼らにはもう、報道機関としての矜持も、使命も、期待してはいけないのだろうか。
(小杉みすず)